ロシアは、自ら仕掛けたウクライナ戦争で武器・兵員に多大な損失を出しており、北朝鮮から武器・弾薬を密かに手に入れようとしているだけでなく、ロシア人への招集令状をオンライン通知で有効(本人の受信確認に拘らず)とする程、形振り構わなくなっている。そうした中、中央アジアの旧ソ連邦国からの移民労働者を駆り立ててウクライナの戦場に送り込んでいることが分かった。
10月7日付チェコ
『ラジオフリーヨーロッパ』(RFE、注後記)は、ロシアが、旧ソ連邦国からの移民労働者をウクライナ戦争に駆り立てていると報じた。
『RFE』はこれまで、中央アジアからロシアに移民労働者として入国したうちの数百人が、ウクライナにおけるロシアが一方的に併合した地域でロシア企業に雇われて前線で働いていたと報じている。
ウクライナ政府も、彼らは侵攻したロシア兵らと同等と見做されていると主張している。
その多くは戦争の犠牲者となり、中央アジアの母国に埋葬されるため送り帰されていた。
そしてこの程、『RFE』はキルギス(1991年8月旧ソ連邦より独立)からの移民労働者から、複数の証言を得た。
統計データによると、失業率の高いキルギスからロシアに移民労働者として入国してくる人は数十万人に上っている。
まず、10年前に職を求めて移民したA氏(女性)は、コックとしてハバロフスクで働いていたが、ロシアの市民権を持っていなかったものの、ロシア軍の採用担当者からウクライナの戦闘地域での就業をリクエストされたという。
当該採用担当者は、“月20万ルーブル(2千ドル、約30万円)、年俸なら100万ルーブル(1万297ドル、約154万円)を保証する”とし、“ロシアの市民権を持っていなくとも大丈夫”と説得してきたが、彼女は“お金より命の方が大事”と言って即刻断ったという。
彼女によると、“若い男性の場合は、高い報酬のみならず、ロシアの市民権も与えるとの条件を付けて勧誘しているが実際は圧力をかけられていた”とし、“戦闘に加わることを拒否してキルギスに戻った人たちもいる”という。
ウクライナ戦争におけるロシア兵の犠牲者が多数に上っていることから(西側諸国情報では12万人強)、ウラジーミル・プーチン大統領(71歳、2000年就任)は2022年9月、職業軍人に加えてロシア国民の一部に部分的動員令を発出している。
また、ロシア民間軍事組織ワグネル(2014年活動開始)が、服役中の囚人までも対象に同軍にリクルートする活動を活発化していた。
かかる背景もあって、中央アジアから移民労働者として入国した人たちに加えて、囚人もその対象になっている。
ロシア人ジャーナリストで人権活動家のオルガ・ロマノワ氏(57歳)は、多くの女性服役者もウクライナのロシア領で働くよう動員されていると語った。
『RFE』は8月23日付記事で、ウクライナの戦場に送られた推定5万人の囚人の中に多くの中央アジア移民が含まれていたと報じている。
麻薬密輸罪で12年の禁固刑を受けて服役中のキルギス人女性B氏の親族は、『RFE』のインタビューに答えて、“ある時、ロシア国防省の高官が刑務所を訪れ、釈放する代わりにウクライナのロシア領に赴くよう説得された”としたが、“自分は刑期満了後に本国に帰りたいとして、断った”と親族宛の手紙に言及されていたと述べている。
ロマノワ氏によれば、ウクライナのロシア領内で服役中の約50人、また、ロシア国内刑務所の約100人の中央アジア出身移民女性が、ウクライナ戦争に駆り出されたとする。
彼女らは、看護士でもコックでもなく、“好戦的女性兵士”と呼ばれる突撃歩兵として戦わされているという。
更に、軍関係採用担当者は約10年ロシアで暮らすキルギス人女性C氏の自宅にも押しかけ、夫婦ともにウクライナで働くよう言われたという。
C氏によれば、“コックでも良いし、1、2ヵ月訓練すれば看護士としても働ける”と説得された由で、彼女の知り合いにも同様の勧誘があったとする。
なお、キルギス政府は、ロシア国内に居住する自国民に対して、外国の戦闘行為に加わることは自国法で犯罪となり、最長10年の禁固刑に処せられる場合があるので、決してそのような勧誘を受けてはならないと発信している。
ただ、キルギス人移民でロシア語やロシアの風習等に詳しくない者が、半ば騙されてウクライナに送られてしまうケースもある。
その内のD氏は『RFE』のインタビューに答えて、“ある時、街中で突然警察官に拘束されて、1ヵ月後に「教育キャンプ」に送られそうになった”とし、“彼らから署名を強制された契約書には、恐らくウクライナ戦争に加わる旨書かれている恐れがあると思って、同キャンプを逃げ出した”と証言した。
