先週金曜、タイのソムキッド副首相率いるタイ経済大臣ら代表団が訪日し、JETRO協賛のセミナーでタイの経済成長を促す景気刺激策として投資企業に対する最新の支援策を説明、参加した日本の投資企業家らに支援を呼びかけた。これまでの既存産業では成長が見込めなくなってきた今、ハイテク分野での投資支援を政府一丸となり取り組んでいることをアピール。生き残りをかけ海外投資企業を積極的に受け入れる方針だ。周辺諸国の動きに合わせてTPPへの参加にも言及した。各紙が次の様に報道している。
11月28日付け
『THE NATION』
先週27日、タイ副首相ソムキッド・ジャトゥシーピタック氏及び商務大臣、工業大臣、運輸大臣、科学技術大臣、観光・スポーツ大臣が訪日し、タイ経済の活性化となる、”タイの10の産業”への投資を呼びかけた。今回両国の長期に渡る良好な経済関係から最初の訪問地として日本が選ばれ、「タイ:持続的成長を目指して」と題したセミナーには1000人以上の日本の投資企業家らが参加した。
そのセミナーでソムキッド氏らは、タイは次の段階の成長のために経済政策の改革を行っている。産業構造は労働集約的な低賃金生産から10の「未来」の産業を中心とした高付加価値の製造業へシフトされる。自動車、エレクトロニクス、農業などの産業は技術的な革新が必要だ。例えば、エレクトロニクス部門は、スマートな機器や装置に集中し、高技術で環境に優しい未来の自動車の生産につながる新たな投資を支援していく。農業部門では、バイオテクノロジーを用いたハイテク加工に重点をおき、観光分野ではサービスの質の向上を目指す。
加えて、産業ロボット開発やアセアン諸国内連携を視野に入れた航空、物流の発達、デジタル関連産業、バイオケミカル、医療衛生分野の発展を促す。既存産業は我国より低賃金の他国との厳しい競争に直面している、これらの産業はタイの次の経済成長の起爆剤となるだろう。
クラスター政策によって経済特区を作り、研究開発センターには海外投資企業を誘致、現在のレムチャバンとマー・タ・プット特区に加え、チェンマイ、プーケットなどを含む7県で経済特区を作る計画だ。
過去30年間主に日本の企業からの投資があって今日の我国は工業化を成し遂げた。今後も経済成長の支援策に力を貸して頂きたい、と述べた。
一方、タイ国政府観光庁は、日本の観光当局及び朝日テレビと、2020年までに訪タイ日本人観光客を、海外旅行客の10%に当たる、200万人達成目標の覚書に署名した。
11月27日付け
『バンコクポスト』は以下の様に報じている。
先週金曜(27日)、副首相ソムキッド・ジャトゥシーピタック氏は東京の記者会見で「タイは環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する”可能性が高い”が輸出主導型経済への影響を比較検討する必要がある。タイはTPPに参加することに非常に興味がある」と述べた。
同氏は、また政府が特に農業や医薬品分野での影響を分析している。専門家や国民の理解を得るため議論や意見交換の場が必要だ、と述べた。
(参加した場合)特にエレクトロニクス、魚介類や農業分野で、マレーシア、ベトナムなどとの競争が激化しているためタイは恩恵を受けることができる。
また、タイは世界のトップ自動車メーカーの生産・輸出拠点としては地域最大で、トヨタ、ホンダなどの日本の自動車メーカーからの組立工場の大規模な投資があるためタイの国内総生産の約10%を占める自動車産業で恩恵を受けるだろう。
プラユット首相も協定の包括的な研究が必要だと述べている。
同氏は「決定前に、すべてを慎重考慮しなければならない。」と、バンコクで記者団に語った。
TPPは、批評家らが言うには、米国によって作られたビジョン、貿易・投資体制を想定しており、米国の規則に従い、米国の大企業が最も潤う様に出来ている、との批判がある。
タイ国内のKBank(銀行)のアナリストの報告書によれば、TPP交渉に乗り遅れるとタイへの外貨投資の流れを損なう。又、参加には、人身売買問題を解決する必要がある。米国は人身売買報告書(TIP)で評価が最下位の国との交渉を拒否する体制をとっているためだ。今年「人身売買報告書」でマレーシアが評価3から2に修正され、米上院議員らが説明を求め抗議しているが、これはTPP参加を確実にするための政治的意図である、とされている。
11月28日付け
『OANA (アジア太平洋通信社機構)』
タイ東北部ウドンタニで行われたタイの貿易会と地方委員会貿易事務所の共同セミナーで、タイ商工会議所とタイの貿易会会長のイサラ・ウォンクソンキット氏は、世界経済は低迷しているが、政府の景気刺激策により、起業家らは積極的に誘致活動をし、タイ経済を支える自信がある、と述べた。当セミナーの結果は副首相ソムキッド・ジャトゥシーピタックを通して政府に提出される。
セミナー冒頭、同会長は「世界経済は依然として低迷している中、公共部門において、競争力の強化に加えて、価値を高める研究が肝要が急務だ。民間部門においては生き残りと経済発展のため、次世代の概念やアイデアを取り入れなければならない。
