したたかな中国は、新型コロナウィルス(COVID-19)問題に喘ぐ東南アジア諸国に対して、ワクチン外交を仕掛け、領有権問題で対立する周辺国を懐柔しようとしている。そして、政権移譲でトラブル続きの米政権の新体制が整う前に、既成事実化した南シナ海人工島の軍事拠点の恒久施設化に着々と取り組んでいる。
1月22日付
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「中国、軍事施設設置済みの南シナ海人工島の浸食を防ぐべく要塞化」
中国は目下、南シナ海パラセル諸島(西沙)内のウッディ島(1974年に中国がベトナムより奪って実効支配)の追加埋め立て工事を実施中で、同島の浸食を防ぐべく要塞化しようとしている。
衛星写真と中国政府文書から明らかになったもので、南シナ海の強烈な自然環境に耐えるべく、必要な補強工事を実施して、同島上の軍事基地を恒久施設化しようとするものである。
中国は2012年、三沙市(中国南部海南島)を新たに設け、パラセル諸島、スプラトリー諸島(南沙)、マックルズフィールド堆並びにスカボロー礁(中沙諸島内)及びその周辺海域を管轄させると一方的に宣言している。
以降、中国が企てた南シナ海人工島建設計画の一環で、ウッディ島においても、元々の港湾設備を直したり、新たに建設したり、また北岸の埋め立て工事を進めた。
これら一連の人工島建設工事は2017年に一段落したとみられていたが、『ラジオ・フリー・アジア』(RFA、1996年設立の米議会出資のラジオ放送局、本社ワシントンDC)の調査の結果、ウッディ島における追加工事が進捗していることが判明した。
2019年2月の環境アセスメント報告によると、同海域の猛烈な気候によって同島周辺が浸食されないよう、同島周囲2,159メートルにわたって、337メートルの防波堤、55メートルの桟橋、4つの40メートル長の海岸突堤、1,822メートルの護岸建設工事を進めているという。
そして、2020年6月の『RFA』報道によると、中国は新たにウッディ島北岸の浚渫工事(20メートル浚渫して30メートル深)に着手しており、最新の衛星写真では、当該工事が昨年末まで続けられ、追加の埋め立てによって同島の面積が約3万平方メートル拡大されていることが判る。
その他、中国は南シナ海内において領有権を主張している島嶼にも、植林したり護岸工事をしたりして浸食から守ろうとしており、国際社会から一方的な海洋進出と非難の声が上がっていることに全く躊躇することなく、既成事実化した同海域内の軍事施設含めた諸施設を恒久化しようとしていることが窺える。
1月21日付『RFA』:「中国、南シナ海内の軍事基地のある島の埋め立て工事を実施し要塞化」
中国が、ウッディ島を浸食から守る追加工事を進めることで、同島に配備された中国人民解放軍(PLA)海軍、海警局、及び海上民兵組織の強化が図れることになる。
特に、同島を基地とした海警局の艦船や海上民兵船が頻繁に南シナ海海域に出没し、同海域で領有権を主張しているベトナムやフィリピンの漁船や、マレーシアの石油掘削船等の活動を妨害する行為を容易にしているからである。
閉じる
習近平(シー・チンピン)国家主席は3月10日、新型コロナウィルス発生地の湖北省武漢市(ウーハン)を初めて訪問した。感染の勢いが弱まり、中央政府の抑制策の効果が上がったことを示す狙いがあったとみられるが、実際は、同市の住民は武装した公安部隊に脅されて自宅待機を余儀なくされ、不満や実情を同主席に直接訴えることを阻止されたとソーシャルメディアに投稿している。一方、初期対応の失態を糊塗しようとしている中央政府に対して、公に批判する医師が声を上げ始めている。
3月11日付米
『ブライトバート』オンラインニュース:「武漢市民、習国家主席の来訪時に銃で脅され直談判許されず」
習近平国家主席は3月10日、新型コロナウィルス発生地の武漢市を初めて訪問した。
しかし、現地報道によると、同主席は武装した公安部隊に守られ、一般市民は近づけない状態であったという。
すなわち、先週同地を訪れた孫春蘭(ソン・チュンラン)副首相に対して、武漢市民から実情や不満の声が浴びせられたことから、強い指導者としての同主席の威信堅持のためにも、同様の事態を避ける必要があったとみられる。...
