既報どおり、米海軍の最新鋭ステルス戦闘機が1月下旬、南シナ海で空母への着艦訓練に失敗して海中に落下した。原因究明や沈んだ同機の引き上げは今後の課題としても、事故発生後間もなく当該シーンを撮影したビデオ映像が流出し、海軍内で機密情報漏洩問題が注目されていた。そしてこの程、空母乗組員5名が服務規程違反で処罰されることになったと報じられている。
2月18日付米
『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』(1996年開局の米議会出資の短波ラジオ放送局)が、「米海軍、F-35戦闘機墜落事故のビデオ映像漏洩の罪で5名の乗組員を処罰」と題して、1月下旬に南シナ海において空母への着艦訓練中に海中へ墜落した最新鋭ステルス戦闘機のビデオ映像を無断配信した乗組員が処罰されることになったと報じている。
米海軍報道官のザック・ハレル中佐は2月18日、『RFA』のインタビューに答えて、“統一軍事裁判法(UCMJ)第92条(服務規程違反)に則って、許可なく事故のビデオ映像を流出させた海軍少尉、上級上等兵層、及び3名の上等兵層を処罰した”と表明した。
今月初め、最新鋭ステルス戦闘機F-35Cが空母“カール・ビンソン(1982年就役)”の“甲板に衝突”する映像がいくつかソーシャルメディアに流出していた。
国防総省は後日、1月24日に発生した事故の映像であることを認めた。
最初の映像では、同機が着艦時に横滑りして火だるまとなった場面、そして二番目には、同機が甲板上を滑って大海に墜落する場面が映し出されていた。
同ビデオ映像には、同機のパイロットが叫ぶ声が録音されているが、同機は5秒も経たないうちに南シナ海に没していった。
海軍発表では、同パイロットは安全に緊急脱出しているという。
同中佐は、処罰された乗組員の個人情報を明らかにしていないが、“依然、衝突・墜落事故原因について調査中だ”としている。
元海軍大佐のカール・シャスター氏は、当該5名はUCMJ第15条(懲罰規定)に則って“(艦内の)懲罰委員会”にかけられるものと予想している。
“懲罰委員会”は、軍法会議にかけられる程ではない軽罪に適用されるものである。
シャスター氏は、“上級上等兵層及び上等兵層には降格及び俸給没収の懲罰が下され、また海軍少尉はけん責処分となると思われるが、そうなると昇格の道が閉ざされることになるので、同少尉は恐らく18ヵ月内に退役することになろう”と解説した。
更に同氏は、“彼らは海の掟として当該処分を受け入れざるを得ない”とした上で、“仮に不服だとして軍法会議を要請するとした場合、逆にもっと重い罪に問われる可能性がある”と付言した。
なお、ハレル中佐は、事故に関わる修復作業等は俊敏に行われていて、同空母の作戦遂行に大きな支障は生じていない、と付言した。
一方、海中に没したF-35Cの回収作業であるが、米海軍は1月末、“海底からの回収について必要な手配を行っている”とのみ言及したが、詳細については明らかにしていない。
ただ、日本の海上保安庁が、南シナ海北部海域で米軍による引き揚げ作業が実施される予定だとして、航行船舶に注意報を出していて、現在も継続している。
2月19日付ロシア『RT(ロシア・トゥデイ)』テレビニュース(2005年開局の国営メディア)は、「米海軍5名の乗組員がF-35戦闘機墜落事故ビデオ映像流出で処罰」と題して、F-35の技術的問題まで踏み込んで報じている。
すなわち、当該事故の映像を無断でソーシャルメディアに流出させたことも問題であるが、今回の墜落事故を起こした最新鋭多機能F-35戦闘機は、そもそも技術的なものも含めて多くの問題を抱えている。
まず、開発計画が遅延し、製造コストが大幅上昇し、また、機器の機能不全を起こしている。
今年初めには、F-35を導入している数ヵ国のひとつである韓国で、F-35の着陸装置の不具合で胴体着陸を余儀なくされた事故が発生しており、導入済みのF-35編隊を飛行停止措置とせざるをない事態となっている。
更に、昨年11月には、英国空軍所有のF-35が地中海において空母からの離艦訓練をしていた際、雨除けがエンジンに吸い込まれたことが原因で同機が墜落してしまう事故も発生している。
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1月28日付米
『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』(1996年設立、米議会出資の短波ラジオ放送局:「中国、墜落した米軍ステルス戦闘機回収に興味なしと表明」
中国は1月27日、墜落した最先端技術搭載の米軍F-35C戦闘機の残骸を回収することに興味がない旨表明した。
