ロシア軍がドンバス地方での攻勢を強める中、ウクライナ国防省は、ロシアが保有する高精度兵器の60%を使用したと主張している。また、欧米ではロシア軍の人材不足も報道されている。ロシア軍の苦戦が伝えられる一方で、ウクライナとロシアのどちらが実際に優勢になっているのかを見極めるのは実際には難しいとする声も上がっている。
米
『フォックスニュース』によると、ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が2275発のミサイルを使用して1475回近くのミサイル攻撃を行い、さらにロシア航空機による3000回の空爆を行ったと報告した。そして、ウクライナ国防省の情報総局副局長は25日、「我々のデータでは、高精度兵器に関して言えば、ロシア軍の備蓄の約60%がすでに使用されている」と推測していると述べた。また、ロシアの短距離弾道ミサイルシステムであるイスカンダルミサイルは、モスクワが補充に苦労している兵器のひとつに過ぎない、と語った。同副局長は、ロシアは戦術を変更し、ウクライナの標的に発射するミサイルの数についてより慎重になっているとも主張した。厳しい国際的な制裁と、予想に反した長期戦となっている戦争のため、ロシア派軍隊が必要な物資の補給と修復に奔走していると推測されている。
英『イブニング・スタンダード』は、イギリスの国防長官が25日、マドリードでスペインのマルガリータ・ロブレス首相と会見した際に記者団に対し、ロシアの軍隊はすでに「疲弊し、壊れている」と述べたと伝えている。ロシア軍は兵器だけでなく、兵員不足にも陥っているとされている。ロシア議会は兵員を補うために、志願兵の年齢制限を撤廃する法案を25日に可決した。プーチン大統領が法案に署名すれば、41歳以上の男性もロシア軍に参加することができるようになる。
また、米『ビジネス・インサイダー』によると、ワシントンの研究機関「戦争研究所(ISW)」は、全ロシア将校会議が5月19日、ロシアのウクライナでの「特別軍事作戦」は失敗に終わったとし、プーチン大統領に対し、ロシアは「全面戦争」に備えなければならないと主張しているという。ISWは、全ロシア将校会議の批判的な投稿は、ロシア軍の戦地での様々な失敗のニュースが、ロシア国内の厳しい情報統制を掻い潜って国民に伝わっていることを示唆していると指摘している。そして、オンライン上では、ブロガーなどによる、ロシア政府に対する批判が顕著になってきている、と報告している。
しかし、米『アメリカン・コンサーバティブ』は、ウクライナ戦争でどちらが優勢なのかという判断は、実際のところ難しいと伝えている。ウクライナがロシアを打ち負かし、屈辱を与えるというウクライナと欧米諸国の期待が、戦争の状況に対し色メガネを通した評価につながってしまっている可能性があり、正確な現状把握を歪めている可能性があると警告している。
例えば、ウクライナ大統領府のアンドリー・イェルマーク長官は「戦争は、ウクライナの領土と主権の完全な回復とともに終結しなければならない」と宣言した。ウクライナの和平交渉団の一員であるミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、「ロシア軍はウクライナを去らなければならず、その後に和平プロセスの再開が可能となる」と発言している。しかし、元ドイツ准将のエーリッヒ・ファド氏は最近、西側諸国の報道で主流となっているウクライナ優勢という見方よりもはるかに悲観的な評価を下している。「ロシア軍は、いつ、どこで、どのような兵力で攻撃を行うかを決定している。ロシア軍はドンバスで、数キロメートルにわたる前線を段階的にゆっくりと進み、領土を獲得している。キーウでの初期作戦のような速攻性はないが、より広い範囲で陣地を確保しているからだ。マリウポリ以外にも、アゾフ海や黒海沿岸の都市部を支配している。ゼレンスキー大統領が語っているように、地域を再征服するための反撃という選択肢もあるが、軍事的・作戦的にこれは現実離れしている。東ウクライナではロシアが強い。地上戦はもちろん、空中戦でも優位に立っており、この点を見誤るべきではない。反撃のために、ウクライナは兵器を持っていないし、兵器があったとしても成功しないだろう。」と指摘している。
ヴァド氏は、西側の武器がウクライナの躍進を保証してくれるという主張も退けた。「ウクライナの兵站基地は1000キロも離れたポーランドやスロバキアにある。これらの兵器は、ウクライナを通って東ウクライナまで何千キロも移動しなければならない。これらの供給ラインはもちろんロシアからの砲撃を受けている。ロシア軍の巡航ミサイル、短距離ミサイル、空軍、特殊部隊、偵察。物資の大部分は東ウクライナに向かう途中で全滅するか、捕獲されてしまう。軍事作戦上、ウクライナに勝機があるのは、ロシアにとってコストが高すぎる場合、長期に渡る紛争の末にのみである。しかし、その代償は莫大なものになるだろう。最終的には国が荒廃してしまう。私の考えでは、それは決して目的にはなりえない。」