全部読む
3月11日付米
『ブライトバート』オンラインニュース:「武漢市民、習国家主席の来訪時に銃で脅され直談判許されず」
習近平国家主席は3月10日、新型コロナウィルス発生地の武漢市を初めて訪問した。
しかし、現地報道によると、同主席は武装した公安部隊に守られ、一般市民は近づけない状態であったという。
すなわち、先週同地を訪れた孫春蘭(ソン・チュンラン)副首相に対して、武漢市民から実情や不満の声が浴びせられたことから、強い指導者としての同主席の威信堅持のためにも、同様の事態を避ける必要があったとみられる。
『ラジオ・フリー・アジア(RFA、米議会出資のラジオ短波放送)』が、“中央政府の成果とプロパガンダを示すための習氏訪問”と報じたとおり、ある武漢市民は、ソーシャルメディアに“安全となってから訪問、しかも病院や医療従事者、現地派遣の人民解放軍兵士達への賞賛だけ”との苦情を投稿している。
また、別の市民も、“主席訪問中、住民は自宅待機を命じられ、更に窓も閉じるよう言われ、数メートルおきに歩哨が立ち、同主席訪問先には常に武装警官が警備していた”と実情を明かしている。
習主席は現地で、“初期の対応が奏功し、湖北省及び武漢市の感染状況改善につながった”と称賛していたが、中国国営メディアも、“感染を抑え込んだ中国政府の対応が、国内のみならず世界に対して強いアピールとなる”と褒め称えている。
これに対して『RFA』はある教師のコメントを引用して、“習主席は、抑制が効いた頃に武漢にやってきて、「収穫した(pick peaches)」だけ(おいしい果実を摘んだだけ)”であり、“武漢市の多くの市民が犠牲になったことを忘れている”との非難の声を報道した。
“pick peaches”という言葉は瞬く間に武漢市に知れ渡った。
何故なら、その言葉が、習主席の見せかけの態度や、同主席を中国の貴重な寓話の主人公である孫悟空になぞらえる冷めた見方を象徴するからである。
すなわち、孫悟空は昔、天から桃を盗む罪を犯しており、これは、古代ギリシャ神話に登場する、神ゼウスから火を盗み出したプロメテウスの逸話に相当する。
習主席がこのような逸話の人物(猿人間)に例えられるのは、同指導部が、新型コロナウィルスへの初期対応の失敗を糊塗しようとしているからである。
現在判明しているところでは、昨年12月末、当局がまだ新型コロナウィルス問題の深刻さを把握していないとき、“重症急性呼吸器症候群(SARS)のような重大な疾患の恐れ”と警鐘を鳴らした李文亮(リー・ウェンリャン)医師らに対して、当局が“デマを流した”として同医師らを処罰していた。
しかし、後に習指導部は、同医師らを勇気ある行動と称賛する声明文を発表して、先の失態を覆い隠す、あるいは地方政府の失態に転嫁するような対応を取っている。
同日付英国『ザ・ガーディアン』紙:「武漢市の医師が当局批判の声を上げる」
武漢市中央病院救急医療部の曖分(アイ・フェン)部長が、中国誌『人物』のインタビューに答えて、“同病院上層部のけん責を恐れず、もっと早くに新型コロナウィルスの深刻さを世の中に発信すべきだった”と後悔する発言をした。
同医師は、昨年12月30日に同病院に担ぎ込まれた患者の検体より、“SARSに似たウィルス”を発見して、医師仲間に写真とともに送付したところ、同日夜になって、同病院上層部から情報配信を止めるよう注意され、2日後には、同病院規律審査委員会委員長から呼び出され、“デマを流し”かつ“世間を騒がせた”としてけん責されたという。
同医師がコンタクトした中には、李文亮医師(2月初めに新型コロナウィルスで死亡)もおり、李医師らは公安当局から“デマを流した”として処分されている。
同病院では、李医師含めて4人が既に新型コロナウィルスの犠牲になっており、曖部長も自責の念に駆られて、習主席が武漢市を訪問するとの話を聞いて、経緯を打ち明ける決意をしたとする。
だが、3月10日以降、同部長のインタビュー記事はどのソーシャルメディアからも削除され、また、『人物』誌も当該記事を削除している。
更に、同部長は現在、電話連絡が取れない状態になっている。
ただ、同記事を読んだインターネット・ユーザーが、素早く同記事を別に保存し、当局の検閲にかからないようにブロックをかけている。
なお、中央政府が新型コロナウィルスの“ヒトからヒト”への感染を認めたのは1月21日で、その時には既に1日だけで感染者が1,523人にも上る程感染拡大の状態(通常のウィルス感染の3倍)となってしまっていた。
閉じる