定例記者会見で中国外交部(省に相当)の趙立堅報道官(チャウ・リーチアン、49歳)が答えたもので、“墜落機に何ら興味はない”とした上で、“関係国に対して、同海域で武力を誇示するより平和と安定に繋がるような行動を求める”と強調した。
米海軍は今週初め、最先端技術の詰まった1億ドル(約115億円)もするF-35Cの機体回収に努めていると表明していた。
当該機は1月24日、南シナ海において空母“カールビンソン”(1982年就役)への着艦訓練をしていた際に横滑りして海に墜落していた。
同空母は、別の空母“エイブラハム・リンカーン”(1989年就役)と2つの空母打撃群による海上訓練を実施していたところで、同事故によって、パイロットは救助されたが、甲板上の乗組員7人が軽傷を負った。
米太平洋軍統合情報センターの元作戦部長のカール・シャスター氏は『RFA』のインタビューに答えて、南シナ海海底に沈んでいる同機を探して回収するまでに3週間、悪天候やその他の問題が発生した場合は最長4ヵ月かかると推測するとした。
その上で、“中国は当該機に興味があるはずだが、米海軍が回収すると言っている以上、ただでさえ米中間の緊張が高まっている最中、無用な軋轢を避けるためにも、(回収に)興味はないと表明したに過ぎない”と分析した。
但し、“中国は米側の回収作業を見守るはずで、もし中国側が密かに回収できるとなったら、潜水艇を繰り出して詳細な情報収集に当たるだろう”とも付言している。
一方、中国国際センターのアンディ莫(モク)研究員は、“中国以外にも最先端技術満載の当該戦闘機に興味を持つ国があるはずだが、別の問題は、当該機が、中国が主張する領有権内の海域に沈んでいた場合、中国側は米軍の進入を許さず、従って同機の米側引き渡しも拒否するだろうという点である”と解説した。
なお、元米軍高官のシャスター氏は、“米軍はかつて水深1万5千フィート(4,572メートル)の場所から飛行機を回収した実績があるが、南シナ海の最深部は1万6千フィート(4,876メートル)あることから、場所を特定した上で必要な回収設備を送り込むまで大きな試練となろう”と言及した。
また、“中国側も、米国が7万ポンド(35トン)の戦闘機をどのように回収するのか注視するであろう”とも付言した。
一方、米太平洋軍第7艦隊報道官のハーレー・シムズ中佐は1月26日、米軍の準機関紙『星条旗新聞』(1861年発刊)のインタビューに答えて、当該機の墜落事故の他に4件、“クラスA事故(注後記)”が昨年11月22日から12月31日の間に発生していることから、目下詳細調査を行っているとした。
同日付香港『アジア・タイムズ』(1999年発刊のオンラインニュース):「墜落したF-35戦闘機回収に法律問題」
1月24日、米海軍F-35戦闘機が空母“カールビンソン”への着艦に失敗して海に転落したニュースが世界を駆け巡った。
そして目下注目されているのは、米軍がどうやって回収するのか、また、仮に回収できるとしても数ヵ月かかるとみられる回収方法である。
沈んでいる場所の特定には、曳航式反響音特定機(ソナーの跳ね返りを利用した捜索物特定機器)が使われ、場所が特定され次第、深海潜水艇による回収作業が行われることになろう。
ただ、沈んでいる場所が、フィリピンが主権を主張する海域内であると、両国間で法律問題が発生する可能性がある。
かつて、2016年12月に中国が、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に沈んだ米軍のドローンを回収する作業を行った際、フィリピン側が両国に対して、速やかにフィリピンEEZから退去するよう厳しい警告を発していたからである。
一方、それとは別に、当該F-35が、最新鋭のステルス戦闘機であることから、中国はもとよりロシアも非常に興味を持っていると考えられる。
サイバーセキュリティ専門家のジョシュ・ロスピノッソ氏は、“同機は空飛ぶコンピューターであり、電子戦争や機密情報収集に長けていることから、中国としては、同機が回収できれば、対空サイバー攻撃技術の開発に役立てられるので、非常に興味を抱いているはずである”とコメントした。
そこで、中国側は、潜水艇やその他の遠隔操作機器を用いて、米海軍の同機回収作業を固唾を呑んで見守っているとみられる。
(注)クラスA事故:米海軍が指定している事故のクラス分けで、犠牲者が出たか、恒久的障害を負ったか、もしくは250万ドル(約2億8,800万円)以上の損失となった場合の事故。
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