フィリピン最高裁、南シナ海における中国・ベトナムとの三ヵ国共同海底探査契約を憲法違反で無効と裁定【米・フィリピンメディア】(2023/01/11)
フィリピン最高裁はこの程、2005年にフィリピン・中国・ベトナム国営企業間で締結された南シナ海共同海底探査契約を比憲法違反だとして無効判決を下した。ただ、ボンボン・マルコス新大統領(65歳、2022年就任)は、1月初っ端の訪中を通じて、中国側と新たな海底油田共同開発を進めようとしている。
1月10日付米
『AP通信』は、「フィリピン最高裁、中国が関わる共同海底油田探査契約を無効と裁定」と題して、比憲法で謳われた、比領海内の天然資源開発行為等は比国管理下で実施されるべきと定める比憲法違反に抵触しているとして、2005年締結の三ヵ国共同探査契約を無効とする判決を下したと報じている。
比最高裁は1月10日、2005年に比・中国・ベトナム間で締結された南シナ海における共同海底油田探査契約(JMSU)は比憲法に違反しているとして、無効とする判決を下した。...
全部読む
1月10日付米
『AP通信』は、「フィリピン最高裁、中国が関わる共同海底油田探査契約を無効と裁定」と題して、比憲法で謳われた、比領海内の天然資源開発行為等は比国管理下で実施されるべきと定める比憲法違反に抵触しているとして、2005年締結の三ヵ国共同探査契約を無効とする判決を下したと報じている。
比最高裁は1月10日、2005年に比・中国・ベトナム間で締結された南シナ海における共同海底油田探査契約(JMSU)は比憲法に違反しているとして、無効とする判決を下した。
JMSUは三ヵ国の国営企業間で結ばれたもので、南シナ海における比国が領海と主張する海域、及び中国・ベトナム・マレーシア・ブルネイ・台湾が各々主権下と主張する海域含め合計14万2,886平方キロメートル(5万5,168平方マイル)にわたる海域での共同油田調査を実施することを目的としていた。
比最高裁の審理の結果、15人のうち12人が憲法違反と判断した。
当該判決抜粋によれば、比憲法では“比領海内での天然資源探査・開発及び使用は比国全面管理下で行わなければならない”と定められているが、2005年契約では、中国及びベトナム国営会社が南シナ海の比領海内で天然資源開発することを認めていることから違法であるとしている。
本件提訴した側は、当該憲法規程に従って、比政府が少なくとも60%保有する企業の主導の下で行われるべきだと主張していた。
一方、当該契約関係者側は、本件契約が探査に至る前の活動に特定されているので、憲法違反ではないと反論していた。
しかし、最高裁判決では、当該契約の締結意図が“探査と同等と見做される油田の調査・発見とされている”として契約者側主張を退けた。
なお、フェルディナンド・マルコスJr.新大統領の前任者であるロドリゴ・ドゥテルテ大統領は2018年、領土問題の対象となっている海域において、中国と共同して石油・天然ガス資源探査を行うことを目的とした協定に署名していた。
しかし、共同調査実施に当たって、比領海と主張する海域での比主導権が認められない等、事前交渉が暗礁に乗り上げていたことから、ドゥテルテ前大統領は昨年6月の任期満了前に突然当該協定の破棄を宣言している。
ただ、マルコス現大統領は、今年1月初めに初訪中をして習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)と会談した際、破棄された当該協定を再び復活させるべく交渉を再開したいと表明している。
1月11日付比『ザ・マニラ・タイムズ』紙(1898年創刊の比最古の英字紙)は、「最高裁、三ヵ国海洋契約を違法と裁定」として詳報している。
最高裁が1月10日付判決で違法と判断したのは、2005年に比・中国・ベトナム国営石油企業が締結した、南シナ海における共同海底油田調査協定である。
関係企業は、比国営石油会社(1973年設立)、中国海洋石油集団有限公司(1982年設立、中国第三位で主に中国大陸沖の油田・天然ガスの探査・開発)、ベトナム石油・天然ガスグループ(通称ペテロベトナム、1977年設立)で、南シナ海の14万2,886平方キロメートル海域の共同調査を目的としていた。
しかし、最高裁は、違法判断12人、適法2人、棄権1人の多数判断によって違法との判決を下した。
同判決では、JSMUが1987年制定の比憲法第12条「国家経済と国家遺産」第2項に違反していると判断した。
すなわち、JSMUが“対象とした海域”において、油田があるかどうか決定するための共同調査を行うとしていることから、“油田探査に繋がる「事前調査」であり、探査と同等の行為と見做される”とし、この活動が比国の全面管理下で行われないことから当該憲法条文に違反する、と断じている。
閉じる
ドゥテルテ比政権;またしても米・比軍事協定破棄と脅し【米・フィリピンメディア】(2020/01/25)
ロドリゴ・ドゥテルテ比大統領は、2016年に就任以降、脱米国、親中・ロ政策を打ち出し、しばしば長年の同盟国である米国との軋轢を生じさせている。そしてこの程、米国が同大統領の右腕の上院議員の入国を拒否したことに腹を立て、同政権一丸となって「訪問米軍に関する地位協定(VFA、注1後記)」を破棄すると息巻いている。
1月25日付米
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「フィリピン政府、米国とのVFA破棄と脅し」
フィリピン政府は1月24日、米・比間VFAを破棄することを検討すると発表した。
実は先日、米国政府が、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の右腕として、麻薬犯罪撲滅運動で取り締まりを率先したロナルド・デラ・ロサ元フィリピン国家警察長官で現上院議員の入国を拒否していた。
理由は、フィリピン当局が、ドゥテルテ政権の麻薬撲滅運動の下で繰り広げられた超法規的殺人を糾弾する運動を展開していたライラ・デ・リマ元司法長官で現上院議員(注2後記)を逮捕・拘留したことは、民主主義に反する行いだとして、米議会がこの事件の関係者の米国入国を拒む手続きを取ったものである。...
