中国の習近平主席は1月19日にサウジアラビアを訪問しサルマン国王との会談と午餐会に臨んだ。中国主席のサウジアラビア訪問は2009年の胡錦濤主席の訪問以来7年ぶり。今回の中東訪問ではエジプトとイランも訪問する予定であり、イランへは経済制裁解除後初めての外国首脳の訪問となる。今回の中東訪問の目的は、①サウジアラビアは中国最大の原油輸入先であり約六分の一を占める他、イランからの輸入も合わせると約四分の一を占めることから、原油供給先との緊密な関係維持②最近のサウジアラビアとイランとの関係悪化に関し、両国に冷静な対応を要請し中東の安定化に寄与して存在感を示すこと③三ヶ国は中国が進めているアジア・欧州間の一帯一路経済圏構想の重要な核となる地域であり、最近設立されたアジアインフラ投資銀行を通じて3ヵ国のインフラプロジェクトの推進を図ること、の三つが考えられる。年初来やや混乱気味の内政はともかく、世界の政治経済において中国のプレゼンスを高めようとする習主席の外交政策は着々と進んでいるように見える。
1月19日付
『USニューズアンドワールドレポート』(AP通信引用)は、「中国主席、貿易拡大を目指す中東訪問でサウジアラビア到着」という見出しで習主席の2日間のサウジアラビア訪問を報じた。両国は経済協力、投資、開発に関する覚書に調印したほか、サルマン国王は習主席に同国の最高位の勲章を授与した。習主席は訪問前日にサウジアラビアの新聞
『アル・リヤド』に同国を中国の「兄弟国」と表現し両国関係の更なる発展を期待するという内容の記事を投稿した。また、その記事の中で2008年の四川省地震の際サウジアラビアが最大の6千万ドルの支援を行ったことにも触れていると報じている。
1月19日付トルコの
『デイリーサバー』(ロイター通信引用)は、「習主席、中東の紛争国へ 中国、等距離を目指す」という見出しで習主席がサウジ、イラン両国を訪問するに当たり、中東において等距離を保つのが中国の方針であるという中国外務省の張明次官の発言を伝えた。同次官は「地域の問題について中国は常に等距離の姿勢を保ってきた。中東が安定しないと世界平和は望めない。安定なければ開発も進まない。中国は、その国の条件に合った開発路線を個々に進めるこの地域の国を強く支持する」とも発言した。
1月20日付台湾の
『タイペイタイムズ』は、「中国習主席、サウジアラビア到着」という見出しで、習主席の今回の中東訪問は世界で最も不安定な地域の一つである中東で中国の外交手腕を示したいという意図の現れであると伝えている。イランについては、欧米各国が経済制裁を行っていた間に中国は制裁に入らず関係を強めた。中国はイラン原油の4割を輸入していたし、イランにとって資本や技術の最大の提供国であった。制裁解除直後の訪問は、
中国の支配的な地位を守るために企図されたものというイラン問題の専門家の見方を伝えている。
1月19日付アゼルバイジャンの
『アゼルニューズ』は、「イラン、中国、原発建設を目指す」という見出しで、両国がイラン国内に2基の原子力発電所の建設を協議したというイランの原子力関係責任者の発言を伝えた。習主席はイラン訪問の際その協議を行う予定であるとも伝えている。
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サウジアラビアが近日中に50人以上のテロ容疑者を処刑する予定であることが報じら
れている。これに対して、国外や人権団体からは批判の声が寄せられている。各メ
ディアは以下のように報じている。
11月26日付
『ワールドニュース・ネットワーク』(米)は、サウジアラビア政府はこ
こ数日中に国内で50名以上のテロ容疑者の斬首刑を実行する予定であると報じてい
る。テロ容疑者のうち3名は逮捕時未成年であったという。
今回の処刑は、サウジアラビアの新聞「オカズ」により明らかにされたという。同紙
はサウジアラビアの内務省からの情報、容疑者の家族・人権団体への取材により、処
刑が間近であると判断したという。「オカズ」紙によれば、処刑は国内の数か所で行
われる予定で、おそらくは金曜礼拝の後であろうということである。
11月27日付
『ヴァイス・ニュース』(米)は「ロイター通信」の記事を引用し、今回
の処刑がサウジアラビア国内で行われたテロに関わった者たちへの見せしめの意味が
あると指摘している。
同記事によれば死刑執行予定のテロ容疑の数は55人にのぼり、容疑内容は100人以上
の民間人および71人の警備関係者の殺害だという。やはり死刑執行の日時は明らかで
はないとしている。
23日月曜日にはサウジアラビアの新聞「アル・リヤド」(経営状態は半官半民)が52
人のテロ容疑者の処刑が近い旨を報じたものの、その後ウェブサイト上の記事は理由
の説明も無く削除されたという。
前出の「オカズ」紙によれば今回処刑が予定されている容疑者はアルカイダ関連者が
ほとんどで、他にはサウジアラビアの都市アワミヤでのデモ関係者だという。デモ関
係者に対する容疑は、デモの扇動および、2011年にバーレーン王国で起きた政情不安
への干渉だという。アワミヤは国内東部に位置する石油産出地域であり、シーア派が
多いとされている。ここでは以前政府に対するデモが起きており、今回の件を受けて
住民らは道路を封鎖し、町中でがれきを燃やすなどして抗議活動を強めているとい
う。ただ、政府側はデモ以降に逮捕されたシーア派の者は処刑しない意向だとしてい
る。アルカイダ関係者には武器や地対空ミサイルを使った攻撃をしかけ、国家転覆を
図ろうとした容疑がかけられているという。そのうち一人はサウジアラビアに持ち込
む目的で、イエメンで150万ドル(約1億8000万円)の核物質を購入しようとした容疑
がかけられているという。
同記事によれば、サウジアラビアでは今年入ってすでに150人の処刑が行われている
という。この数はアムネスティ・インターナショナルによれば、ここ20年で最多の記
録だという。
11月27日付
『BBC』(英)は、アムネスティ・インターナショナルが今回の処刑につ
いて、警戒すべきと発表したことを報じている。同団体によれば、今年の処刑者の数
は1995年以降では最多の数字だということである(2014年は90人)。
同記事が問題視しているのは、容疑者を裁く裁判手続きが、公正ではないということ
である。アムネスティ・インターナショナルの中東・北アフリカ担当のリンチ氏は
「サウジアラビアは政治的な軋轢を解決するために対テロを口実にしているのは明ら
か」とコメントしている。「処刑の可能性が特に高いアワミヤのシーア派6人は不公
正な裁判を受けたのは明らかだ。さらに6人のうち3人は逮捕時未成年で、拷問により
自白が強制されているとの報告がなされている」。これに対しサウジアラビア政府は
「死刑はイスラム法に則って、厳格かつ公正な手続きの下、安全を確保した状況下で
執行される」と主張しているという。
24日にこの6人の容疑者らのうち5人が「任意の」医療検査を受けたことを知り、処刑
が準備段階に入ったのではないかと懸念した母親らがサルマン国王に恩赦を求める嘆
願書を提出したという。その5人のうち4人は10月初旬にリヤドのアル・ヘア刑務所に
移された後、死刑囚の独房に収容されているという。
サウジアラビアが、パリをはじめ、近頃のテロへの嫌悪の波に乗ろうとしているのか
は定かではない。イスラム法をはじめとして、世界には様々な法制度が存在するのも
確かだ。ただ、サウジアラビアの今年の処刑者数は尋常ではないと言える。「粛清」
という言葉が頭をよぎる。
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