いろいろ批判がある中で、取り敢えず新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題禍の東京オリンピックが終焉した。そして6ヵ月後に北京冬季オリンピックが控えるが、中国の人権問題が国際社会から大きな非難を浴びる中、米国高官も完全ボイコット案から外交・財務上のボイコット案まで持ち出す等、ともかく平穏に開催することへの問題提起が喧しい。
8月11日付
『デイリィ・コーラー』(2010年創刊の保守系メディア):「米国、冷戦下でのモスクワオリンピックのボイコットと違って、2022北京大会ボイコットは問題含み」
米国の高官の中には、中国政府による人権蹂躙やCOVID-19発生時の間違った対応等が、2022北京オリンピックをボイコットする十分な理由となると主張する声があるが、専門家は『デイリィ・コーラー』のインタビューに答えて、政治的・財政的な悪影響より完全なボイコットは難しいとコメントした。
完全ボイコットを主張するニッキー・ヘイリィ元国連米大使(49歳)は『Foxニュース』への寄稿文の中で、ウィグル族への不当な扱いを含めて中国政府の人権蹂躙問題は深刻であるので、米国が選手団を派遣することは、中国政府のプロパガンダ(注後記)の正当性を認めることになる、と糾弾した。
同氏は『デイリィ・コーラー』のインタビューに答えて、“1936年ドイツ大会は、ナチスドイツのプロパガンダ高揚の場と化してしまった”とした上で、“もし今回のオリンピックがキューバや北朝鮮で開催されるとならば、当然選手団を派遣する話など考えられないはずだ”と強調した。
一方、共和党重鎮のミット・ロムニー上院議員(74歳、ユタ州選出)は『ニューヨーク・タイムズ』紙への寄稿文の中で、オリンピック目指して長い時間努力を重ねてきたアスリートを落胆させるのではなく、同大会に幹部外交官を派遣しないとか、米企業がスポンサーから降りる等の限定的なボイコットの方がもっと効果的である、と主張している。
その他、上院超党派グループは国際オリンピック委員会(IOC)に対して、2022年冬季大会の開催地変更を申し入れている。
また、下院外交委員会は、IOCに開催地変更を求める決議案を下院議会に提出して、もしIOCが応じない場合、ボイコットも辞さじとの脅しをかけている。
このように、米国における北京大会ボイコットの話は、マイク・ポンペオ前国務長官(当時57歳)が今年1月、中国政府によるウィグル族の不当な扱いを“民族大虐殺”だと非難した頃から俄然活発化した。
ただ、専門家は『デイリィ・コーラー』に対して、中国政府からの政治的・財務的な報復が巻き起こり、ボイコットを検討している米国やその他諸国にとって、具体的な結論を出すことを難しくさせていると解説している。
オリンピックへの参加ボイコットは、1980年モスクワ大会に対して米国及び同盟国が行った。
国務省の保存公文書によると、当時のソ連軍がアフガニスタンからの撤退を拒否したことから同大会をボイコットすることになったという。
当時の記録によれば、ジミー・カーター第39代大統領(1977~1981年在任)が、モスクワに渡航しようとするアスリートのパスポートを没収すると脅したと言われる。
米保守系シンクタンクのヘリテージ財団(1973年設立)によれば、同大統領は更に、ソ連と初めて締結した米国産トウモロコシ・小麦・大豆合計1,700万トンの供給契約を破棄したという。
しかし、国連ジュネーブ事務所元米国大使で、現在NPO法人共産主義犠牲者記念財団(1994年設立)代表のアンドリュー・ブレムバーグ氏(42歳)は『デイリィ・コーラー』に対して、1980年のボイコットは、結果的にソ連よりもアスリートに大きな被害をもたらす結果となってしまったとコメントした。
その上で同氏は、同財団は完全ボイコットを主張してはいないが、開催地の変更を要求していて、“(予定どおり北京で開催されるならば)米国やその他諸国が外交トップの出席を見合わせることが最も効果的である”とし、“米放送局には、中国における人権問題を詳報し、かつ、オリンピックへの参加は、中国政府ではなくオリンピックそのものを支援しているということをきちんと伝えるよう求める”としている。
一方、自由至上主義系のシンクタンク、ケイトー研究所(1977年設立)のティム・カーペンター上級研究員は、外交上のボイコットは良い考えだとするも、“その規模や強調すべきレベルについて、米国は中国と敵対することを厭わない他諸国と協調する必要がある”としている。
同氏によれば、“特に弱小国は、中国と敵対することを望まず、また、ボイコットすることに価値を見出さないため、ボイコット運動に参加することは避けると考えられるからだ”という。
また、同氏は、スポンサー企業の撤退や広告取り止め等を求める声もあるが、企業自身がビジネス上の問題で中国ともめたくはないと考えるため、この案も難しいと分析している。
“中国側が、台湾問題や東・南シナ海での領有権問題を理由として米国産品の不買運動等を展開することに、米企業は恐れを抱いている”とする。
例えば、世界規模でスポーツ用品ビジネスを展開するナイキ(1964年設立)のジョー・ドナヒュー社長(61歳)は『CNBCニュース』のインタビューに答えて、同社は中国にもっと投資していく意向であり、中国市場を重要拠点と捉えていると強調している。
英国コンサルタント会社グローバル・データ(1999年設立)スポーツ分析部門のコンラッド・ワイアセック部門長は、“中国の現在の国際市場における地位を考えたら、どの国にとっても北京大会ボイコット運動を展開することなど難しいと考えるはずだ”と分析している。
