日本含めた世界各国での新型コロナウィルス(COVID-19)・オミクロン株感染が止まらない。ところが、中国での発症から2年余りにもわたり、唯一感染者ゼロと嘯いてきた北朝鮮が、今年5月になって漸く「原因不明の熱病による発熱者発生」と認めたものの、僅か2ヵ月で発熱者ゼロとなったと発表した。当然のことながら、北朝鮮研究専門家は異口同音に、極端な致死率含めて当局発表の信ぴょう性を疑問視している。
7月30日付米
『AP通信』は、「北朝鮮、COVID-19関係公表データの信ぴょう性に疑いがある中、新規発熱者ゼロと発表」と題して、北朝鮮は今年5月になって漸くCOVID-19新規感染者発生と公表してから僅か2ヵ月後に、新たな感染者がゼロになったと発表したが、専門家は異口同音に信ぴょう性に疑いを持っていると報じた。
北朝鮮は7月30日、今年5月に唐突にCOVID-19感染者発生を公表して厳格な防疫体制を敷いていたところ、7月29日夕までの24時間で(COVID-19感染が疑われる)新規発熱者がゼロになったと発表した。
しかし、北朝鮮が公表している致死率が異常に低く、かつ、新規発熱者数が直近で激減していることから、当局の発表自体の信ぴょう性が疑問視されている。
ある専門家らは、経済的困窮が増す中、金正恩朝鮮労働党総書記(38歳、2021年就任、党第一書記就任は2012年)の絶対的統率力を維持するため、感染者数及び死者数を偽装している可能性が高いと評している。
北朝鮮の緊急パンデミック対策センターは国営メディアを通じて、直近7月29日一日の新規発熱者はゼロになったとし、総発熱患者数は約480万人だったが既に99.99%が快復していると発表した。
更に同センターは、死者数は74人であり、致死率は0.0016%としているが、もしこれが事実ならば、世界で最低値となる。
ただ、新規発熱者がゼロとしながらも、北朝鮮が、COVID-19に打ち勝って、現下の防疫体制に伴う種々の規制を撤廃するといつ発表するかは不明である。
何故なら、多くの国々で感染再爆発が発生しているように、北朝鮮でも今後感染者急増となりかねないからである。
その代わりに、国営メディア報道によると、COVID-19変異株のみならず、直近で感染が広がり始めたサル痘(天然痘近似の感染症)の防疫体制を強化していくとしている。
国営『朝鮮中央通信』(KCNA、1946年設立)は、“防疫政策を徹底することで、北朝鮮の社会特有の組織力及び団結力が力強く示されている”と報じている。
新規発熱者がゼロだと発表することは、依然シンボル的意味を持っていて、金総書記体制の下で如何に他国よりも迅速に感染抑制できたかを内外に訴えるものである。
北朝鮮専門家は、COVID-19に伴う国境封鎖、国連による制裁、更には金総書記の失政による経済的困窮を乗り越えていく上で、金総書記としては世論の支持を繋ぎ止めるための成果を必要としていると分析している。
韓国の民間団体DPRKHEALTH.ORG(北朝鮮医療問題研究サイト)の安キョンス代表(アン)は、“北朝鮮では政治と医療問題を分けて考えることができず、それは今回のCOVID-19問題でも表れている”とし、“最初の発生が偽装データで表記されたことから、感染鎮静化も偽装データを用いることになる”と分析している。
具体的には、今年5月に一日当たり約40万人の発熱者が出ていたのに、7月27日は11人、28日は3人、そして29日にはゼロと急激に減少している。
北朝鮮にはCOVID-19検査キットがないため、発熱患者480万人をCOVID-19感染者と見做したに過ぎない。
世界の多くの北朝鮮問題専門家は当初、ワクチン投与もなく、また国民の約40%が栄養不良であると言われていることから、COVID-19感染爆発となったらとても悲惨な結果となると懸念していた。
ところが、北朝鮮問題活動家や脱北者が北朝鮮内から直近で得た情報によると、人道的災害のような事態は起こっていないという。
感染状況下火と思われる事態としては、先週行われた朝鮮戦争終結69周年記念式典で、金総書記はじめ多くの出席者が一切マスク不着用であったこと、また、同総書記が列席した退役軍人らとマスク無しで会話・握手を交わしていたことが国営メディア報道写真で覗えた。
ソウルの漢陽大(ハニャン、1939年設立の市立大学)予防医学部の申ヨンジョン教授は、感染しても無症状の人がいると理解しているので、北朝鮮は発熱者ゼロと言ってもそれはCOVID-19感染者が皆無だとは思っていないだろうとする。
その上で同教授は、感染者再増加を懸念しているので、“北朝鮮は新感染症に打ち勝ったとすぐに公式発表することはないだろう”とし、“何故なら、再燃したら政府として面目を失うことになるからである”とコメントした。
一方、亜洲公衆衛生大学院(アジュ、1973年設立の私立大学)の李ヨーハン教授(イ)は、COVID-19感染症が長い国境を接する中国から感染が広がったとみられることから、その中国が感染症を撲滅したと表明しない限り、北朝鮮としても公式に発表することは困難だと考えているはずだ、と分析している。
なお、申教授は当初、韓国におけるワクチン未接種者の感染・死亡率から推測して、北朝鮮のCOVID-19感染による死者は10万~15万人と予想していた。
しかし、他の北朝鮮専門家は、上記のような多くの犠牲者が出ている場合、北朝鮮監視グループが情報をつかんでいるだろうが、そういうニュースは聞こえてきていないので、その死者は最大でも数千人止まりだろうと推定している。
