ウクライナ戦争:ロシア軍の深刻な兵士不足(2022/06/13)
英
『ザ・エクスプレス』紙や仏ニュース専門局
『フランス24』などの英仏メディアは、ウクライナでの100日以上の戦闘を経て、ロシア軍は深刻な兵士不足に悩まされていると報じている。ロシアは6月10日時点で、2月24日からの107日間で約31900人の兵士を失った。これは1日あたり200人が死亡していることになる。
『フランス24』によると、NATOのストルテンベルグ事務総長は、この紛争は「消耗戦」になっていると指摘している。そしてロシア軍は、長引く戦争によって前線の人員の充足にますます苦心しているという。ロシア軍は、ウクライナ戦線への新兵勧誘のため、シベリアを含めた全国での積極的な採用キャンペーンをすすめているという。人気ロックバンドのコンサート会場近くに臨時の採用事務所が設置された例もあると、ドイツの日刊紙「Süddeutsche Zeitung」は報じている。...
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『フランス24』によると、NATOのストルテンベルグ事務総長は、この紛争は「消耗戦」になっていると指摘している。そしてロシア軍は、長引く戦争によって前線の人員の充足にますます苦心しているという。ロシア軍は、ウクライナ戦線への新兵勧誘のため、シベリアを含めた全国での積極的な採用キャンペーンをすすめているという。人気ロックバンドのコンサート会場近くに臨時の採用事務所が設置された例もあると、ドイツの日刊紙「Süddeutsche Zeitung」は報じている。また、ロシアのプーチン大統領は5月25日、これまで40歳未満のロシア人しか入隊できなかった軍隊に、18歳から65歳までのすべてのロシア人が入隊できるようにする法律を承認した。
仏週刊誌『レクスプレス』によると、5月21日にシベリアのノボシビルスクで開催されたハーフマラソンでは、ゴール近くに「移動式採用事務所」として機能するトラックが駐車していた。また、プーチン大統領は、元兵士の軍復帰を促すために、3ヶ月の短期契約や現地賃金の4倍もの給与を出すことも躊躇していないという。
キングス・カレッジ・ロンドンのロシア軍専門家ロッド・ソーントン氏は、唯一、徴兵対象の若者だけは、違法となるため前線には送ることができないと説明している。モスクワタイムズ紙は、12人の将校が6月7日に、600人以上の若い徴兵をウクライナでの戦闘に送り込んだとして起訴されたと報じている。
ロシアの軍事問題の専門家であり、米国の地政学的研究センターである「ニューラインズ・インスティテュート」の外部コンサルタントを務めるジェフ・ホーン氏は、ウクライナ紛争以前、米国に次いで世界第2位と評されたロシア軍だが、「書類上では多数の歩兵師団が登録されている一方で、実際にそれを構成する旅団のほとんどが、冷戦終結後、人員不足に陥っている」と説明している。この慢性的な兵士不足は、「2つの世界大戦で甚大な被害を受け、スターリンによる粛清を受け、ソ連時代の強制的な工業化」を反映した数世代における人口変動が原因だという。
バーミンガム大学で旧ソ連の安全保障問題を専門とするニコロ・ファソラ氏は、こうした人口変動のゆえに「ロシアは、一般の兵士よりも大砲や装甲に重きを置くようになった」と説明している。今回の戦争が100日間を超えた長期戦になっていることで、兵士不足が深刻化している。ホーン氏は、攻撃側が勝つためには、3対1の割合で戦力が有利でなければならないという武力紛争における黄金律とは程遠い状態にあり、「今のところ、2対1、場所によっては1対1のところ」もあると推測している。
しかし、これは必ずしもウクライナに有利に働くわけでもないという。ソーントン氏は、最も可能性の高いシナリオは、「ロシア軍が防御態勢に入り、維持することを決定すること」だと述べている。その場合、ドンバスは終わりの見えない一種の紛争地帯となる。「ウクライナ側は、西側諸国からより強力な武器を受け取らない限り、ロシア人を排除する攻撃手段を持っていない」という。
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ウクライナ戦争:ロシアの工業生産が赤字に(2022/06/03)
ロシア政府は欧米の制裁にうまく抵抗していると主張しているが、数字はロシア経済が苦しんでいること示している。禁輸の対象外であるガスの輸出も大幅に減少している。
仏誌
『レクスプレス』によると、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアの工業生産が初めて赤字になった。ロシア連邦国家統計局 (Rosstat)によると、工業生産が1年間で1.6%、先月には1ヶ月間で8.5%減少している。例えば自動車産業は、依存する外国製スペアパーツの納入が停止したことで麻痺状態に陥っている。フランス国立東洋言語文化学院の経済学講師ジュリアン・ベルキューユ氏は次のように述べている。「自動車産業は特にフランス、ドイツ、日本といった西洋のバリューチェーンに組み込まれているため、ほとんど完全に停止している。...
