英国メディアが、9月中旬に発生した中国在日本人学校生徒刺殺事件は、愛国心による外国人嫌悪から発生したと考えられる3件目の事件であるのに、中国政府は「偶発的な個別案件」として黙認しているとして批評している。
10月14日付
『BBCニュース』は、中国在日本人学校生徒刺殺事件等にみるオンラインナショナリズム(ネット上の愛国心運動)を厳しく取り締まらない中国政府の姿勢を批評している。
9月中旬に発生した広東省深センの日本人学校生徒刺殺事件は、6月中旬に吉林省の公園で起こった4人の米国人大学講師の刺傷事件、及び同月下旬に江蘇省蘇州の日本人学校付近で発生した中国人スクールバス案内係の刺殺事件(襲われた日本人母子を守ろうとして犠牲)に続く今年3件目の事件である。
しかし、日本政府が、外国人嫌悪が動機とみられる一連の事件について、原因と考えられる「悪意ある反日投稿」を厳しく取り締まるよう要望するも、中国政府は「偶発的な個別案件」として言わば黙認する対応を示した。
これに対して、中国内外の専門家のみならず、中国国営メディアからも「行き過ぎたオンラインナショナリズム」を非難する声が上がっている。
●南京大学歴史学院(1902年前身設立)の張生教授(チャン・シェン)
・かつては紅衛兵(ホンウェイピン、注1後記)が招集され、今は小粉紅(シャオフェンホン、リトルピンク、注2後記)が招喚されている。
・すなわち、非愛国的と見做される中国人に対して、オンラインナショナリズムによる攻撃を仕掛ける「文化大革命2.0」が展開されていると警鐘を鳴らす。
●国営『環球時報』(1993年創刊)元編集長の胡錫進氏(フー・シージン、64歳)
・ナショナリストのブロガーが、2012年ノーベル文学賞受賞の莫言氏(モー・イエン、69歳)に対して、日本兵を美化している等から非愛国的で中国を侮辱したとして同氏を糾弾していることは国家主義的であり、一般社会に萎縮効果をもたらす可能性があると警告。
●中国社会科学院(1977年設立)社会学者・政治学者の于建嶸教授(ユ・チャンロン、62歳)
・最近の外国人刺殺事件は、危険なポピュリスト主義によって煽られており、最大限の警戒が必須。
●中国共産党機関紙『人民日報』(1949年創刊)
・オンラインナショナリストは、“愛国心を利用してビジネスにしている”と非難。
・すなわち、世論を煽り、火に油を注ぐような投稿をしてアカウントを稼いで個人的利益を貪っていることから厳罰が必要。
●ライデン大学(1575年創立のオランダ最古の大学)オンライン・チャイニーズ・ナショナリズム研究専門のフロリアン・シュナイダー教授
・インフレ、住宅問題、若者の高失業率、年金喪失等、現在中国が抱える経済減速と社会的倦怠感が蔓延する中、ナショナリズムはかかるフラストレーションを発散させる上で重要な思考枠組み。
・また、ナショナリストのブロガーや著名なインフルエンサーは、中国と中国共産党の美徳を称賛する愛国的な投稿を繰り返し、外敵を非難することで何百万人ものフォロワーを集めて個人収入を獲得。
・これらの人たちは革命的な左翼の熱意の名の下に活動するが、彼らの行動は実際には、外国人嫌悪や反動的な運動を主導する他の国々に見られる極右と似ていると分析。
●香港バプティスト大学(1956年創立の公立大)コミュニケーション学部のローズ・ルチウ准教授(55歳)
・国家が支持する愛国心と、外国の影響を嫌悪する中国政府の絶え間ない警告が、我々を取り巻く強烈なナショナリズムを惹起していると非難。
・一方、オンラインナショナリズムを政府が厳しく取り締まらない裏には、現在の経済問題に伴う国民のフラストレーションのはけ口としてネット上の愛国運動を是認しているという解釈が成り立つ。
一方、中国政府としては、2019年の香港での民主化運動、また2022年のゼロコロナ政策に対する白書の抗議活動を成功裏に鎮圧できていることから、オンラインナショナリズムの台頭に伴う危機管理はできると確信していると考えられ、従って、上述のような様々な反発の声が上がっているにも拘らず、今後も黙認していく可能性が高いとみられる。
