インド;カシミール地方分離独立運動リーダーの死去を契機に同地方を封鎖【米メディア】(2021/09/03)
カシミール問題(注後記)は、核開発競争と相俟って、インドとパキスタン間の関係改善を妨げる最大要因となっている。そしてこの程、インド政府は、親パキスタン派でカシミール地方分離独立運動を指揮してきたリーダーが死去したことに伴い、反政府運動激化を懸念して同地方を封鎖する措置を講じた。
9月2日付
『AP通信』:「インド、カシミール地方分離独立運動リーダーの死去を契機に同地方を封鎖」
インド政府は9月2日、親パキスタン派として長くカシミール地方分離独立運動を指揮してきたシェド・アリ・ギーラニ師(享年92歳)が9月1日に死去したことに伴い、反政府運動の活発化を懸念して、同地方を封鎖し、デモ等の禁止はもとよりほとんどの通信手段を遮断する措置を講じた。
故ギーラニ師の息子であるナシーム・ギーラニ氏が『AP通信』のインタビューに答えて、遺族の要望を無視して、インド政府が、出席者を極端に制限して質素な葬式を手配し、また、遺体を田舎の粗末な墓地に埋葬したという。...
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9月2日付
『AP通信』:「インド、カシミール地方分離独立運動リーダーの死去を契機に同地方を封鎖」
インド政府は9月2日、親パキスタン派として長くカシミール地方分離独立運動を指揮してきたシェド・アリ・ギーラニ師(享年92歳)が9月1日に死去したことに伴い、反政府運動の活発化を懸念して、同地方を封鎖し、デモ等の禁止はもとよりほとんどの通信手段を遮断する措置を講じた。
故ギーラニ師の息子であるナシーム・ギーラニ氏が『AP通信』のインタビューに答えて、遺族の要望を無視して、インド政府が、出席者を極端に制限して質素な葬式を手配し、また、遺体を田舎の粗末な墓地に埋葬したという。
遺族としては、故人の遺志に基づいて、同地方主要都市のシュリーナガルにあるイスラム教徒殉教者の墓地に埋葬したかったが、インド当局によって阻止されたという。
同氏は、“インド警察が父の遺体を無理やり持ち去ったあげく、遺族の誰も故人の葬式に立ち会えなかった”とし、“抵抗する我々に有無を言わせず、女性に対しても狼藉をはたらく程ひどいものだった”と糾弾した。
『プレス・トラスト・オブ・インディア』(1947年設立のインド最大の通信社)報道によると、政府関係者がギーラニ師遺体を埋葬し、反政府運動につながることを懸念して、集団による盛大な葬式も禁止したという。
更に、カシミール地方のほとんどが封鎖され、警察や軍隊が街を見回り、また、多くの幹線道路・橋・交差点には鉄製のバリケードや鉄条網が張られて交通が遮断されている上、街や村の境界に検問所が設けられて移動制限が講じられている。
また、集団抗議活動を防ぐため、携帯電話のネットワークやインターネットも遮断されている。
かかる取り締まりに反抗して、シュリーナガルの少なくとも3ヵ所で数十人の若者グループが抗議行動を起こしたが、警察及び軍隊によって催涙ガス攻撃を受けて鎮静化させられた。
故ギーラニ師は、カシミール地方をパキスタンに併合するようインド政府に求める活動を指導してきていたが、政府側の度重なる暴力的仕打ちを受けて、対話ではなく実力行使が必要と説いていた。
一方、パキスタン政府は9月2日、イムラン・カーン首相(68歳)の指示の下、公式に喪に服す日と定め、半旗を掲げた。
そして、外務省は、遺族や関係者の立ち合いを認めずに故人を埋葬したことを非難する声明を発表した。