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仏誌
『レクスプレス』によると、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアの工業生産が初めて赤字になった。ロシア連邦国家統計局 (Rosstat)によると、工業生産が1年間で1.6%、先月には1ヶ月間で8.5%減少している。例えば自動車産業は、依存する外国製スペアパーツの納入が停止したことで麻痺状態に陥っている。フランス国立東洋言語文化学院の経済学講師ジュリアン・ベルキューユ氏は次のように述べている。「自動車産業は特にフランス、ドイツ、日本といった西洋のバリューチェーンに組み込まれているため、ほとんど完全に停止している。ロシアの自動車生産台数は1年間で85%以上減少している。鉱業の分野でも困難に直面している。欧州諸国が決定した8月からの石炭禁輸が影響している。」
なお、石油・ガス生産量も1ヶ月で10.9%減少している。こうした中、欧州連合(EU)はロシアに対して第6次制裁措置を採決し、その一環として、ロシアの石油輸入がほぼ90%制限されることになった。また、ガスについては、EU27ヶ国の一部の国のロシア依存度が高いものの、ロシアの輸出量は2022年1月から5月の間に27.6%減少している。
こうした減少は、EU諸国がガス購入の3分の1について新しい供給元を見つけ、いくつかの国はロシアの要求するルーブルでの支払いを拒否したことに起因していると考えられる。供給が停止されたことで、ロシアはブルガリア、ポーランド、最近ではデンマークやフィンランドなどの市場を失ったことにもなる。そして、原油価格の上昇と輸入品の減少によって維持されていたルーブルが、その価値を失う危機に瀕している。
4月の消費については、現在18%近いインフレのため、前年比10%減となったが、ベルキューユ氏は「ロシアでは内需が成長の主なエンジン」になっていると強調する。プーチン大統領は、国民を安心させるために「専門家たちは、インフレ率は年末までに15%を超えることはない」と述べているが、ロシア中央銀行を含む他の専門家たちは、18%から23%の間で推移すると見ている。
なお、仏経済紙『ラ・トリビューヌ』は、ロシア政府は、加盟国がモスクワに対する第6次制裁措置の一部として決定した石油禁輸措置の影響を「最小限に抑える」ことができると自信を示したと伝えている。ロシアはヨーロッパが依存しているガスからの収入をまだ当てにできる。しかし、インフレの加速など制裁の影響が出始めており、多くのエコノミストは今後数ヶ月のうちに状況は悪化すると考えている。
米『ブルームバーグ』によると、ドイツのロベルト・ハーベック副首相兼経済相は2日、ウクライナ侵攻に伴う国際的な制裁によりロシア経済は大きな打撃を受けており、そのダメージは今後ますます明確になると語った。副首相は連邦議会で、石油やガスなどの商品から収入を得ているものの、ロシアは「そのほとんど使うことができない」と指摘した。また、航空機のソフトウェアセキュリティのアップデートの遅れにより航空機はまもなく飛べなくなり、ハイテク機器の不足は「生産工程の破壊につながるだろう」と述べた。そして、「プーチンはこれ以上長くは戦争を続けられない。時間はロシアに有利には働かず、ロシアに不利に働き、ロシア経済に不利に働いている。」と主張した。「我々はロシア経済を徹底的に切り崩すつもりだ。」とも述べた。
しかし、ウクライナ戦争が4カ月目に入った今でも、制裁によってプーチン大統領が軍事作戦を放棄するような姿勢は全く見えてこない。
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