北朝鮮のプロパガンダ新戦略? 平壌在住の一般市民とされるユーチューバーを通じて親しみやすい国と喧伝【米メディア】(2023/02/07)
北朝鮮は、ミサイルや核装備を堅持することで米国等西側諸国に睨みを利かせる一方、国内では言論・移動・西側情報へのアクセス等を徹底的に取り締まって恐怖政治を行っている。しかし、国連制裁に加えて折からのコロナ禍で経済的大打撃を受けていて、コロナ禍後の観光業活性化に大いに期待せざるを得ないためか、平壌(ピョンヤン)在住の一般市民とされるユーチューバーの動画を通じて、親しみやすい国を猛アピールしている。
2月5日付
『CNNニュース』(1980年開局)は、「アイスクリームや“ハリーポッター”を映す北朝鮮市民とされるユーチューバーの動画は虚像」と題して、直近で「ユーチューブ(2005年設立のオンライン動画共有プラットフォーム)」に投稿されている北朝鮮市民とされる女性らの動画は、実際の市民生活を表したものではなく、親しみやすい国を喧伝する意図で同国政府が作成に関わった作り話であると報じている。
ユミと名乗る若い北朝鮮女性のユーチューブ動画が物議を醸している。...
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2月5日付
『CNNニュース』(1980年開局)は、「アイスクリームや“ハリーポッター”を映す北朝鮮市民とされるユーチューバーの動画は虚像」と題して、直近で「ユーチューブ(2005年設立のオンライン動画共有プラットフォーム)」に投稿されている北朝鮮市民とされる女性らの動画は、実際の市民生活を表したものではなく、親しみやすい国を喧伝する意図で同国政府が作成に関わった作り話であると報じている。
ユミと名乗る若い北朝鮮女性のユーチューブ動画が物議を醸している。
4分間の動画の中で、彼女は冷蔵庫にあるポプシクル(アイスキャンディー、注1後記)を見せ、様々な味付けのものがある等、滑らかな英語で説明している。
彼女のユーチューブ・チャンネルは昨年6月に開設されていて、今回の動画は4万1千回以上も視聴されている。
しかし、韓国人権団体「北朝鮮人権問題データセンター(NKDB、2003年設立)」の朴聖鉄(パク・ソンチョル)研究員は、北朝鮮が監修に関わった“事前に良く準備された動画”だと指摘した。
何故なら、金正恩(キム・ジョンウン、39歳)独裁体制下で、数百万人が貧困に苦しんでいることから、動画で示された内容は同国市民の実態からかけ離れており、作り話としか考えられないからだとする。
北朝鮮では数十年間もの間、一般市民の言論・移動、更には西側諸国の情報へのアクセスが厳しく制限されている。
インターネットも然りで、一部の特権階級の人にしかスマートフォンの携帯が認められておらず、しかもアクセスできるのは厳しく検閲された政府運営のネットに限られている。
更に、外国製の本・映画等も保持・鑑賞が禁止されていて、これらの密輸品を闇市場で取得した人に対して厳罰が処せられている。
従って、一般市民とされる上記ユーチューバーが、欧米製の氷菓等を所持していること自体、全く想像できないことである。
韓国・東国大学(トングク、1906年設立の私立大)北朝鮮問題研究の河勝熙(ハ・ソンヒ)教授は、“一般市民が、外の世界と繋がることなど不可能なことだ”と指摘している。
しかし、ユミに加えて、宋A(ソン)と名乗る11歳の少女も昨年4月、ユーチューブ・チャンネルを開設して、素晴らしいベッド・カーテン等のある子供部屋で、英国のファンタジー小説「ハリーポッター・シリーズ」を何冊も読んでいる姿を投稿している。
更に同少女は、ウォーターパークや科学技術展覧会等を訪問している映像も流し、流暢なクイーンズイングリッシュで説明を加えている。
