トランプ大統領がイスラエルの首都をエルサレムとし米大使館を移転すると発表から5日間で、アジアから中東、北アフリカまで広がっている。各国首脳の非難やパレスチナとイスラエルの対立、パレスチナ自治区での暴動はエスカレート。エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教3つの宗教に共通する聖地。イスラム人にとってこの地はメッカ・メディナに継ぐ第3の聖地で、その地位は深く根強いものである。アラブ諸国外相は解決策としてトランプ大統領に今回の決定の取り消しを求めている。
12月10日付カタール
『アルジャジーラ』は「米国のエルサレム移転:怒りの輪がインドネシアからモロッコまで広がる」との見出しで以下のように報道している。
米国のエルサレム首都認定に対する抗議がアジアから中東、北アフリカまで広がっている。日曜、国際的都市や大通りの多くで数千人規模のデモが行われた。
東エルサレムを未来の国の首都とみなすパレスチナ人はパレスチナの旗を振り、パレスチナ語で結束を呼びかけた。パレスチナの赤新月社(Red Crescent)によると、日曜157人が負傷、少なくとも4人が死亡したという。
レバノンでは、米大使館前でデモ隊と機動隊が衝突。通りや米国旗とイスラエル国旗には火がつけられ、石を投げつけられた警官は催涙ガスと水疱で対抗した。覆面のデモ隊員は催涙ガス管を掲げ、「アラブ諸国に味方はいない」といい、米国を擁護するレバノン当局に批難の声を上げた。
インドネシアのジャカルタでは5千人以上が米大使館前でデモを行い、パレスチナの旗やバナーで「パレスチナへ祈りを」と呼びかけた。ジョコ・ウィドド大統領もトランプの決定を批判し、エルサレム移転決定に関し米大使への喚問を求めた。
トルコのイスタンブルでは、数千人がデモ、大通りはトルコ国旗やパレスチナの旗で埋め尽くされた。エルドアン大統領もトランプの決定に大反対の一人で、トランプの宣言は「全く無効」だとし闘いを誓い、イスラム諸国の首脳協議を求めた。
モロッコの首都ラバトでは、抗議デモにあらゆる層の人々が参加。政府高官、反対勢力、無党派、保守派、パレスチナの安定を脅かすと考える人達が参加しており、デモはパレスチナ人との団結の証であると同時に、(トランプの決定への)怒りのはけ口でもあるのだという。財務相モハメド・ブサイドは、デモは「我々の怒りと不満の現れ」だとし、「我々は米大統領の決定を断固として否定する」と述べている。
インドのカシミール地方、人口110万の最大都市スリナガルでは、商店を閉鎖、デモで道路をふさいだ。
エジプトでは学生や教授らが大学でデモを行い、パキスタンのカラチでも、米領事館近くで数百人が抗議デモ。機動隊により鎮圧。
エルサレムはイスラム人の第3の聖都でその地位はイスラム教徒にとっては深く根強いもの。アラブ諸国外相は解決策としてトランプに今回の決定の取り消しを求め、国連安保理による米国への批判を求めた。
同日付イスラエル『タイムズ・オブ・イスラエル』は「米国によるエルサレム移転によりモロッコで数万人規模のデモ」との見出しで以下のように報道している。
日曜、モロッコの首都ラバトではトランプのエルサレム首都移転宣言に対する抗議デモが行われた。エルサレム問題(イスラム的性質を守る狙い)に関するロビー組織アル・コッズの会長であるモロッコ国王モハメド6世も、“アラブおよびイスラム諸国57か国の深い懸念と動揺”を示している。
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既報のとおり、オバマ大統領は、自身の政策を批評してきたトランプ次期大統領の就任前でも、ロシアによる大統領選時のサイバー攻撃についてプーチン大統領を名指しで非難したりと、退任直前まで自身の政策を貫徹しようとしている。そしてこの程、国連安全保障理事会に提議されたイスラエル非難決議についても、従来のイスラエル擁護の立場上の“拒否権発動”を止め、“棄権”したことから、賛成多数で同非難決議採択を許した。当然のことながら、トランプ氏はもとより、イスラエルのネタニヤフ首相も猛反発している。
12月25日付米
『Foxニュース』(
『CNNニュース』配信):「イスラエル、ネタニヤフ氏がオバマ氏を非難したのに続いて、駐イスラエル米大使を召還」
「●イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は12月25日、国連安全保障理事会に提議されたイスラエル非難決議について、米国代表が棄権したために同決議が採択されたことに対して、オバマ政権に猛抗議。
●国連安保理は12月23日、イスラエルのウェストバンク(編注;ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区)への入植活動を即時停止するよう求める決議が、安保理メンバー14ヵ国の賛成多数で採択。...