同日付フランス『AFP通信』も、「北朝鮮、COVID-19感染勃発以来初めて感染者ゼロと報告」としてその信ぴょう性について報じている。
北朝鮮専門家らは、北朝鮮が長い間感染者ゼロと主張してきたが、感染力が強力なオミクロン変異株が各国で猛威を振るっていることから、北朝鮮にも広がることは時間の問題だとみていた。
しかし、KCNAは7月30日、“4月末にCOVID-19感染勃発以来、480万人近くが感染したが、現在は僅か204人が治療中であり、99.994%の人が快復している”とし、“直近7月29日の感染者はゼロとなっている”と報じている。
これに対して専門家らは、北朝鮮の医療体制は世界で最低レベルであり、集中治療室もほとんどなければ、治療薬もまた集団検疫もできない状態であることから、同報道は俄かに信じられないとする。
特に、北朝鮮は世界保健機関(WHO、1948年設立)のワクチン提供を断っていて、全人口約2,500万人のほとんどがワクチン未接種となっている。
WHOの健康緊急事態対応部門のマイケル・ライアン部門長(57歳、2019年就任、アイルランド人疫学者)は、北朝鮮がほとんど情報発信していないことを承知の上で、同国の感染症事情が“悪化することはあっても改善するとは考えられない”と強調している。
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ローマ法王庁(バチカン市国)は2018年、中国政府が任命した司教を事後承認することで合意し、1951年以来続いていた断交を解いた。しかし、信教の自由よりも中国政府の権力安定が優先するとする同政府は今年5月、香港国家安全維持法(2020年6月制定)違反容疑で香港カトリック教会名誉司教ら4人を逮捕した。かかる事態にも拘らず、フランシスコ第266代ローマ法王(85歳、2013年就任)が、今秋期限を迎える上記合意の更改を望むと発言したことから、複数の国際人権団体代表が一斉に非難している。
7月7日付
『CNA(カトリック通信社)』(2004年設立、本部コロラド州・デンバー)は、「人権擁護活動家ら、バチカン市国・中国政府間の契約更改に期待するとのフランシスコ法王発言を批判」と題して、人権蹂躙を厭わない中国政府との契約更改を望むとするフランシスコ法王の発言を、複数の国際人権団体代表が一斉に非難していると報じている。
人権擁護活動家らは一斉に、フランシスコ法王がバチカン市国・中国政府間契約が今秋に更改されることを望むと発言したことに猛反発している。
バチカン市国と中国政府が2018年9月に合意してから4年近くが経過しようとしているが、フランシスコ法王が今週、『ロイター通信』のインタビューに答えて、“契約更改は順調に進むと期待している”と発言していた。
これに対して、まずハドソン研究所(1961年設立の保守系シンクタンク)傘下の信教の自由センター代表のニーナ・シア氏(68歳、国際人権弁護士)は7月6日、『CNA』の取材に対して、2018年の当該契約以来、“中国共産党政府はカトリック地下教会を破壊し、愛国教会(政府認可)の教えを徹底しようと企んできている”と非難した。
“具体的には、当該契約の下、バチカン市国が認めていた6人の司教が拘束・逮捕・失踪しているにも拘らず、代わりに中国政府が任命した6人の新たな司教をローマ法王庁が承認するに至っている”と言及した。
更に、同氏は、“中国政府は、子供の教会への立ち入りや布教を禁じ、全ての教会が政府による厳正な監視下に置かれ、信者には中国共産党への忠誠を誓わせる等、信教の自由など全く認めていない”とも糾弾した。
また、国境なき女性の権利擁護団体(中国の一人っ子政策に伴う女性の人権蹂躙問題を契機に設立)のレジー・リトルジョン代表(人権弁護士)も『CNA』のインタビューに答えて、“当該契約の成立以降、中国におけるキリスト教は悪化の状態から最悪の状態に陥っている”と批判した。
“当該契約の内容が非公開であることを利用して、中国政府が敬虔な中国人キリスト教信者を好き勝手に押さえつけてきている”とも強調した。
同代表は、当該契約成立以来、バチカン市国に契約内容詳細を公開するよう訴えてきているが、フランシスコ法王は、“外交は「アート・オブ・ザ・ポシブル(注後記)」であり、現実的な対応をしていくことが肝要だ”とコメントしていた。
これに対して同代表は、“法王は、悪魔のような対応をしている中国政府との外交で、どのように現実的な成果が得られると考えるのか”と疑問を呈し、“ローマ法王庁は中国地下教会をもっと精力的に支援し、(中国政府が犯している)人権問題についてもっと厳しく対応すべきだ”と強硬に反論している。
なお、中国政府は今年3月以降、省政府教務部の事前許可なしの信教活動を一切禁止している。
更に、中国政府は、昨年5月に香港国家安全維持法違反容疑で逮捕した陳日君香港カトリック教会名誉司教(チェン・ジーチュン、90歳)ら4人について、今年9月に非公開裁判にかける意向である。
(注)アート・オブ・ザ・ポシブル:ドイツの政治家ビスマルク(1815~1898年)の言葉「Politics is the art of the possible.」に由来しており、政治の現実主義を意味する言葉で、「現状から最善の結果を得るために、不可能な理想を追わずに(不可能な目標を設定せずに)、現実に実行できることを実行する技術」という意味。
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