(注1)紅衛兵:中国の文化大革命時期(1966~1976年)に当時の最高指導者毛沢東(マオ・ツォートン、1893~1976年)によって動員された全国的な学生運動を行った組織・人々。学生が主体であるが、広義には工場労働者を含めた大衆運動と同じ意味で使われる。
(注2)小粉紅:中国における1990年代以降に生まれた若い世代の民族主義者のこと。彼らは、「未熟な共産主義者」であり「完全に赤く染まっていない」という意味で、中国語で小粉紅と呼ばれる。
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先週、中国江蘇省蘇州市のバス停で日本人母子が襲撃され、これを中国人女性が阻止した事件を受け、中国のネット企業は、オンライン上にみられる反日感情のような過激なナショナリズムを取り締まると発表している。
7月1日付
『ロイター通信』:「日本人襲撃事件を受け、中国ソーシャルメディア企業がヘイトスピーチ批判」:
先週1人が死亡し日本人母子が負傷した襲撃事件を受けて、中国のソーシャルメディア大手企業が日本人を標的としたネット上のヘイトスピーチを批判し、強気の対応を発表している。
このような感情や国家主義思想が問題となるのは珍しいことではないが、「ウィーチャット」や「テンセント
」、「ティックトック」を運営するバイトダンス社の姉妹サイト「ドウイン」、投稿サイト「ウェイボ」、ゲーム大手「ネットイース」が先週のヘイト投稿を批判している。
ドウインは30日の投稿で、「過激で間違えた発言は外国人嫌悪を助長し、プラットフォームの平和で前向きな雰囲気を阻害し、違法行為をあおり立てるもの」だと述べている。
中国における反日感情は、第二次大戦下の中国侵攻の苦い記憶を発端としており、襲撃で日本人を標的としたことを称賛するような声も一部みられる。「ドウイン」では、55歳のバス乗務員を称え追悼するコメントが多数みられ一方、過激な発言が目立ったという。
中国国営メディアもネット上のヘイトスピーチを批判している。先月28日の人民日報の社説では、「我々は個人が外国人嫌悪やヘイトスピーチをあおることも容認しない。これは主流の中国社会や中国人には受け入れられない」としている。
同日付英『Guardian』:「ナイフ襲撃事件を受け、中国IT企業がネット上のヘイトスピーチ対策」:
先週末、中国のネット二大企業「テンセント」と「ネットイース」はオンライン上の行き過ぎたナショナリズムを取り締まるべく調査を行い、ヘイトを助長するユーザーのアカウント停止するとしている。
先週、東部蘇州で周という名の無職の男が日本人学校の母子をバス停で刃物で刺し負傷させ、仲裁に入った中国人胡有平さんが死亡した。胡さんはネット上で勇敢なヒーローだと称賛され、中国日本国大使館では反旗が掲げられのだが、その一方で、過激な国家主義的反応がみられている。
対話アプリ「ウィーチャット」を運営するテンセントは、「事件が公衆の関心を集めている。ネティズンの中には日中の対立を煽ろうとする人もいる」と発表。
一月に5億8800万人のユーザーが利用している投稿サイト「ウェイボー」は事件後、「国家主義感情を刺激するような過激な発言や、集団憎悪を助長させ、中には愛国主義の名目のもとに犯罪を称賛する」ようなユーザーもいるとしている。
ショート動画アプリ「ドウイン」は、中国の日本人学校関連を含むアカウント上の過激な外国人嫌悪(ゼノフォビア)を調査するとしている。
日本への憎悪を示す「反日感情」が近年中国のネット上でみられるが、政府批判への検閲への対応には迅速な中国当局やネット企業は殆ど介入していない。差別的な日本人教員に反抗する中国人児童の動画など「日本人学校を叩く動画」が特に人気があるという。
対策として、「ウェイボー」は違法なコンテンツ759個を削除、テンセントは違反のあった836投稿に対応し、両社は幾つかのアカウントを停止したという。こうした企業側の反日コンテンツ取り締まりに不満をもつ人々もいる。
中国当局は、北西部吉林省で米国人教員らが公園で刃物で襲撃された事件の2週間後に起きた今回の襲撃事件だけを特例としたものではないとしている。
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