シリアの和平交渉がスイスのジュネーブで行われているが、反政府軍の停戦合意違反
や、これに伴う人道支援物資の輸送の停滞などから、現在は和平交渉は凍結状態に
なっている。このような状況下で、イギリス、続いてドイツを訪れているオバマ大統
領はイギリスでは、米国がシリアに駐在中の陸軍を最終的には撤退する方針であるこ
と、また、次の滞在先であるドイツではNATO(北大西洋条約機構)におけるドイツの
役割増を求めたことが明らかになった。これにより、いよいよ米国が東欧で、ロシア
と対峙する意向が世界に示されたことになるが、イギリスはEU離脱をめぐって国内に
脆さを抱え、ドイツはTTIP(環大西洋貿易パートナシップ)や米国によるメルケル首
相の盗聴問題などから関係はギクシャクしており、米国が思い描くような東欧への軍
事配備が実現するのかは不明である。各メディアは次のように報じている。
4月24日付
『BBC』(英)は、イギリスを訪問中のオバマ大統領が、軍事的支援のみで
は、シリアが抱える問題を解決するのには不十分であるとして、この先シリアに駐在
する陸軍を撤退する方針であることを明らかにしたと報じる。オバマ氏はアサド政権
を転覆させるのは方針としては間違っているとしたうえで、今後はアサド政権関係者
らの辞職を求めていく方が賢明であると語っている。シリアの問題は大変複雑で、軍
事的手段のみにたよらず、国際社会の協力が必要と語る。そのためにもアサド政権の
後ろ盾になっているとされるロシアやイランが速やかに交渉に臨み、政権移行につい
て話し合うべきだとする。
また、シリアで活動するIS(イスラミック・ステイト)に関しては、オバマ大統領在
任中の根絶は不可能としつつも、残り9か月の任期中にISの規模縮小を図ることは可
能と述べた。そのためにもISの拠点とされるラッカへの攻撃は継続して行う必要があ
るとした。
同日付
『タイムズ・オブ・イスラエル』(イスラエル)では、米国は2011年にはアサ
ド政権の追放を求めていたが、昨年には振り上げた拳を半分降ろし、政権のスムーズ
な移行のためにもアサド政権関係者は辞職すべきと主張するようになったことを取り
上げている。この5年間のシリアの内戦により少なくとも25万人、おそらくは50万人
の犠牲者が出ているという。また、この内戦により、ご存知の通りヨーロッパには前
代未聞のレベルの難民流入が起こり、ISの台頭を許す結果となった。オバマ政権は何
とかしてシリアの安定を図り、ヨーロッパに安定をもたらしたい意向であることがう
かがえる。
4月25日付
『ニュース・ドットコム・オーストラリア』(オーストラリア)ではオバ
マ大統領がイギリスの次の訪問先であるドイツで、メルケル首相と会談したことを取
り上げている。両国はオバマ大統領が政権を離れる来年1月までにはTPPIが最終合意
に至ることでは合意したものの、ドイツの経済担当大臣によれば、ドイツはアメリカ
に対し大幅な譲歩を求めており、前途多難だという。また、冒頭でも触れた通り、
2013年にはNSA(米国国家安全保障局)によるメルケル首相の携帯電話盗聴が明らか
にされており、ドイツのアメリカに対する不信感は強い。東欧への軍事配備強化に関
し、オバマ大統領は経済大国であるドイツに協力を求めているが、ドイツがこれに応
じる可能性はあまり高いとはいえない。外交政策分析を行うドイツのシンクタンク
「外交ドイツ評議会」のブラムル氏は「アメリカはドイツに対し、ヨーロッパでの
リーダーシップや経済力の発揮を期待している。しかし、それならばやはりドイツと
アメリカは協力関係といよりもライバルだといえる。そうでなければ、アメリカはド
イツに対し盗聴などのスパイ行為を働くはずはない」とコメントしている。
シリアからの難民流出に歯止めをかけ、余力を東欧に配備しようというアメリカの壮
大な計画はどこまでうまくいくか。
閉じる
3月も半ばが過ぎ、民主党、共和党とも最終候補が絞られつつあるが、民主/クリントン候補、共和/トランプ候補とも一歩抜け出しているとは言え、過半数獲得までにはまだ先が長い。中東のメディがこれまでの予備選の動きについて、どう報道しているかみてみたい。
3月17日付イスラエル
『ザ・タイムズ・オブ・イスラエル』紙の報道記事「トランプ陣営、クリントン候補は犬のように吠えるだけと批評」:
「・共和党はトランプ候補、民主党はクリントン候補に絞られつつある中、それぞれ敵対する党の候補に対する非難合戦。
・トランプ候補の公式インスタグラムに掲載された動画では、プーチン大統領と黒装束のイスラム戦闘員を登場させ、“民主党が我々の敵”とするテロップを流し、次にクリントン候補が犬のように吠え、それをプーチン大統領が嘲笑う映像を掲載。...