同声明によると、“パキスタンは、カシミール地方の偉大なリーダーの遺体を、遺族らから奪い去るというインド警察の蛮行について強硬に非難する”と言及している。
なお、インド政府はこれまで、数々のカシミール地方の反政府運動について、パキスタン政府が反逆分子に武器供与等の支援をしていると糾弾していた。
9月3日付インド『ジ・インディアン・エクスプレス』紙(1932年創刊の英字紙):「シェド・アリ・ギーラニ師の埋葬、警察は遺族を立ち会わせなかったとのクレームを否定」
故ギーラニ師の次男のシェド・ナシーム・ギーラニ氏は、数人の警官が夜中に自宅に押し掛けて遺体を無理やり運び出した上で、遺族を立ち会わせないまま勝手に埋葬したと非難した。
同氏は『ジ・インディアン・エクスプレス』のインタビューに答えて、“夜中に突然押し掛けた警察官らに対して、午前10時に埋葬したいと告げたにも拘らず、午前3時ごろ、強制的に遺体を持って行ってしまった”と語った。
これに対して、ジャンムー・カシミール州警察は、“親戚が埋葬に立ち会った”として当該クレームを否定した。
同警察のビジェイ・クマール監察官は、“報道されているような非難は全く根拠がない”とした上で、“遺体を悪党どもが奪い去る恐れがあることから、警察側で安全に対応した次第であるし、親戚も埋葬には立ち会っている”と反論した。
一方、ギーラニ師が指導していたパキスタン本拠の活動家グループ代表のアブドラー・ギーラニ氏は9月1日夜、故人の遺志に従って、遺体はシュリーナガルの殉教者墓地に埋葬すると発表していた。
(注)カシミール問題:インド亜大陸の北西部に位置するカシミール地方の領有をめぐるインドとパキスタン間の領土紛争。英領インド時代のカシミールは藩王国であり、藩王はヒンドゥー教徒で藩民の約5分の3がイスラム教徒という、藩王と藩民の宗教上の食い違いが現代に至るカシミール問題の出発点。四度に及ぶ印パ戦争など、印パが対立する最大要因となっている。パキスタンは、英領インドのイスラム教徒多住地域をもって建国され、イスラム国家の理念を掲げていることから、イスラム教徒多住地域のカシミールが自国領となるべきだと主張。一方、インドは、総人口の約8割がヒンドゥー教徒であっても、カシミールが国内にあることで、国是ともいうべき政教分離主義を喧伝できるため、領土分割に応じていない。
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インドの新感染症患者激増、ヒンドゥー教の沐浴祭りが原因との非難の声【米メディア】(2021/05/05)
インドでは、1日当たりの新型コロナウィルス(COVID-19)感染者が30万人超となる日が13日連続しており、病床や医療用酸素吸入器の不足で犠牲者も1日当たり3千人超と深刻化している。都市封鎖やワクチン接種開始で、感染が抑え込めていたとみられるのに、再び急激に増えた原因は、感染力の強い変異株ウィルス蔓延もあるかも知れないが、3密の最たる例となった世界最大規模のヒンドゥー教の祭り(クンブ・メーラ、注1後記)開催に因るところが大きいとの声が上がっている。
5月3日付
『リリジョン・ニュース・サービス』(1934年創刊の宗教関連専門紙):「インドでCOVID-19感染激増し、クンブ・メーラ開催許可の当局に非難の声」
インドにおけるCOVID-19感染拡大が深刻化しており、その原因と考えられる、クンブ・メーラ開催を許可した中央及び州政府に対して、非難の声が上がっている。
ただ、クンブ・メーラはヒンドゥー教の聖なる儀式でもあり、ナレンドラ・モディ首相(70歳)の支持基盤であるインド人民党(注2後記)にとって、重要な祭りでもある。...