全部読む
1月25日付米
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「フィリピン政府、米国とのVFA破棄と脅し」
フィリピン政府は1月24日、米・比間VFAを破棄することを検討すると発表した。
実は先日、米国政府が、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の右腕として、麻薬犯罪撲滅運動で取り締まりを率先したロナルド・デラ・ロサ元フィリピン国家警察長官で現上院議員の入国を拒否していた。
理由は、フィリピン当局が、ドゥテルテ政権の麻薬撲滅運動の下で繰り広げられた超法規的殺人を糾弾する運動を展開していたライラ・デ・リマ元司法長官で現上院議員(注2後記)を逮捕・拘留したことは、民主主義に反する行いだとして、米議会がこの事件の関係者の米国入国を拒む手続きを取ったものである。
この措置に対して、ドゥテルテ大統領は1月23日夜、米国は“無関係の事態”でフィリピンに難癖をつけているとして、VFA破棄の手続きを取ると宣言した。
これを受けて、テオドロ・ロクシン外相は1月24日朝、VFAフィリピン側議長として、VFA副議長のデルフィン・ロレンザーナ国防相に対して、“VFA終結のための手続き”に着手するよう指示したと表明した。
同外相はまた、国家レベルの条約締結には上院議会の承認が必要だが、終結や破棄するのにその承認が必要だとは考えていないと付言した。
一方、ロレンザーナ国防相も同外相の考えに同調し、米国側の一方的措置に対して、断固たる対応を取るべきだと語った。
なお、フィリピン政府の対応をみて、在フィリピンのスン・キム米国大使は、ドゥテルテ政権側と本件につき討議するべく動き出している。
同日付フィリピン『マニラ・タイムズ』紙:「VFA破棄の手続き開始」
フィリピン大統領府のサルバドル・パネロ報道官は1月24日、フィリピン政府はドゥテルテ大統領の警告に対する米国側回答をこれ以上待つつもりはないと表明した。
同報道官はまた、VFA破棄の手続きを取るとの大統領指示を、即刻ロクシン外相にも伝達したとした上で、間もなく訪米する同外相は、ロレンザーナ国防相とともに、VFA破棄手続きを踏む委員会を立ち上げたとも言及した。
フィリピン政府はここ1ヵ月、米政府によるロサ上院議員の入国拒否決定を撤回するよう強く求めていたが、米国側からは何ら動きはなかった。
米国では昨年、リチャード・ダービン及びパトリック・リーヒー両上院議員が、「国務省、外国事業及び関連プログラム歳出法」の一部改定案を提案し、リマ上院議員を不当に逮捕・拘束するような反民主主義的行為に関わった人間を米国に入国させないようにすることを上院で決議していた。
一方、フィリピン国防省のある高官は匿名を条件に、VFA破棄は南シナ海周辺国に懸念を抱かせ、中国を喜ばせるだけだとコメントした。
そして同高官は、ドゥテルテ大統領はまず、米国で開催される米国・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議について、もし自身に随行するロサ上院議員の入国を認めないなら、ドナルド・トランプ大統領による米国招待は受けない、と米国側に伝え、再考を促すべきだとも付言した。
(注1)VFA:1951年に米・比間で締結された相互防衛協定に基づき、米・ソ連間冷戦における東アジアの砦とするため、フィリピンに米軍が駐留。1989年の冷戦終結を経て、米軍の東アジア政策見直しに伴い、1991年以降駐留米軍の撤退が始まり、1995年以降は米・比合同軍事演習も取りやめられた。しかし、時を同じくして中国による南シナ海進出が如実となり、フィリピンが領有権を主張する南沙諸島(スプラトリー)内のミスチーフ礁が中国によって実効支配された。そこで中国牽制のため、1998年に本協定が新たに締結され、1999年以降米・比合同軍事演習が再開された。
(注2)ライラ・デ・リマ元司法長官・現上院議員:人権活動家弁護士で、アロヨ大統領の時にフィリピン人権委員会委員長(2008~2010年)、アキノ政権下で司法長官(2010~2015年)を歴任。2016年に上院議員に当選。2016年就任のドゥテルテ大統領が推進した麻薬犯罪撲滅運動の下での超法規的殺人を糾弾していたが、2017年2月、同氏が司法長官時代に職権を使って麻薬取引関係者に便宜を図ったとして当局によって逮捕・拘束。欧州議会や国際人権団体等は、でっち上げの不当逮捕とフィリピン政府を非難。
閉じる
その他の最新記事