一方、副内務大臣スティー・マークブンは、「(内務省は)企業規制を一部改正した。政府は今後将来的にも企業を支援する準備がある、と述べた。
11月28日付地元紙
『タイラット』は、ソムキッド副首相談として、「今回訪日しタイの経済支援策概要を説明し日本の投資企業家から理解を得られた事に安堵している。今日のタイがあるのも官民ともに30年に渡る日本からの投資あっての事で大変有難い事だ。今こそ政府の支援が必要な時だ」、と報じた。
閉じる
11月4日付「日米、南シナ海巡視でASEAN諸国と連携模索」の中で、“今週クアラルンプール(マレーシア)で開かれる、東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大国防相会議において、共同声明の中に南シナ海における「航行の自由」を認める監視航行について言及するよう、日米両国がはたらきかけている”と報じた。しかし、ASEAN10ヵ国のほとんどが、中国の経済援助頼りとしている現状下、11月5日付「
時流・米国の中国封じ込め初戦失敗」の中で触れたとおり、南シナ海を巡る共同宣言は採択できないまま決裂した。この件について、米同盟国でありながら米中どちらにも擦り寄る隣国の大統領と同様、米中どちらにも良い顔を見せようとしているマレーシア国防相の対応を含めて、米・中他メディアが伝えている。
11月5日付
『NYSEポスト』(ニューヨーク在オンラインニュース)は、「議長国マレーシアの国防相、ASEANが進むべき道を示唆」との見出しで、「クアラルンプールで開かれていた、ASEAN拡大国防相会議(ASEAN10ヵ国+日本、米国、中国、インド、豪州など8ヵ国)は共同声明を採択する代わりに、マレーシアの議長声明を発表することで幕を閉じた。議長を務めたヒシャムディン国防相は、南シナ海での活動を規制する“行動規範”の早期策定を目指すとの(従来言われている)内容の声明を出した。米国が求めた、南シナ海における航行の自由を認める表現等は、中国の猛反発に加えて、中国と領有権争いはなく、しかも、中国からの経済援助が頼みの綱のミャンマーやラオスなどの抵抗もあって、何ら言及されることはなかった。」と報じた。
同日付
『人民日報』は、「航行の自由は議題でもなければ、それを他国の挑発の理由にする根拠なし」との見出しで、「ASEAN拡大国防相会議において、中国の常(チャン)国防部長(国防相に相当)は、南シナ海において航行の自由が阻害されているような事実はなく、また、それを理由に、中国の主権範囲内を違法航行することで中国を挑発する根拠はない、と演説した。にも拘らず、米国等の南シナ海域外の他国の横暴もあって、同拡大国防相会議は共同声明を採択できないまま11月4日に閉幕した。中国国防部は、共同声明が採択されなかったのは、域外の一部の国が、ASEAN会議とは関係のない内容を意図的に入れようとしたからであるとして、米国等を非難した。」と伝えた。
一方、同日付
『新華社通信』は、「中国とマレーシア、安全保障連携強化で合意」との見出しで、「マレーシアを訪問中の常国防部長は11月5日、同国のヒシャムディン国防相と会談し、東南アジア地域の安全保障につき、両国で連携強化していくことに合意した。同国防相は、中国との連携強化を歓迎し、また、中国に対して、今後ともASEAN地域の開発援助継続に期待すると述べた。」と報じた。
また、同日付
『OANAニュース(アジア太平洋通信社機構)』(ユネスコ主導で設立された域内ユネスコ加盟国の通信社)は、「ヒシャムディン国防相、米国防総省長官と米艦乗船」との見出しで、マレーシアのヒシャムディン国防相は11月5日、米国防総省カーター長官と会談した際、南シナ海に展開中の米大型空母“セオドア・ルーズベルト”に、カーター長官とともに乗艦することを明らかにした。なお、同長官は、米戦艦が南シナ海で航行の自由を確保するために先週監視航行したが、これまでもこの地域に限らず実施しているし、また、今回が特別な行動ではないと言明した。」と伝えた。
議長国マレーシア作成の共同声明草案には、航行・飛行の自由の重要性、及び国際法に基づく海上航路のコミュニケーションの重要性を強調する、と書かれていた。しかし、この中で南シナ海問題も言及するよう米国、日本、フィリピン等が求めたことに対して、域外国が加わる多国間協議の場で領有権問題を扱うのは不適切だとして、中国が猛反発し、カンボジアなども中国の意見を支持した。結局、南シナ海に触れない共同宣言案には、米国、フィリピン、日本の他、豪州も受け入れられないとしたため、共同宣言の採択が取り止められた。
中国は、すでにASEAN拡大国防相会議での米国の動きに対抗する手を打っていた。先月はASEAN国防相を北京に呼んで、南シナ海における共同軍事訓練を提案して取り込もうと画策していたし、また、同拡大会議直前も、常国防部長が議長のヒシャムディン国防相と会談し、マレーシア・中国間でも一部で領有権問題があるものの、同国含めたASEAN全域に対して中国が行ってきた経済援助のことを強調することで、同拡大会議議長として(米国に肩入れするのではなく)中立な対応を取るよう、無言の圧力を掛けている。
閉じる