ユミの動画にも、遊園地で遊ぶ姿や、映画鑑賞、またジムで運動する姿が映し出されている。
これら全てについて、NKDBの朴研究員は100%虚像だとは言わないが、多くが一般市民の生活からかけ離れたものだと強調した。
すなわち、“上記のような事ができるのは、ごく限られた政府上層部の人や家族に限られている”とした上で、“北朝鮮は電力不足で、しばしば停電が起こり、遊園地等を常時運営することなど不可能であるから、当該施設に何度も足を運ぶことなど不可能であるからだ”という。
米中央情報局(CIA)作成の「CIAワールドファクトブック(注2後記)2019年版」によると、北朝鮮では全人口の約26%しか電力が供給されていないとする。
2011年と2014年に発生した大停電についても、衛星通信画像で確認されていて、眩いばかりのネオンを発する隣国の中国・韓国との違いは顕著で、北朝鮮は海と同様暗闇の中に沈んでいたという。
従って、朴研究員は、これらのユーチューブ動画は、“北朝鮮が、平壌が他国の都市と変わらない「普通の都市」だと訴えるためのプロパガンダだ”と評した。
それは、中国のミニブログサイト新浪微博(ウェイボー、2009年開始)や動画共有サイト哔哩哔哩(ビリビリ、2013年開始)に開設されている北朝鮮SNSからも明らかで、“親しみやすさ”という新たなプロパガンダを喧伝するものだとする。
東国大学の河教授も、“コロナ禍で更に経済的に困窮した北朝鮮としては、コロナ禍後に国境が開放されたときに備えて、貴重な収入源となる観光業を活発化させるため、「安全な国」を強くアピールしようとしている”と分析している。
すなわち、彼女らのユーチューブは、世界の多くの人に視聴してもらうことを意図しており、ユミは“オリビア・ナターシャ”と、また宋Aは“サリー・パークス”とも名乗っている。
(注1)ポプシクル:1924年に米国で販売開始されたアイスクリーム(アイスキャンディーは和製英語)。米・カナダ等では特に有名で、商品名が一般名称となっている。
(注2)CIAワールドファクトブック:世界各国に関する情報を年鑑形式でまとめた年次刊行物。この書籍は、米連邦政府官僚に供するため作成されていて、世界中のあわせて268の国家・属領・その他の地域について、人口統計・地理・通信・政治・経済・軍事に関し、2、3ページの要約を提供している。
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中国国営メディア、安倍元首相急死を祝う中国市民を擁護する報道【米・中国メディア】(2022/07/15)
中国国営メディアは、中国共産党政権の意に沿わない事態に対して徹底的に攻撃する。しかし、これと逆の場合には、たとえ倫理にもとる行為でも称賛する。直近の一例が、中国市民が安倍晋三元首相の急死についてSNS上で祝おうとする行為を“道理に適う”と擁護したことである。何故なら、安倍氏が憲法を改正して第二次大戦時代の軍国化を促進し、かつ、中国による台湾統一をあからさまに妨害しようとしていたことから、その報いを受けたからだとしている。
7月13日付米
『ブライトバート』オンラインニュース(2005年設立の保守系メディア)は、「中国国営メディア、中国市民が安倍晋三氏の暗殺を祝う行為を“道理に適う”と擁護」と題して、大日本帝国時代の軍事化を促進しようとし、また、台湾独立を支援するような反中国政策を標榜する政治家の暗殺を祝うのは筋の通ったことだと報じたとして、報道姿勢を非難している。
中国国営メディアの『環球時報』(1993年設立、『人民日報』傘下の英字紙)は7月13日、
安倍晋三元首相の暗殺報道に関し、中国市民が大喜びで祝う投稿をSNSに上げたことに対して、筋の通ったことだと擁護する記事を掲載した。...
