既報のとおり、オバマ大統領は、自身の政策を批評してきたトランプ次期大統領の就任前でも、ロシアによる大統領選時のサイバー攻撃についてプーチン大統領を名指しで非難したりと、退任直前まで自身の政策を貫徹しようとしている。そしてこの程、国連安全保障理事会に提議されたイスラエル非難決議についても、従来のイスラエル擁護の立場上の“拒否権発動”を止め、“棄権”したことから、賛成多数で同非難決議採択を許した。当然のことながら、トランプ氏はもとより、イスラエルのネタニヤフ首相も猛反発している。
12月25日付米
『Foxニュース』(
『CNNニュース』配信):「イスラエル、ネタニヤフ氏がオバマ氏を非難したのに続いて、駐イスラエル米大使を召還」
「●イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は12月25日、国連安全保障理事会に提議されたイスラエル非難決議について、米国代表が棄権したために同決議が採択されたことに対して、オバマ政権に猛抗議。
●国連安保理は12月23日、イスラエルのウェストバンク(編注;ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区)への入植活動を即時停止するよう求める決議が、安保理メンバー14ヵ国の賛成多数で採択。...
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12月25日付米
『Foxニュース』(
『CNNニュース』配信):「イスラエル、ネタニヤフ氏がオバマ氏を非難したのに続いて、駐イスラエル米大使を召還」
「●イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は12月25日、国連安全保障理事会に提議されたイスラエル非難決議について、米国代表が棄権したために同決議が採択されたことに対して、オバマ政権に猛抗議。
●国連安保理は12月23日、イスラエルのウェストバンク(編注;ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区)への入植活動を即時停止するよう求める決議が、安保理メンバー14ヵ国の賛成多数で採択。
●これを受けてイスラエル政府は、駐イスラエルのダニエル・シャピロ米大使を召還した他、同決議に賛同した安保理メンバー10ヵ国(日・中・英・仏・ロ・アンゴラ・エジプト・スペイン・ウクライナ・ウルグアイ)の大使も召喚。
●更にネタニヤフ首相は閣僚会議の席上、オバマ政権はこれまでの米・イスラエル関係を無視し、反イスラエル勢力と結託して、今回の非難決議を採択せしめたものだとコメント。
●なお、国際人権監視団体によると、ウェストバンクでイスラエルが進めた入植地建設地域に、イスラエル人が既に50万人以上居住。」
同日付英
『ザ・サン』紙:「イスラエル、国連安保理の非難決議に反発して国連への拠出金停止措置」
「●ネタニヤフ首相は、親イスラエルのトランプ氏が大統領就任前に、オバマ政権が裏で操った“恥ずべき”決議だと猛反発。
●その上で同首相は、イスラエルの国連との関係を見直す必要があるとして、同国の国連機関宛拠出金約3,000万シェケル(630万ポンド、約9億円)の支払い停止を指示。
●更に、同非難決議案を共同提議したニュージーランドとセネガルに駐在するイスラエル大使を召還した上で、セネガルに対しては開発援助金の拠出を停止すると発表。」
同日付フランス
『AFP通信』:「ネタニヤフ氏、国連決議案に棄権したことに抗議して駐イ
スラエル米大使を召喚」
「●米国は1979年以降、イスラエルの入植地建設問題について拒否権を行使してきたが、今回の非難決議に対して初めて(拒否権を行使せず)棄権。
●同決議案は、ウェストバンク及び東エルサレムのパレスチナ自治区におけるイスラエル入植地建設は“違法行為”であるので、即時中止を求めるとの内容。
●今回の決議では国連による制裁条項は含まれていないが、イスラエル高官は、(入植地建設について)国際刑事裁判所に提訴される可能性があることと、何ヵ国かが個別の制裁を科す動きに出ることを憂慮。
●一方、国連決議直前までイスラエル支援に動いていたドナルド・トランプ次期大統領は、“国連については、(大統領に就任する)1月20日以降事態は変わる”とツイート。」
12月26日付イスラエル
『ザ・タイムズ・オブ・イスラエル』オンラインニュース:「国連
決議採択はオバマ政権の差し金との“確かな情報”があるとイスラエル高官発言」
「●イスラエル首相府のデイビッド・キース報道官は12月25日、今回の国連安保理のイスラエル非難決議採択に当っては、オバマ政権の差し金があったとの“確かな情報”があるとコメント。
