6月27日付
『ラジオ・フリー・アジア』(RFA、1996年に米議会出資によって設立された短波ラジオ放送局)は、「中国、NATO首脳会議開催前に非難声明」と題して、今週スペイン(マドリッド)でNATO首脳会議が開かれる直前、中国政府が“NATOは新たな冷戦構造を生み出す”との非難声明を出したと報じている。
中国外交部(省に相当)の汪文斌報道官(ワン・ウェンビン、51歳、2020年就任)は6月23日の定例記者会見で、“NATOは新たな冷戦構造を生み出そうとしている”とした上で、“米国主導の軍事同盟に他ならない”と非難した。
また、中国国営メディア『人民日報』に掲載された同報道官の声明文によると、“NATOは米国が覇権主義を維持するためのツールであり、欧州における軍事同盟が我が国への対抗手段として用いられようとしている”としている。
更に、同声明では、“NATOは既に欧州における安全保障を棄損している”とし、“拡大NATOとしてアジア太平洋地域まで及び、混乱に陥れることは慎むべきだ”と言及している。
この声明に先立つ6月20日、在パキスタン中国大使館の張清和参事官(チャン・へーチン、大使の次位)が、“ブリュッセル(NATO本部がある都市)では、数万人の抗議者が、NATOによるウクライナ戦争への加担で物価急上昇を招いているとして、NATOを非難するデモ行進を行っている”とツイートしていた。
しかし、ブリュッセル在のロシア・欧州・アジア研究センターのテレサ・ファロン代表は先週末、『RFA』のインタビューに答えて、“ブリュッセルの抗議デモはNATOとは一切関係がない”とし、“中国政府は、来週開催されるNATO首脳会議の前に、このような偽情報を流して政治的攻撃を仕掛けている”と非難している。
ただ、このような中国政府の主張に対して、NATO首脳会議の直前、呉紅波氏(ウー・ホンボ、70歳、2017年まで国連経済社会省事務次官)を特使として欧州諸国首脳との面談に派遣したことは矛盾する。
これに関し、外交政策シンクタンクの大西洋評議会(1961年設立、本部ワシントンDC)のフレデリック・ケンプ社長(67歳、2007年就任)は『CNBC』の寄稿文の中で、“特使を欧州諸国代表との面談のために3週間も派遣したということは、今秋予定されている中国共産党第20回大会(5年に一度の最高決定機関)までに欧州関係を修復するという大きな目的のためだ”と分析している。
同社長は、“習近平国家主席(シー・チンピン、69歳)指導の経済活性化は遅れ、主導する一帯一路経済圏構想(BRI)の資金繰りは悪化し、ゼロコロナ政策はうまく機能せず、更には、ウクライナ軍事侵攻を続けるウラジーミル・プーチン大統領(69歳)を支持していることで、欧米諸国から非難の的となってしまっている”と記した。
その上で同社長は、“このままでは党大会での3期目の国家主席就任が危うくなるとみて、呉特使を派遣して、欧州諸国との関係改善を図ろうと考えたと思われる”と言及している。
ファロン代表も、同社長の分析に同意している。
一方、米国の非営利シンクタンクの民主主義防衛財団(2001年設立、本部ワシントンDC)のクレイグ・シングルトン上級研究員は『RFA』のインタビューに答えて、“国際社会の中国支持は過去最低となっている上、習国家主席は他国首脳と会談するために外遊することを拒んでいる”とし、“しかし、中国の経済は長期低迷期に入っており、習国家主席の経済政策は失敗とする声が高まる一方である”とコメントした。
その上で同上級研究員は、“中国にとって、欧州は現下の景気低迷を脱するのに必要不可欠な市場であるから、これまでの戦狼外交(注後記)によって棄損された欧州との関係修復を最優先に捉える必要があると考えた”と言及している。
ところが、“欧州諸国は、中国が一向に、無謀なウクライナ軍事侵攻を続けるロシアへの支持を再考しようとしないことに不満を募らせ、ここ数ヵ月間では、(中国の意に反して)台湾との貿易や投資の話を積極的に進めようとしている”。
そこで、“この欧州側の姿勢に焦りを覚えた中国政府が、これまでの欧州外交政策を見直す必要に迫られているはずだ”と分析している。
(注)戦狼外交:21世紀に中国の外交官が採用したとされる攻撃的な外交スタイルのこと。この用語は、中国のランボー風のアクション映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』からの造語。論争を避け、協力的なレトリックを重視していた以前の外交慣行とは対照的に、戦狼外交はより好戦的である。
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米上院議会は12月16日、11ヵ月余り空席となっていた駐中国大使の任命を承認した。ジョー・バイデン大統領(79歳)が今年8月、元ベテラン外交官でハーバード・ケネディスクール(1936年設立のハーバード大公共政策大学院)のニコラス・バーンズ教授(65歳)の指名を公表して以来4ヵ月も経ってからである。更に、現状でも、世界200ヵ国余りの米国大使のうちの半分近くが依然空席のままとなっている。そこで、米大手紙が、共和党による民主党政権指名の大使候補の承認を遅延させる戦術は、世界で今や米国を凌ぐ勢いの中国を悪戯に利するだけだとして、国家安全保障問題を優先させるべきだと厳しく指摘している。
