既報どおり、長らく空席となっていた米国の駐中国大使の承認決議が米上院議会で採択された。共和党による決議遅延戦略は、中国を利するだけで米国家安全保障上問題との指摘がなされていたが、共和党にとっては、欧州における安全保障を揺るがしかねないノルドストリーム2天然ガスパイプラインプロジェクト(注1後記)阻止のためにトランプ政権下で決定した制裁措置について、バイデン政権によって覆されないよう抵抗することが重要だと捉えていたことが理由である。
12月19日付
『Foxニュース』:「クルーズ上院議員、米国大使承認決議への協力でロシアの天然ガスパイプラインプロジェクトへの制裁継続につき民主党側譲歩獲得」
米上院議会において、何ヵ月間も停滞していた大使承認手続きが12月18日から遂に進捗することになった。
停滞していたのは、上院少数派の共和党が、トランプ政権のときに決定したロシア~ドイツ間ノルドストリーム2天然ガスパイプラインプロジェクトに関わる制裁措置をジョー・バイデン大統領(79歳)が破棄すると表明したことに抵抗して、米憲法で認められた“アドバイス&コンセント(注2後記)”に基づき、大統領が指名していた米国大使の承認手続きを保留してきたからである。
しかしこの程、共和党側のテッド・クルーズ上院議員(50歳、テキサス州選出)が12月17日晩、上院民主党院内総務のチャック・シュマー議員(71歳、ニューヨーク州選出)との間で、民主党側が2022年1月早々に上院に諮られる同プロジェクト制裁措置について賛同するとの条件を受け入れたため、同大統領が指名していた大使候補32名の承認手続き移行を認めることに合意したものである。
共和党側はこれまで、バイデン大統領が今年7月、同プロジェクトの稼働開始に向けて制限を撤廃する意思を表明したことについて幾度となく非難する声を上げていた。
バイデン政権としては、米・ドイツ間友好関係維持のため、同プロジェクトを通じての天然ガスの確保を容認する必要があるとしていた。
しかし、共和党側は、かかる動きによってロシアによるウクライナ侵攻を後押しする結果に結びつきかねないとして激しく反対した(編注;侵攻問題とは別に、1970年代稼働開始のロシア~ウクライナ~欧州間天然ガスパイプラインが、近年しばしばロシア・ウクライナ間で問題化)。
一方、ドイツ側においては先月、同国新政権が同パイプラインプロジェクトの法的文書手続きを一時停止するという措置を講じている。
ドイツ国営放送局『DW(ドイチェ・ベレ)』12月18日報道によると、ロベルト・ハーベック副首相兼経済・気候保護大臣(52歳、緑の党共同党首、2021年12月就任)が、もしロシアがウクライナに侵攻すれば、同プロジェクトの稼働差し止め等の“厳しい措置”を講ずる意向だと発言したという。
これに似た動きは米国内にも認められ、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当、44歳)が先週、ロシアによるウクライナ侵攻を食い止めるため、同プロジェクトの扱いは“有利な交渉材料”になろうと発言していた。
同補佐官は、“もしウラジーミル・プーチン大統領(69歳)が同プロジェクトを通じて天然ガスを欧州に供給したいと欲するなら、ウクライナに侵攻するというようなリスクを取ることを思い止まるかも知れない”と言及している。
なお、共和党側は、同プロジェクトに関わる制裁措置をロシアのウクライナ侵攻前に実施すべきだと主張しているが、民主党側はロシアが行動を起こして後と考えている模様である。
しかし、民主党側の考えに対して、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領(43歳)は今週、“当国にとって、事態が発生する前の制裁実施が重要である”とし、“事が起こってからでは、どんな制裁も大して意味をなさないことになるからだ”と反対の意を表明している。
(注1)ノルドストリーム2天然ガスパイプラインプロジェクト:バルト海底を経由してロシア・ドイツ間をつないだ天然ガスのパイプラインプロジェクトで、2011年11月に稼働を開始したノルドストリーム1を倍増させる、全長1,200キロメートルに及ぶプロジェクト。ロシア国営企業ガスプロムとドイツ、フランスなどの企業が出資により、2018年9月に着工。途中、欧州のロシアへのエネルギー依存増大による安全保障問題から米国を中心とした複数の制裁措置がなされ、工事は中断。そして予定より1年9ヵ月遅れの2021年9月に完工。但し、米国制裁継続に加えて、ドイツ政府及び欧州委員会による書類審査遅延によって、稼働開始は2022年春以降となる見込み。
(注2)アドバイス&コンセント:米憲法上で、上院議会に認められた、大統領の指名権や立法権を制限しうる権限。
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米上院議会は12月16日、11ヵ月余り空席となっていた駐中国大使の任命を承認した。ジョー・バイデン大統領(79歳)が今年8月、元ベテラン外交官でハーバード・ケネディスクール(1936年設立のハーバード大公共政策大学院)のニコラス・バーンズ教授(65歳)の指名を公表して以来4ヵ月も経ってからである。更に、現状でも、世界200ヵ国余りの米国大使のうちの半分近くが依然空席のままとなっている。そこで、米大手紙が、共和党による民主党政権指名の大使候補の承認を遅延させる戦術は、世界で今や米国を凌ぐ勢いの中国を悪戯に利するだけだとして、国家安全保障問題を優先させるべきだと厳しく指摘している。