全部読む
3月17日付イスラエル
『ザ・タイムズ・オブ・イスラエル』紙の報道記事「トランプ陣営、クリントン候補は犬のように吠えるだけと批評」:
「・共和党はトランプ候補、民主党はクリントン候補に絞られつつある中、それぞれ敵対する党の候補に対する非難合戦。
・トランプ候補の公式インスタグラムに掲載された動画では、プーチン大統領と黒装束のイスラム戦闘員を登場させ、“民主党が我々の敵”とするテロップを流し、次にクリントン候補が犬のように吠え、それをプーチン大統領が嘲笑う映像を掲載。
・クリントン候補も直近の演説で、トランプ候補が示す主張、経験、政策などを酷評。」
同日付カタール
『カタール・トリビューン』紙の報道記事「イスラエルはトランプ大統領でも大丈夫?」:
「・ネタニエフ首相が今年望む最大の願いは、イスラエル政府と友好関係を築ける候補が米国の新大統領に選出されること。
・直近8年間、同首相とオバマ大統領とは、対イラン政策、イスラエル支援等でことごとく対立。
・そして今回の民主党候補も、サンダース氏は同首相の米議会での演説をボイコットしたし、クリントン氏にいたっては、夫のクリントン大統領時代から痛い目に遭わされ、同候補がオバマ政権で国務長官時代も何かと敵対するといった、散々な思い出ばかり。
・では、共和党の有力候補のトランプ氏はどうかというと、同首相としては、発言に一貫性がないことに不安;例えば、イスラム過激派イスラミックステートを撲滅すると言ったかと思うと、あれは米国には関係ないのでロシアに任せればよいと言い出すし、また、イスラエル・パレスチナ和平交渉についても、仲を取り持つような発言をしたかと思うと、“ニュートラル(どちらの肩も持たない)”な立場で臨むと言い出す始末。
・更に、共和党のどの候補も、イスラエルにとって忌むべき“イラン核合意”に反対を唱えるも、トランプ氏はそれを潰すとまで言い切らないもどかしさ。
・従って、同首相にとっては、クリントン氏であろうとトランプ氏であろうと、どちらが大統領になっても、(オバマ政権時代と同様)イスラエルの立場が擁護されない4年、もしくは8年間になると懸念。」
同日付トルコ
『デイリィ・サバ』オンラインニュースの報道記事「大統領選候補、イスラエル支持団体の年次総会で支持訴え」:
「・3月20~22日に開催される、米・イスラエル政治問題委員会(AIPAC、注後記)の年次総会には、大統領選全候補が招待されているが、今のところクリントン候補もトランプ候補も参加を表明。
・これまでどの候補も、(イスラエルが最も望んでいない)“イラン核合意”に反対を表明しているものの、大統領選を前にして、同総会では、更に突っ込んで、どれ程イスラエルを支援しているかとの演説が求められており、各候補にとっては厳しい踏絵。」
同日付イラン
『イラン・デイリィ』英字紙の報道記事「銃規制活動家、トランプタワー玄関前でトランプ候補の政策を非難」:
「・トランプ候補が発した、銃で人を撃った後でも、大統領選に出馬するとの暴言に怒った銃規制活動家らが3月16日、(不動産王の代名詞でもある)同候補所有のトランプタワー前で、非難する抗議運動を展開。
・活動家らは、毎日90人(年間約3万3千人)が銃の犠牲になっており、これ以上銃を野放しにすることは許されないとシュプレヒコール。
・同候補は、米国のイスラム教徒やマイノリティに対して攻撃的な発言を繰り返していることから、政治評論家は、最終的には同候補が共和党の代表候補に選出されることはないと予想。」
(注)AIPAC:1953年に設立された、米国において強固な米・イスラエル関係を維持することを目的とするロビースト利益団体。米国において、全米ライフル協会をも上回る影響力のあるロビー団体と言われる。全米50州で10万人の会員数。AIPACの政治目標は、ハマスに率いられたパレスチナ自治政府の孤立化、イランの核兵器保有の防止、中東における唯一の民主主義国家としてのイスラエルの支援等。
閉じる