7月17日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』:「インド、中国包囲網強化のため豪州に対し共同海上演習参加への招待の意向」
インド政府はこの程、中国包囲網を強化するため、毎年行われてきた日米印3ヵ国の共同海上演習“マラバール(注1後記)”に豪州を招待する考えを固めつつある。
これまでインドは、同演習への豪州からの参加希望表明に対し、中国から反感を買うことを恐れて、二の足を踏んでいた。
しかし、先月中旬にヒマラヤ山脈西部のカシミール地方で発生した中印国境衝突(注2後記)
で45年振りにインド軍側に犠牲者が出たことから、インドとしても中国対抗のための連携強化が必要と考えたものとみられる。
インド独立系シンクタンク監視・研究財団の著名研究員のラジェスワリ・ラジャゴパラン・ピライ氏は、“中国による挑戦的な行動を契機として、インドが、米国に加えて豪州や日本
との協力体制構築を真剣に検討し始めた“と分析している。
インド海軍前報道官のD.K.シャーマ氏は、“中国に対抗していくためには、インドや豪州はお互いが連携する他選択肢はない”とコメントした。
米印両国の間で始まったマラバール共同海上演習は、その後日本も正規加盟し、3ヵ国で毎年開催されてきた。
そして、シンガポールなどが不定期に参加し、豪州も2007年に初参加したが、中国から猛烈な抗議を受けたことから、以降豪州政府は参加を見合わせた。
ただ、ここ数年豪州が再び参加意思を伝えてきたが、中国との関係を慮り、インドが豪州参加に積極的になれないでいた。
今回のインド側の動きに対して、豪州国防部報道官は、まだ正式な招待状は受領していないとしながらも、“豪州が加わった4ヵ国の連携体制で、インド太平洋地域における自由で開かれた状況を維持していくことに役立てる”と表明した。
ワシントンDC本拠のシンクタンクのウィルソンセンター(1968年に米議会が設立)アジア研究部のマイケル・クーゲルマン副部長は、“4ヵ国共同海上演習を実施することで、4ヵ国連合の更なる具体的活動が見こされ、インドにとって中国対抗のための有効な戦略と実感することになろう”と分析している。
一方、インドは最近になって東南アジア諸国、特に南シナ海で中国と領有権問題を抱えているベトナムやフィリピンとの連携を進めようとしている。
ワシントンDC本拠のヘリテージ財団(1973年設立の保守系シンクタンク)アジア研究センターのジェフ・スミス氏は、“東南アジア諸国にとっても、中国と対峙していく上で、インドと連携できるのは渡りに船と考えている”とした上で、“地域の連携が強化され、かつ、国際法や国際秩序の遵守を求める声が強くなればなる程、中国にとって制海権を主張していくことが難しくなる”とコメントした。
インドにとって、主要な関心事は南シナ海よりもインド洋であるが、中国がスリランカ等に中国の影響力が及ぶ港湾建設を進めていることもあって、どちらの海域であっても航行の自由が確保されることが重要だと主張し始めている。
そしてインド外務省は今週、南シナ海は“地域の平和と安定を望むインドにとって、同じく関心の対象となる海域”だと表明している。
なお、4ヵ国共同海上演習が実施された場合、インドの監視・研究財団のラジャゴパラン氏は、“例えば、インド太平洋地域での4ヵ国協調の監視航行等の活動の具体化が想定される”とコメントしている。
同日付インド『ヒンドゥスタン・タイムズ』紙(1924年創刊):「日米印3ヵ国の次回マラバール演習に豪州参加の舞台準備」
インド政府関係筋の匿名情報によると、日米印3ヵ国で毎年開催されているマラバール共同海上演習に、豪州が参加するための準備が進められているという。
同演習は、毎年春~夏のタイミングで開催(2019年は9月に日本近海で開催)されてきたが、今年は新型コロナウィルス感染流行に伴って年末頃まで延期されることになっている。
ただ、豪州宛の正式招待状の出状はしばらく繰り延べされている。
何故なら、インドとしては目下、先月半ばに発生したカシミール地方における中印軍事衝突後の緊張緩和に向けて事後処理を行う必要があるため、中国を悪戯に刺激することを避けたいという思惑があるからとみられる。
しかし、政府筋の話では、インドと豪州の連携強化は双方にとって有益であることから、いずれにしても年末までには4ヵ国共同海上演習が実施されることになるという。
(注1)マラバール(海上演習):1992年にインド洋で米印2ヵ国によって始められた年次共同海上演習。2015年に日本が正式参加し、以降インド洋と西太平洋で交互に開催。シンガポール及び豪州も不定期に参加。
(注2)中印国境衝突:6月16日にヒマラヤ山脈西部(インド北端、中国南西端)のカシミール地方ガルワン渓谷で発生した中印両軍の衝突で、インド軍兵士20人が死亡。中国軍には犠牲者が出ていない模様だが、中印国境紛争で死者が出たのは1975年以来のこと。なお、中印両国は、ヒマラヤ山脈東部のシッキム州(ブータン西側で今年5月も両軍衝突)及び北東端のアルナーチャル・プラデーシュ州(ブータン東側)においても長い間国境問題を抱えている。
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トランプ米大統領は22日、米国の中央銀行制度の最高意思決定機関である連邦準備制度理事会(FRB)の理事に、保守系シンクタンクのエコノミスト、スティーブン・ムーア氏を指名する意向を表明した。
『ブルームバーグ』『AFP通信』『CNN』などのメディアの報道によれば、ムーア氏は保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の客員研究員で、2016年米大統領選でトランプ陣営の経済顧問を務めるなど、長年トランプ氏を支持している。
ムーア氏は、利上げを続けたFRBのパウエル議長体制を厳しく批判している。同氏は昨年12月、パウエル氏は「経済を破綻させている」として、トランプ氏に解任を要求していた。しかし、同氏の悲観的予測はしばしば外れることもあるとメディアは報じている。ムーア氏は量的緩和としてのFRBの有価証券の購入を批判し、米国はハイパーインフレに突入しようとしていると警告したが、実際には、さほどのインフレは起きなかった。
トランプ大統領は22日、フロリダ州パームビーチに向かう途中、記者団にムーア氏の指名を発表した後、ツイッターに投稿し、「非常に評価の高いエコノミストであるスティーブン・ムーア氏を、FRB理事に指名することを発表できて嬉しい。私はスティーブを長年知っているが、間違いなく素晴らしい人選となるだろう。」と述べた。
ムーア氏は、FRB理事に就任する前に厳しい審査を受け、米上院により承認を受けねばならない。現在、FRB理事の7人の定員には2つ空席があり、その内の1つを埋めることになる。理事の任期は14年で、任期の開始と満了時期は理事毎に異なり、空席となっている前任者の残りの任期を引き継ぐ場合には、14年より長くなる場合もある。
トランプ大統領は、FRBでの経験がないか、その政策に反対する人物をFRBに送り込んでおり、ムーア氏の指名は、大統領の意向に沿った人事だ。ムーア氏を理事にして、パウエル氏を監視し、追加利上げを阻止する狙いもあるともみられている。しかし、こうした人事は、権力から独立した機関であるFRBの性格を大きく変えることにもなり得る。トランプ氏はまた、FRBの政策を公然と批判しているが、これも極めて異例のことだ。
米商務省は先月、2018年の実質経済成長率を、15年と並ぶ3年ぶりに高い2.9%と発表した。トランプ氏は、FRBを米経済の「最大の脅威」と言い切り、22日のテレビインターでは、米国の経済成長率は、FRBが利上げをしなければ4%を超えていたと主張した。
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