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7月13日付米
『ブライトバート』オンラインニュース(2005年設立の保守系メディア)は、「中国国営メディア、中国市民が安倍晋三氏の暗殺を祝う行為を“道理に適う”と擁護」と題して、大日本帝国時代の軍事化を促進しようとし、また、台湾独立を支援するような反中国政策を標榜する政治家の暗殺を祝うのは筋の通ったことだと報じたとして、報道姿勢を非難している。
中国国営メディアの『環球時報』(1993年設立、『人民日報』傘下の英字紙)は7月13日、
安倍晋三元首相の暗殺報道に関し、中国市民が大喜びで祝う投稿をSNSに上げたことに対して、筋の通ったことだと擁護する記事を掲載した。
7月8日に安倍氏が銃で襲われた事件の一報が出た途端、蘇生しないよう望むとの投稿がミニブログサイト『新浪微博』(ウェイボー、2009年設立)に上げられ、続いて死亡したとの報道に対しては、シャンパンで乾杯だと祝う人や、飲料割引サービスを打ち出す店が現れた。
中には、犯人の山上容疑者に支援の募金を訴える投稿もあった程である。
中国政府は、『ウェイボー』等のSNS上での反政府的表現を厳しく監視しており、怪しい投稿は瞬く間に削除してきている。
しかし、安倍氏急死に関わる不道徳な投稿に関しては、未だ削除されていないことから、習近平国家主席(シー・チンピン、69歳)指導部も暗黙の了解をしているものとみられる。
何故なら、安倍氏は生前、第二次大戦敗戦後に制定された平和憲法を変更し、軍事化を促進しようとしてきたばかりか、直近でも中国の一部である台湾の統一を表だって妨害する発言を繰り返しており、言わば中国共産党政府方針に真っ向から挑戦してきた人物だとみられているからである。
ただ、暗殺という非業の死を祝う等、中国の野蛮さや恐ろしさを非難する声が世界で上がり始めた。
そこで『環球時報』は7月13日の報道で、かかる非難の声に反発する形で、“安倍氏を批判してきた人たちは、彼の暗殺という事態を理由に言論制限されるべきではない”とした上で、“世界の人々は、安倍氏を非難するに至っている中国人民の事情をもっと良く理解すべきである”と強硬に主張した。
中国政府はこれまで、第二次大戦で犯した日本の罪を厳しく指摘し、日本が再び軍隊を擁することは世界にとって脅威となると主張してきている。
しかし、安倍氏の急死が追い風となったためか、7月10日に行われた参議院議員選挙で、与党・自民党を中心とする改憲派が安定多数を獲得したばかりか、岸田文雄首相(64歳)が改憲に向けて準備を進めていくと公言したことから、中国政府として大いに警戒すべき事態となったことは明らかである。
かかる背景もあって、『環球時報』報道では、“安倍氏が中国に対して行ってきた様々な所業-米国と組んで中国を押さえつけようとしたり、首相退任後に早速忌むべき靖国神社参拝を行ったり、更には、台湾分離独立派を焚き付ける発言を繰り返したりする等より考えて、安倍氏について否定的なことや非難するコメントをするべきではないと大勢の中国市民に要望することは不可能である”と言及した。
その上で、“安倍氏の急死を祝う投稿があふれたのは、正に中国の世論の為せる業である”とも付言している。
同日付中国『環球時報』は、「安倍氏、日中関係に“やっかいな遺産”」とのタイトルで、安倍氏急死に関わる中国市民の声や専門家の見解を掲載している。
安倍元首相の暗殺事件に関し、中国のネット市民がSNSに上げた投稿について、西側諸国からは非難の声が上がっている。
しかし、中国の専門家らは、これらの非難はネット市民の上げた一方の投稿だけを捉えてなされたものだと批判した。
遼寧大(リャオニン、1948年設立の国立大学)日本問題研究所の陳陽氏(チェン・ヤン)は7月12日、『環球時報』のインタビューに答えて、“安倍氏の死去に関し、ネット上では哀悼を示すものと、同氏の右翼的で軍国的な思想を理由とした感情的なコメントと、主に二つが表明されている”とした上で、“いくつかの西側メディアは、この感情的なコメントのみを捉えて報じている”と言及した。
同氏は、“中国市民は親切心も同情心も持っているが、全てのネット市民に対して、外交的かつプロのジャーナリストの視点で以てコメントするように求めることは不可能だ”と強調した。
中国の世論は、安倍氏が中国に対してどういう対応をしてきたかに基づいている。
すなわち、安倍氏が中国に対して行ってきた様々な所業-米国と組んで中国を押さえつけようとしたり、首相退任後に早速忌むべき靖国神社参拝を行ったり、更には、台湾分離独立派を焚き付ける発言を繰り返したりする等より、非難めいた意見が出てくるのは当然のことである。
その上で、ネット市民に対して、安倍氏について否定的なことや非難するコメントをするべきではないと要望することは不可能なことである、と専門家は指摘している。
一方、習国家主席が追悼文の中で、安倍氏が日中関係改善に努めてきた姿勢を称賛していることに加えて、後継者である岸田首相とともに、今後の日中関係発展に寄与していく旨言及している。
このことより中国専門家らは、岸田首相は中国政府が発信している真意をもっと良く理解すべきであると強調した。
すなわち、中国政府は、安倍氏の逝去もさることながら、より重要なことは、今後の日中関係をどう発展させていくのか、ということを問いかけているからである、と解説している。
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