米大統領選で、投票日後4日経ってから漸く、ジョー・バイデン民主党候補(77歳)が勝利宣言を行った。ドナルド・トランプ大統領(74歳)は往生際が悪く、法廷闘争に一縷の望みをかけて伝統的な“敗北宣言”を行おうとしないが、市場はもとより世界のほとんどの首脳がバイデン候補の当確を祝福した。ただ、トランプ大統領との個人的関係に拠っていたロシアと北朝鮮の首脳は恐らくがっかりしているものとみられる。
11月8日付
『AP通信』、
『ロイター通信』、
『AFP通信』他:「世界の首脳、バイデン次期大統領との新たな関係に期待」
世界の主だった首脳が11月8日、ジョー・バイデン民主党候補の大統領選当確を祝福した。
何故なら、ドナルド・トランプ大統領の4年間は、国際的な協調を全て拒否する政策が進められていたため、これで漸く米国首脳と、気候変動(パリ協定)、新型コロナウィルス(COVID-19)感染症対策、その他諸々の重要問題について協議することができると期待されるからである。
すなわち、トランプ大統領が“米国第一主義”を掲げて悉く問題化させたパリ協定、北大西洋条約機構(NATO)、世界保健機関(WHO)等について、欧州やアジアの同盟国は改めて真剣に取り組むことを望んでいる。
まず、菅義偉首相(71歳)がツイッターで、“日米同盟を更に強固なものとするために、また、インド太平洋地域及び世界の平和、自由及び繁栄を確保するために、一緒に取り組んでいきたい”と祝福した。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン、67歳)大統領も同じくツイッターで、“共通する価値観”を強固にするために共に努めたいと表明した。
一方、トランプ大統領と敵対してきた中国では、表立った反応はみられず、ただ、SNS中国人ユーザーは、(トランプに辟易していたためか)バイデン氏に代わることを歓迎している。
更に、中国国営『人民日報』は、トランプ大統領が“大差で勝利”したと述べた際、“あはは!”と大笑いするツイートを投稿している。
また、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン、64歳)総統は、今年1月の再選時にバイデン氏から祝福されていたこともあって、“バイデン氏の自由で開かれた社会を目指す姿勢に共感し、更に友好関係を深めていきたい”とのメッセージを送った。
一方、トランプ大統領と友好関係にあったウラジーミル・プーチン大統領(68歳)は目下のところ何ら反応を見せていない。
しかし、同じくフィリピンのトランプとの異名を取って親交のあったロドリゴ・ドゥテルテ大統領(75歳)は、トランプ氏の“選挙は終結していない”との主張を退け、バイデン氏の当選を祝っている。
また、NATOの防衛費供出問題でトランプ氏ともめていた欧州諸国も、バイデン氏当確を歓迎している。
ドイツのハイコ・マース外相(54歳)は、“(バイデン氏と共に)NATO体制につき新たな協力関係を構築していきたい”とツイートしている。
その他、トランプ大統領にやり込められた首脳も、次々にバイデン氏を祝福している。
カナダのジャスティン・トルドー首相(48歳)は、北米自由貿易協定の問題のみならず、トランプ氏から個人攻撃を受けていたこともあって、“バイデン次期大統領、カマラ・ハリス次期副大統領(56歳)、及び米議会と一緒になって、国際社会の難題に取り組んでいきたい”と強調した。
更にオーストラリアのスコット・モリソン首相(52歳)も、“米国との重要なパートナーシップ”を強化し、“自由で開かれたインド太平洋地域の確保”に向けて協働していきたいと表明した。
また、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(66歳)、フランスのエマニュエル・マクロン大統領(42歳)、エジプトのアブドルファッターフ・アッ=シーシー大統領(65歳)も、バイデン氏の当選を祝うメッセージを送っている。
一方、ベネズエラでは、トランプ大統領と敵対してきた反米主義のニコラス・マドゥロ大統領(57歳)も、また、反対に支援を受けてきた親米主義のフアン・グアイド国民議会議長(37歳)も、それぞれ同時にバイデン氏を祝福している。
その他、主だった次の首脳がバイデン氏の当選を祝っている。
・パキスタンのイムラン・カーン首相(68歳):違法な租税回避地の根絶やアフガニスタンの和平調整への期待。
・インドのナレンドラ・モディ首相:トランプ大統領との2ショット写真を看板にする程の仲だったが、バイデン氏との写真も公開して、“目覚ましい勝利を祝福”とメッセージ。
・イラクのバルハム・サリフ大統領(60歳):2003年に米軍がイラク侵攻した際の米側中心人物ではあったが、バイデン氏とは親交があり信頼できるパートナーと評価。
・アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーン皇太子(59歳):トランプ氏娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問(39歳)と親交が深いが、バイデン・ハリス両氏をツイッター上で祝福。
・イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(71歳):ツイッターのプロフィールにトランプ氏との2ショット写真を使用しているが、バイデン・ハリス両氏と共に米・イスラエル同盟関係強化に邁進したいとメッセージ。ただ、別の声明で、トランプ氏のお陰で米・イスラエル関係が大きく前進できたことに感謝と表明。
・英国のボリス・ジョンソン首相(56歳):トランプ氏の盟友であったが、バイデン氏と“気候変動対策から通商、安全保障までのあらゆる分野での親密な連携に期待”とメッセージ。
一方、トランプ氏と特に親密だった、ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領(65歳)、サウジアラビアのモハンマド・ビン・サルマーン皇太子(35歳)は沈黙を守り、また、メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領(66歳)は、“(開票やトランプ氏提訴の結果等)全ての事態が解決するまで”静観したいと表明している。
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トランプ大統領夫妻が、新型コロナウィルス(COVID-19)に感染していることが判明した。同大統領から散々敵視された中国では、多くの人がソーシャルメディア上で“COVID-19を軽視した罰が当たった”と言及すれば、国営メディアは、劣勢が予想される大統領選を延期させるための巧妙な作戦だ、とまで酷評している。
10月2日付米
『バイス』オンラインニュース:「トランプ大統領のCOVID-19感染報道に対する中国ソーシャルメディアの反応」
ドナルド・トランプ大統領及びファーストレディーのメラニア・トランプ氏がCOVID-19感染していることが判明し、自主隔離することになった。
数週間後に大統領選を控えた時期の現職大統領の感染報道に、米政治への影響が懸念される。
しかし、中国においては、数百万のインターネットユーザーが、10月2日に飛び込んできた驚くべきニュースに対して、驚いただけでなく、気晴らしだと感じたり、またシャーデンフロイデ(他人の不幸を喜ぶ感情、注後記)を表した。
同ニュースは、まるで山火事のように僅か数分間でインターネット上に拡散し、ミニブログサイト微博(ウェイボー)では瞬く間にトップ・トレンドとなった。
同ブログ上でも、COVID-19の恐ろしさを無視しただけでなく、中国発症の感染症だと何度も繰り返していたリーダーが感染したとして、食後のおいしいデザートのような甘美な話だと言ったり、罰が当たったと罵倒したりしている。
また、中国国営メディアも10月2日、同大統領の感染につき大々的に報道し、中には、“劣勢となっている大統領選の投票日を延期させるための巧妙な作戦だ”との評論家コメントをも紹介している。
同大統領はこれまで、COVID-19を過小評価してきていた。
3月に全米で都市封鎖措置が講じられた際でも、同大統領は、感染症専門家が恐れる程深刻な感染症ではないと何度も述べている。
その上で、保健当局から大勢の集会は控えるようにとの警告が出ているにも拘らず、大統領選支持者集会を強行開催し、また、しばしばマスク不着用で登壇していた。
更に、陽性が判明する数時間前には、選挙関連の会食の席上、“COVID-19の終焉が見えてきた”とし、“来年は史上最高に素晴らしい年になる”とまでアピールしていた。
南カリフォルニア大(1880年設立の私立大学)政治学・国際関係部の中国専門家のスタンリー・ローゼン教授は『バイス』のインタビューに答えて、“中国は国を挙げてCOVID-19対策に取り組んできたので、習近平(シー・チンピン)国家主席が感染することなど考えられない”とし、“中国が抑え込んだに比べて、現職大統領が感染してしまうとは、米国は何と愚かにもCOVID-19を軽んじたことか、と多くの中国人は思っているはずだ”とコメントした。
なお、アジアのその他の国々でも注目され、フィリピンではハッシュタグ“#トランプ陽性”がトップ・トレンドに、シンガポールでは“トランプ”、“メラニア”、“COVID”が検索トップとなる等、数百万人がツイートしている。
同日付中国『チャイナ・ナショナル・ニュース』:「トランプ大統領感染のニュースに中国では様々な反応」
『新華社通信』は、トランプ大統領自身の感染ツイートに基づいて詳報しているが、『人民日報』は、一面掲載だが数行触れただけである。
中国外交部(省に相当)は、トランプ夫妻の早期快復を祈念するとコメントした。
しかし、『環球時報』の胡錫進(フー・チーチン)主筆は、“トランプ夫妻は、COVID-19を軽視した罰が当たった”とし、“これで、米国におけるCOVID-19感染が依然深刻であることが明らかになった”と辛らつにツイートしている。
一方、独立系学者の張同祖(チャン・トンチュー)氏は、中国以外の多くの国の指導者が感染しているのに、何故中国では、国家主席はもとより、首相や中央政治局委員等幹部の誰一人として感染していないのか、と素朴な疑問を呈している。
(注)シャーデンフロイデ:自分が手を下すことなく他者が不幸、悲しみ、苦しみ、失敗に見舞われたと見聞きした時に生じる、喜び、嬉しさといった快い感情。「損害」「害」「不幸」などを意味する "Schaden" と「喜び」を意味する "Freude" を合成したドイツ語。
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