D氏によれば、“タジキスタン(1991年9月旧ソ連邦より独立)やウズベキスタン(同左)からの移民労働者も同様の目に遭っている”とし、“彼らも自分たちも、ロシア語が堪能でないと、携帯電話を没収された上で、契約書の意味の説明もないまま署名させられ、ウクライナの戦場に送り込まれようとしている”という。
(注)RFE:1949年設立の、米議会の出資によって運営されている報道機関。東欧からロシアを主な対象地域とするラジオ放送を行っている。本部はチェコ・プラハ。
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米国がロシア軍によるウクライナ侵攻が近づいていると警告する中、ウクライナ大統領は、数日以内にロシアが侵攻する可能性があるという納得できる証拠をまだ見ていない、と反論している。
『ロイター通信』は、米国の国家安全保障問題担当大統領補佐官のジェイク・サリバンが「その日を完璧に予測することはできないが、ロシアによるウクライナへの侵攻はいつでも始まる可能性があると以前から言ってきた。オリンピックが終わる前のこの1週間も含まれる」とCNNに伝えたことを報じている。ただし、米国は、ロシアの計画や時期に関する警告の根拠となる証拠はほとんど公開していない。
インドのメディア『インディア・トゥデイ』は、ウクライナのゼレンスキー大統領は、国民に冷静さを求める発言を繰り返す中、ロシアが早ければ今週半ばにも侵攻する計画をしている可能性があるという、ここ数日の米国当局の強い警告に疑問を呈した、と報じている。
米国当局関係者が、ロシアが16日を目標日としているとの情報を得たとの新たな報道に対して、ゼレンスキー大統領は、「我々はすべてのリスクを把握している、リスクがあることを理解している。あなた、あるいは誰かが16日から確実にロシア侵攻が始まるという追加情報を持っているならば、その情報を私たちに送ってください。」と語り、バイデン政権や米メディアからの警告に対する苛立ちを露わにした。
一方、米『ウォール・ストリート・ジャーナル』はウクライナ危機に対する米国とは異なるドイツの姿勢を報じている。首相に就任したばかりのショルツ氏は、歴代のドイツ首相と同様、西側同盟への加盟とロシアとの密接な関係のバランスを取ろうとしている。
ショルツ政権の関係者たちは、ショルツ首相がロシアに対して強硬な姿勢を取らないのは、ロシアからの報復の恐れや、ガス供給への懸念からではないと述べている。むしろ、ウクライナを欧米圏に引き入れ、武器を供給しようとするアメリカの動きが、ヨーロッパの不安定さに拍車をかけているのだと主張している。あるドイツ政府高官は、「ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないことは誰もが知っている」と語っている。2008年にNATOがウクライナを招待したのは戦略的な誤りだったとし、当時、ドイツやフランスなど西ヨーロッパの大国はこの動きに反対していた、と同高官は付け加えた。
フランスもドイツと同様に、キエフへの武器供給を拒否しており、ウクライナのNATOおよびEU加盟に断固反対している。マクロン大統領は、昨年から、ロシアのプーチン大統領との和解も模索してきた。
仏公共放送局『RFI』は、マクロン大統領は、プーチン大統領との首脳面談の後、ウクライナを訪れ、ゼレンスキー大統領とも面談したことを伝えている。そして、ウクライナの指導者たちは、フランス大統領がプーチン大統領とウクライナの「フィンランド化」、すなわち中立国として、ウクライナがNATOに加盟しないことを約束することに合意したのではないかと懸念している、と伝えている。
なお、米メディア『ラジオ・フリー・ヨーロッパ(RFE)』は、ロシアとの国境に近いウクライナ東部に位置する小さな村ブラホビシェンカでは、村人にとってロシア軍の侵攻は遠い話でしかないと、伝えている。
ここで生まれ育ったオレクサンドル・コポフさん(60歳)はRFEの記者に対し、「戦争?ここでは誰も信じないよ」と述べている。「この騒ぎが始まった2014年、村には戦車が来て、いたるところに州兵や兵士がいた。今は何も見えない。何もない。完全に空っぽだ。もし何かを隠していれば、見えていたはずだ。村人から機材を隠すことはできない」。と説明している。現在、村人にとって一番の関心事は戦争ではなく、子どもたちの教育環境を改善するためのスクールバスの復活とインターネット環境の整備だという。
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