同部門長によれば、特に中東・アフリカ・南米の多くの国が、中国との貿易や経済的支援に頼っている現状から、ボイコットへの同調を求めることは難しいという。
更に同部門長は、財務的なボイコットについても、中国市場への食い込みを目論んでいる巨大企業にとっては考えにくいとする。
そして、肝心のIOCも、2024年パリ大会、2028年ロスアンゼルス大会、更には2032年ブリスベン大会を控えていることから、中国を刺激するような対応は取れないはずだ、とも言及している。
(注)プロパガンダ:特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為の事。通常、情報戦、心理戦もしくは宣伝戦、世論戦と和訳され、しばしば大きな政治的意味を持つ。最初にプロパガンダと言う言葉を用いたのは、1622年に設置されたカトリック教会の布教聖省の名称である。ラテン語のpropagare(繁殖させる、種をまく)に由来する。
閉じる
米下院は3日、民主党が最重要法案の1つに掲げる選挙改革法案を可決した。今後上院で審議される予定だが、米国における選挙方法を根本から変えてしまう法案であるとして、共和党が猛反発している。
ペンス前副大統領が所属するシンクタンク
『ヘリテージ財団』は、法案のどの部分に問題があるのか、懸念される点をいくつか報じている。例えば、法案は、選挙手続きの多くの重要な部分を州当局から連邦政府に移管し」これまでの分権化を拒否して、中央集権的な選挙プロセスに変えようとするものだと指摘している。
法案はまた、選挙日当日に投票所での有権者登録を可能にしようとしている。しかし有権者登録情報が正しいかどうか、投票資格があるかどうかを確認する照合用データも時間もない状況下で、投票を受け付けることになるため、複数の投票所で登録できてしまうなど、不正行為を容易にすることが懸念される。法案はさらに、投票所での身分証明書の確認も禁止し、本人であると申告する声明に署名するだけで投票できるように義務化しようとしている。
法案には、有権者登録の自動化も盛り込まれている。しかし、連邦政府レベルの社会保険省、労働省、刑務所局、保健福祉省だけでなく、州政府レベルの自動車免許証や福祉事務所に登録されている人も自動的に有権者として登録されることを求めている。つまり、重複登録だけでなく、不法移民や外国人も自動で登録される可能性が出てくるため、有権者リストの精度を下げてしまうことが懸念される。
法案はまた、登録された有権者の住所を確認するために、州レベルで米国郵政公社の全国住所変更システムを使用することを禁止し、複数の州に登録されている個人を検出するために有権者登録リストを比較する州のプログラムに参加することも禁止し、投票を行っていないことが確認されている登録者を、どれほど古いデータであったとしても登録者リストから削除することを禁止しようとしている。つまり、配達不能の郵便物をもとに登録者リストを更新することや、有権者の適格性を確認することが不可能になってしまう。
民主党はさらに、運転免許証のような公式登録データに結び付けられない、オンライン有権者登録というのも導入しようとしているが、ハッカーやサイバー犯罪者による大規模な有権者登録詐欺を呼び込む危険性が危惧されている。
法案はまた、選挙担当者が投票を監視し、投票所のスタッフを配置し、十分な投票用紙を提供し、選挙の不正行為を防ぐことを可能にする、ほぼすべての州で使用されている選挙区制度を覆して、指定された管区外の有権者によって投じられた投票を数えることを州に要求している。なお、不在者投票の回収は、家族や介護者以外の誰であっても、政治団体や活動家であっても回収できるようになる。
米ニュースサイト『ジョージア・スター・ニュース』共和党の20州の司法長官は、米下院を通過した選挙改革法案は違憲だとして米下院と上院両方の議長に書簡を送ったと報じている。
司法長官らは、米国憲法第1条と第2条では、選挙運営の権限を州議会に与えており、州には大統領選挙を管理する独占的な責任が与えられていると指摘している。また、建国の父たちは、広範囲にわたる議論の後、「大統領の地位と権限が連邦議会に依存することを避けるために、大統領選挙人がどのように選ばれるか」を決定するため、意図的に権力を分割した、と書簡は述べている。
過去の最高裁での判決例も挙げながら、「連邦議会は、例えば、郵便投票や街頭投票による大統領選での投票を州に許可するよう強制することはできない」と指摘している。各州の有権者識別法の廃止、各州の有権者登録を維持する方法の制限、連邦登録データベースの作成など、多くの条項が違憲であると主張している。
書簡は、「おそらく最も悪質なのは、有権者ID法に対する制限である。」と指摘している。現在35の州では、投票するために何らかの形での身分証明書の提出が義務付けられているが、法案ではこれを撤廃しようとしている。
しかし2005年、カーター元大統領と当時のベイカー国務長官が率いる超党派の委員会は、顔写真付き身分証明書の提出を義務付けることが有権者の不正行為を最小限に抑える最善の方法であると認識した。この委員会の支持を受けて、各州は有権者ID法を可決し始めた。2008年には、最高裁がインディアナ州の有権者ID法を支持している。司法長官らは、有権者登録の適切な方法を決定するのは連邦政府ではなく、各州に委ねられているのであり、各州の投票アクセスや不正行為の経験に基づいて決定するべきだ、と主張している。そして、法案は「憲法の構造を覆し、州の資源を奪い取り、選挙手続きに混とんと混乱をもたらし、選挙と統治システムに対する信頼を損なわせる」と訴えている。
閉じる