●これに対して米大統領府のベン・ローズ副補佐官(国家安全保障担当)は、イスラエルの抗議内容は全く事実無根のことで、ただ、イスラエルの入植地建設問題は看過できない程になっており、(決議案に対して)拒否権を発動することはできないと判断したと表明。
●ネタニヤフ首相は12月25日、召喚したシャピロ米大使と40分余り面談し、米国の今回の対応について詰問。
●同首相はこれに先立ち、非難決議採択に賛成した12ヵ国の安保理メンバー国の駐イスラエル大使も召喚して同様に詰問。
●更に同首相は12月24日、(賛成票を投じた)ウクライナのヴォロディーミル・フロイスマン首相のイスラエル訪問受け入れを直前キャンセル。」
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シリアの和平交渉がスイスのジュネーブで行われているが、反政府軍の停戦合意違反
や、これに伴う人道支援物資の輸送の停滞などから、現在は和平交渉は凍結状態に
なっている。このような状況下で、イギリス、続いてドイツを訪れているオバマ大統
領はイギリスでは、米国がシリアに駐在中の陸軍を最終的には撤退する方針であるこ
と、また、次の滞在先であるドイツではNATO(北大西洋条約機構)におけるドイツの
役割増を求めたことが明らかになった。これにより、いよいよ米国が東欧で、ロシア
と対峙する意向が世界に示されたことになるが、イギリスはEU離脱をめぐって国内に
脆さを抱え、ドイツはTTIP(環大西洋貿易パートナシップ)や米国によるメルケル首
相の盗聴問題などから関係はギクシャクしており、米国が思い描くような東欧への軍
事配備が実現するのかは不明である。各メディアは次のように報じている。
4月24日付
『BBC』(英)は、イギリスを訪問中のオバマ大統領が、軍事的支援のみで
は、シリアが抱える問題を解決するのには不十分であるとして、この先シリアに駐在
する陸軍を撤退する方針であることを明らかにしたと報じる。オバマ氏はアサド政権
を転覆させるのは方針としては間違っているとしたうえで、今後はアサド政権関係者
らの辞職を求めていく方が賢明であると語っている。シリアの問題は大変複雑で、軍
事的手段のみにたよらず、国際社会の協力が必要と語る。そのためにもアサド政権の
後ろ盾になっているとされるロシアやイランが速やかに交渉に臨み、政権移行につい
て話し合うべきだとする。
また、シリアで活動するIS(イスラミック・ステイト)に関しては、オバマ大統領在
任中の根絶は不可能としつつも、残り9か月の任期中にISの規模縮小を図ることは可
能と述べた。そのためにもISの拠点とされるラッカへの攻撃は継続して行う必要があ
るとした。
同日付
『タイムズ・オブ・イスラエル』(イスラエル)では、米国は2011年にはアサ
ド政権の追放を求めていたが、昨年には振り上げた拳を半分降ろし、政権のスムーズ
な移行のためにもアサド政権関係者は辞職すべきと主張するようになったことを取り
上げている。この5年間のシリアの内戦により少なくとも25万人、おそらくは50万人
の犠牲者が出ているという。また、この内戦により、ご存知の通りヨーロッパには前
代未聞のレベルの難民流入が起こり、ISの台頭を許す結果となった。オバマ政権は何
とかしてシリアの安定を図り、ヨーロッパに安定をもたらしたい意向であることがう
かがえる。
4月25日付
『ニュース・ドットコム・オーストラリア』(オーストラリア)ではオバ
マ大統領がイギリスの次の訪問先であるドイツで、メルケル首相と会談したことを取
り上げている。両国はオバマ大統領が政権を離れる来年1月までにはTPPIが最終合意
に至ることでは合意したものの、ドイツの経済担当大臣によれば、ドイツはアメリカ
に対し大幅な譲歩を求めており、前途多難だという。また、冒頭でも触れた通り、
2013年にはNSA(米国国家安全保障局)によるメルケル首相の携帯電話盗聴が明らか
にされており、ドイツのアメリカに対する不信感は強い。東欧への軍事配備強化に関
し、オバマ大統領は経済大国であるドイツに協力を求めているが、ドイツがこれに応
じる可能性はあまり高いとはいえない。外交政策分析を行うドイツのシンクタンク
「外交ドイツ評議会」のブラムル氏は「アメリカはドイツに対し、ヨーロッパでの
リーダーシップや経済力の発揮を期待している。しかし、それならばやはりドイツと
アメリカは協力関係といよりもライバルだといえる。そうでなければ、アメリカはド
イツに対し盗聴などのスパイ行為を働くはずはない」とコメントしている。
シリアからの難民流出に歯止めをかけ、余力を東欧に配備しようというアメリカの壮
大な計画はどこまでうまくいくか。
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