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5月3日付
『リリジョン・ニュース・サービス』(1934年創刊の宗教関連専門紙):「インドでCOVID-19感染激増し、クンブ・メーラ開催許可の当局に非難の声」
インドにおけるCOVID-19感染拡大が深刻化しており、その原因と考えられる、クンブ・メーラ開催を許可した中央及び州政府に対して、非難の声が上がっている。
ただ、クンブ・メーラはヒンドゥー教の聖なる儀式でもあり、ナレンドラ・モディ首相(70歳)の支持基盤であるインド人民党(注2後記)にとって、重要な祭りでもある。
今回、インド北部のハリドワール(ウッタラーカンド州)で開催されたクンブ・メーラは、2010年以来開催された宗教行事である。
本来、2022年開催となるはずだが、カーセッジ大(1847年設立、ウィスコンシン州の文系私立大学)のジェームス・ロクテフェルド宗教学教授(63歳)によると、“クンブ・メーラは、木星の周期に則って開催されるが、実際の公転周期は11.86年なので、約100年に一度ずれることになり、それが今回2021年に開催されることになった”という。
また、ハリドワールの聖職者母体ガンジス院のプラディープ・ジャー代表は、“今年開催されることは、COVID-19事態発生のはるか以前に決まっていた”とした上で、“公転に合わせた開催時期を勝手に動かせるものではなく、むしろ、COVID-19が解消するまで、この宗教行事を全うする必要がある”と強調している。
ただ通常、同行事は年初から4ヵ月続くが、COVID-19感染流行より、当局が当該行事開始を4月1日からの1ヵ月間と短縮を決めている。
それでも、1月以降のべ900万人余りが集まってきているとみられ、正規に開催された4月以降600万人が参加したと言われている。
そこで、エマーソン大(1880年設立、マサチューセッツ州私立大学)人類学・宗教・多国間研究専門のテュラシ・スリニバス教授は、“クンブ・メーラが、沐浴、食物の共有、長期間の共同生活を伴うものなので、感染拡大を引き起こすことが必至であり、当局は同行事への参加を禁ずるべきであった”と批判している。
ウッタラーカンド州のトリベンドラ・シン・ラワット首相は、クンブ・メーラの規模縮小を要望していたが、同行事運営母体のナレンドラ・ギリ代表が、州政府の支援などなくとも、クンブ・メーラは本格的に開催すると宣言したことから、同首相は3月9日に辞任に追い込まれている。
そして、後任のディーパック・ラワット首相が、“クンブ・メーラは、オリンピックなどと違い、占星術に基づいて開催される重要な行事”だとした上で、3月14日に“クンブ・メーラを厳粛に行う”との声明を発表した。
すなわち、期間短縮するものの、4月1日から30日の同宗教行事催行の間、参加の信者に“不都合となること”はさせないし、ガンジス川での沐浴も“禁じない”と約束した。
ただ、政府は同時に、COVID-19感染防止対策として、事前の検疫、体温測定の実施とともに医療サービスの提供も準備した。
しかし、4月1日以降、クンブ・メーラが実施された同州のCOVID-19新規感染者は急増を続けた。
同行事開催の可否について問題視されたラワット新首相は、防疫基準に則って行事が行われ、かつ、COVID-19陰性者のみしか参加できないようにしたとして問題はなかったと強調した。
ところが、同行事の風景写真を見る限り、数千人がマスク不着用でガンジス川に入っており、しかも、ソーシャルディスタンシングも全く確保されていない。
なお、スリニバス教授によると、“クンブ・メーラの歴史を紐解くと、過去1783年、1895年、1906年に開催された際にコレラ等の深刻な疫病が爆発的に流行している”とし、“インドを統治(1858~1947年)していた英国は、疫病蔓延とクンブ・メーラの関りをよく理解していて、ハリドワールのガンジス川流域では、沐浴の場所を広げ、混雑を緩和した上で同行事の日程を細かく把握して実施させていた”という。
(注1)クンブ・メーラ:ヒンドゥー教徒が集まり聖なる川で沐浴を行う大規模なヒンドゥー教の宗教行事、巡礼。これは世界最大の平和的な集会と考えられており、2013年にイラーハーバードで開催されたマハー・クンブ・メーラでは期間中に一億人の人出。クンブ・メーラは3年ごとにハリドワール、イラーハーバード、ナシク、ウッジャイン の4か所を持ち回る形で開催される。従って、それぞれの場所では12年ごとの開催。
(注2)インド人民党:1980年設立のヒンドゥー至上主義政党。党員数が1億1千万人超で、中国共産党を上回り世界最大。
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