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12月25日付米
『Foxニュース』(
『CNNニュース』配信):「イスラエル、ネタニヤフ氏がオバマ氏を非難したのに続いて、駐イスラエル米大使を召還」
「●イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は12月25日、国連安全保障理事会に提議されたイスラエル非難決議について、米国代表が棄権したために同決議が採択されたことに対して、オバマ政権に猛抗議。
●国連安保理は12月23日、イスラエルのウェストバンク(編注;ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区)への入植活動を即時停止するよう求める決議が、安保理メンバー14ヵ国の賛成多数で採択。
●これを受けてイスラエル政府は、駐イスラエルのダニエル・シャピロ米大使を召還した他、同決議に賛同した安保理メンバー10ヵ国(日・中・英・仏・ロ・アンゴラ・エジプト・スペイン・ウクライナ・ウルグアイ)の大使も召喚。
●更にネタニヤフ首相は閣僚会議の席上、オバマ政権はこれまでの米・イスラエル関係を無視し、反イスラエル勢力と結託して、今回の非難決議を採択せしめたものだとコメント。
●なお、国際人権監視団体によると、ウェストバンクでイスラエルが進めた入植地建設地域に、イスラエル人が既に50万人以上居住。」
同日付英
『ザ・サン』紙:「イスラエル、国連安保理の非難決議に反発して国連への拠出金停止措置」
「●ネタニヤフ首相は、親イスラエルのトランプ氏が大統領就任前に、オバマ政権が裏で操った“恥ずべき”決議だと猛反発。
●その上で同首相は、イスラエルの国連との関係を見直す必要があるとして、同国の国連機関宛拠出金約3,000万シェケル(630万ポンド、約9億円)の支払い停止を指示。
●更に、同非難決議案を共同提議したニュージーランドとセネガルに駐在するイスラエル大使を召還した上で、セネガルに対しては開発援助金の拠出を停止すると発表。」
同日付フランス
『AFP通信』:「ネタニヤフ氏、国連決議案に棄権したことに抗議して駐イ
スラエル米大使を召喚」
「●米国は1979年以降、イスラエルの入植地建設問題について拒否権を行使してきたが、今回の非難決議に対して初めて(拒否権を行使せず)棄権。
●同決議案は、ウェストバンク及び東エルサレムのパレスチナ自治区におけるイスラエル入植地建設は“違法行為”であるので、即時中止を求めるとの内容。
●今回の決議では国連による制裁条項は含まれていないが、イスラエル高官は、(入植地建設について)国際刑事裁判所に提訴される可能性があることと、何ヵ国かが個別の制裁を科す動きに出ることを憂慮。
●一方、国連決議直前までイスラエル支援に動いていたドナルド・トランプ次期大統領は、“国連については、(大統領に就任する)1月20日以降事態は変わる”とツイート。」
12月26日付イスラエル
『ザ・タイムズ・オブ・イスラエル』オンラインニュース:「国連
決議採択はオバマ政権の差し金との“確かな情報”があるとイスラエル高官発言」
「●イスラエル首相府のデイビッド・キース報道官は12月25日、今回の国連安保理のイスラエル非難決議採択に当っては、オバマ政権の差し金があったとの“確かな情報”があるとコメント。
●これに対して米大統領府のベン・ローズ副補佐官(国家安全保障担当)は、イスラエルの抗議内容は全く事実無根のことで、ただ、イスラエルの入植地建設問題は看過できない程になっており、(決議案に対して)拒否権を発動することはできないと判断したと表明。
●ネタニヤフ首相は12月25日、召喚したシャピロ米大使と40分余り面談し、米国の今回の対応について詰問。
●同首相はこれに先立ち、非難決議採択に賛成した12ヵ国の安保理メンバー国の駐イスラエル大使も召喚して同様に詰問。
●更に同首相は12月24日、(賛成票を投じた)ウクライナのヴォロディーミル・フロイスマン首相のイスラエル訪問受け入れを直前キャンセル。」
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