12月17日付
『ワシントン・ポスト』紙:「オピニオン:米国大使承認決議保留で安全保障を危うくすべきではない」
米上院議会は12月16日、米国の駐中国大使候補として指名されていた元外交官のニコラス・バーンズ氏の承認を決議した。
全会一致の決議だったとは言え、今や中国が世界で米国に厳しく対峙する存在となっていることを考えたら、同大使職が11ヵ月も空席のままだったことは異常としか言いようがない。
更に言えば、上記承認決議を入れても、米国が世界に派遣している200に近い国の大使が依然93も空席となっているという現実がある。
この遅延の理由のひとつには、上院議会の共和党重鎮テッド・クルーズ議員(50歳、テキサス州選出)及びマルコ・ルビオ議員(50歳、フロリダ州選出)が議会戦術として、米憲法下の“アドバイス&コンセント(注1後記)”を使ってジョー・バイデン大統領が指名した大使候補の承認決議を悪戯に妨害していることが挙げられる。
このため、バーンズ氏についても上院外交委員会が何ヵ月も前に承認していたにも拘らず、本会議での承認決議を悪戯に遅延させ、年末の議会閉会という段階になって漸く決議に移行したものである。
かかる不条理な行いは、追って発行されるハーバード大・中国研究グループによる「米中2ヵ国の外交問題」内で指摘されている多くの問題のひとつに挙げられている。
すなわち、中国が辿ってきた外交政策の変遷(抜粋)は以下と指摘されている。
・中国が2001年に世界貿易機関(WTO、1995年設立)に“途上国”の立場で正式加盟した際、当時の中国最高指導者の鄧小平主席(トン・シャオピン、1904~1997年、1978~1989年在任)は、“隠れて機会を待て”との方針の下、“目立つな”また“指導的役割も担うな”と徹底。
・現在、王毅外相(ワン・イー、68歳)がいろいろな場面で発言しているとおり、“米国と肩を並べる”大国となったとして、如何なる場合でも謝罪など不要で米国には“強硬姿勢で臨む”べきとの対応。
・半世紀前、中国は初めて国連に代表を送ったばかりであったが、2019年には、大使・総領事等の派遣先として、米国の273ヵ国を上回る276ヵ国と外交関係を構築。
・現在、国連案保障理事会常任理事国5ヵ国のうち、最多の職員を派遣し、また、米国に次ぐ分担金拠出(3位は日本)。
・四半世紀前、江沢民主席(チャン・ツェーミン、現95歳、1993~2003年在任)が会談した外国首脳は、ビル・クリントン第42代大統領(現75歳、1993~2001年在任)の半数。
・現在、習近平国家主席(シー・チンピン、現68歳、2013年就任)が2013~2020年の間に会談した外国首脳は、バラク・オバマ第44代大統領(現60歳、2009~2017年在任)及びドナルド・トランプ第45代大統領(現75歳、2017~2021年在任)合わせたものと同数。
・中国の外交上の壮大な戦略として、全ての主要国にとって不可欠な経済パートナーとなる方針。
・その結果、2001年以降でみると、日本、ドイツ等の130ヵ国との貿易高が米国を抜いてトップに君臨。
・更に、医療品、半導体、太陽光パネル、最先端技術に不可欠なレアアースの世界最大の供給元となり、不可欠な地位を確立。
一方、中国の驕り高ぶりを表す顕著な例として、自身を批判する国や要人を恫喝する“戦狼外交(注2後記)”が挙げられる。
この結果、中国に対する反発が高まり、2021年における調査では、米国、英国等民主主義国の市民の約75%が中国を“支持しない”と答える程悪化している。
従って、米国は今こそ絶好の機会と捉えて、中国の野心的な外交政策に歯止めをかける必要がある。
つまり、諸外国における重要な任務を負う大使を派遣せず、空席のままとしておくことは、中国を利する以外なにものでもない。
故周恩来首相(チョウ・エンライ、1898~1976年、1954~1976年在任)が初代外相(1949~1958年在任)を務めた際、外交は“別の形の戦争”だとして野心的に取り組んでおり、その姿勢は脈々と続いている。
すなわち、中国の野望を食い止めるためにも、共和党は、悪戯に米国大使承認手続きを党戦略のひとつとして推し進めるのではなく、今こそ国家安全保障の重大さに立ち返り、米国にとって最も相応しい対応を取るべきである。
(注1)アドバイス&コンセント:米憲法上で、上院議会に認められた、大統領の指名権や立法権を制限しうる権限。
(注2)戦狼外交:21世紀に中国の外交官が採用したとされる攻撃的な外交スタイルのこと。この用語は、中国のランボー風のアクション映画「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」からの造語。論争を避け、協力的なレトリックを重視していた以前の外交慣行とは対照的に、より好戦的となり、ソーシャルメディアやインタビューにおける中国への批判に対して、しばしば声高に反論や反駁をしている。
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