12月17日付
『ワシントン・ポスト』紙:「オピニオン:米国大使承認決議保留で安全保障を危うくすべきではない」
米上院議会は12月16日、米国の駐中国大使候補として指名されていた元外交官のニコラス・バーンズ氏の承認を決議した。
全会一致の決議だったとは言え、今や中国が世界で米国に厳しく対峙する存在となっていることを考えたら、同大使職が11ヵ月も空席のままだったことは異常としか言いようがない。
更に言えば、上記承認決議を入れても、米国が世界に派遣している200に近い国の大使が依然93も空席となっているという現実がある。
この遅延の理由のひとつには、上院議会の共和党重鎮テッド・クルーズ議員(50歳、テキサス州選出)及びマルコ・ルビオ議員(50歳、フロリダ州選出)が議会戦術として、米憲法下の“アドバイス&コンセント(注1後記)”を使ってジョー・バイデン大統領が指名した大使候補の承認決議を悪戯に妨害していることが挙げられる。
このため、バーンズ氏についても上院外交委員会が何ヵ月も前に承認していたにも拘らず、本会議での承認決議を悪戯に遅延させ、年末の議会閉会という段階になって漸く決議に移行したものである。
かかる不条理な行いは、追って発行されるハーバード大・中国研究グループによる「米中2ヵ国の外交問題」内で指摘されている多くの問題のひとつに挙げられている。
すなわち、中国が辿ってきた外交政策の変遷(抜粋)は以下と指摘されている。
・中国が2001年に世界貿易機関(WTO、1995年設立)に“途上国”の立場で正式加盟した際、当時の中国最高指導者の鄧小平主席(トン・シャオピン、1904~1997年、1978~1989年在任)は、“隠れて機会を待て”との方針の下、“目立つな”また“指導的役割も担うな”と徹底。
・現在、王毅外相(ワン・イー、68歳)がいろいろな場面で発言しているとおり、“米国と肩を並べる”大国となったとして、如何なる場合でも謝罪など不要で米国には“強硬姿勢で臨む”べきとの対応。
・半世紀前、中国は初めて国連に代表を送ったばかりであったが、2019年には、大使・総領事等の派遣先として、米国の273ヵ国を上回る276ヵ国と外交関係を構築。
・現在、国連案保障理事会常任理事国5ヵ国のうち、最多の職員を派遣し、また、米国に次ぐ分担金拠出(3位は日本)。
・四半世紀前、江沢民主席(チャン・ツェーミン、現95歳、1993~2003年在任)が会談した外国首脳は、ビル・クリントン第42代大統領(現75歳、1993~2001年在任)の半数。
・現在、習近平国家主席(シー・チンピン、現68歳、2013年就任)が2013~2020年の間に会談した外国首脳は、バラク・オバマ第44代大統領(現60歳、2009~2017年在任)及びドナルド・トランプ第45代大統領(現75歳、2017~2021年在任)合わせたものと同数。
・中国の外交上の壮大な戦略として、全ての主要国にとって不可欠な経済パートナーとなる方針。
・その結果、2001年以降でみると、日本、ドイツ等の130ヵ国との貿易高が米国を抜いてトップに君臨。
・更に、医療品、半導体、太陽光パネル、最先端技術に不可欠なレアアースの世界最大の供給元となり、不可欠な地位を確立。
一方、中国の驕り高ぶりを表す顕著な例として、自身を批判する国や要人を恫喝する“戦狼外交(注2後記)”が挙げられる。
この結果、中国に対する反発が高まり、2021年における調査では、米国、英国等民主主義国の市民の約75%が中国を“支持しない”と答える程悪化している。
従って、米国は今こそ絶好の機会と捉えて、中国の野心的な外交政策に歯止めをかける必要がある。
つまり、諸外国における重要な任務を負う大使を派遣せず、空席のままとしておくことは、中国を利する以外なにものでもない。
故周恩来首相(チョウ・エンライ、1898~1976年、1954~1976年在任)が初代外相(1949~1958年在任)を務めた際、外交は“別の形の戦争”だとして野心的に取り組んでおり、その姿勢は脈々と続いている。
すなわち、中国の野望を食い止めるためにも、共和党は、悪戯に米国大使承認手続きを党戦略のひとつとして推し進めるのではなく、今こそ国家安全保障の重大さに立ち返り、米国にとって最も相応しい対応を取るべきである。
(注1)アドバイス&コンセント:米憲法上で、上院議会に認められた、大統領の指名権や立法権を制限しうる権限。
(注2)戦狼外交:21世紀に中国の外交官が採用したとされる攻撃的な外交スタイルのこと。この用語は、中国のランボー風のアクション映画「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」からの造語。論争を避け、協力的なレトリックを重視していた以前の外交慣行とは対照的に、より好戦的となり、ソーシャルメディアやインタビューにおける中国への批判に対して、しばしば声高に反論や反駁をしている。
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