独立系ジャーナリストのアーネスト・サイぺス氏も、同様の逆説的な見解を示している。「メディアが報道する内容とは裏腹に、ロシア連邦の軍隊は、強姦、殺人、略奪を行う暴れ者で構成されてはいない。また、ウクライナ軍との戦いでことごとく負けているわけでもない。さらに、モスクワの軍隊は燃料、装備、物資が枯渇しているわけでもない。ロシア軍から大量の脱走者が出ているわけでもない。我々が目にする情報は、この地域の戦争でいつも現れるような典型的なプロパガンダだ。私は、2008年の南オセチア紛争で、新聞社グルジア・トゥデイに勤めていたときに、まったく同じようなことが展開するのを見た。」
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ニューヨーク州司法省はこれまで、トランプ前大統領が保有する大手複合企業トランプ・オーガナイゼーション(TO、1923年前身設立)の脱税問題等について調査を進めてきた。そしてこの程、ニューヨーク州裁判所が同省の申し立てを認め、証拠書類等提出を求める召喚状に十分応じていないとして罰金を科すとの命令を下した。
4月25日付
『CNBCニュース』は、「NY州地裁判事、同州司法省の訴えを認めて、トランプ財閥の不動産鑑定書類を提出するよう不動産サービス大手クッシュマン&ウェイクフィールドに命令」と題して、TO保有資産の評価を行ったクッシュマン&ウェイクフィールド(C&W、1917年設立の世界最大の総合不動産サービス企業)に対して、同評価関係書類をNY郡地裁に提出するよう召喚状を発令したと報じた。
NY州地裁のアーサー・エンゴロン判事(2015年就任)は4月25日、NY州司法省が民事事件調査の一環で証拠書類として提出を求めていたTOのいくつかの不動産鑑定資料について、同評価を行ったC&Wに対して当該資料を同地裁に提出するよう召喚状(文書提出令状)を出した。
C&Wはこれまで、関係証拠書類の提出を拒んできたが、同令状に従って5月27日までに提出が義務付けられる。
同省報道官によると、同判事は上記発令の数時間前、同省のレティシア・ジェームズ長官がドナルド・トランプ前大統領(75歳)個人に対して要求していた関係書類提出の不提出を理由として、罰金を科すとの命令も下している。
それによると、同前大統領には、当該関係書類を地裁宛に提出するまでに要した期間に対して、1日当たり1万ドル(約128万円)の罰金が科されることになる。
これに関して、同長官は、“本日は二度も、何人も法を超越することは認められないとの真っ当な司法判断がなされた”と評価した。
更に同長官は、“我々が調査対象としているドナルド・トランプ及びTOに便宜を与えたと疑われるC&Wの行為に関して、地裁もその調査が妥当と判断した”とし、“我々の調査は、今後も怯まずに続けられる”と強調した。
一方、C&Wはメールによる声明で、“本日の召喚状は承知しているが、NY州司法長官の求めに従って真摯な対応をしていないとの主張は全く事実無根である”と表明した。
同社は更に、“同省の調査に協力すべく、これまで多くの時間、人員、費用を割いていて、数万に及ぶ情報提供をしてきている”とも強調した。
しかし、ジェームズ長官は、4月8日にC&Wに対してTOに関わる証拠書類提出を求める申し立てを行ったが、“C&Wは、TOの3件の重要な不動産に関わる鑑定書類の提出を拒んでいる”と主張している。
それは、NY州ウェストチェスター郡のセブン・スプリングス高級宅地、ロスアンゼルスのトランプ・ナショナル・ゴルフクラブ、及びマンハッタンの40ウォール・ストリート超高層ビル(通称トランプ・ビル)で、同長官は声明で、“TOがこれらの不動産に関し米連邦内国歳入庁(国税庁に相当)に対して、詐欺的もしくは誤解を与えかねない評価報告を行ったとの証拠がある”とし、“この評価報告によってTOは税額控除を得ているが、この評価にC&Wが行った鑑定が利用されている”と糾弾した。
また、同長官の声明によると、“C&Wは2010年及び2012年、TO所有のトランプ・ビルを2億~2億2千万ドル(約256億~282億円)と評価していたのに、2015年には、同ビルを5億5千万ドル(約704億円)と鑑定していて、TOは当時、ラッダー・キャピタル・ファイナンス(LCF、2008年設立の不動産投資信託)から融資を受けるために当該鑑定評価を利用していた”という。
TOのアレン・ワイゼルバーグ最高財務責任者(74歳)の次男のジャック・ワイゼルバーグはLCFの重役である。
そして、アレン・ワイゼルバーグ及びTOは昨年、2005年以降同CFO及び他のTO重役への報酬に対する課税回避の罪で起訴されているが、同CFO及びTOとも、罪に問われることはないとの申し立てを行っている。
4月26日付『ザ・ビジネス・インサイダー』オンラインニュース(2009年設立)は、「ドナルド・トランプの長年の鑑定人であるC&Wに対して、NY州司法長官の申し立てに従って関係書類提出命令」と題して、C&W及びトランプに対するNY州地裁の決定について詳報している。
NY州司法省がリリースした声明によると、“C&Wは過去十数年にわたり、トランプ及びTOの求めに応じて疑義ある鑑定を行ってきた”とし、“これに基づき、トランプは数億ドル(数百億円)の融資や税制優遇措置を享受してきた”という。
そして、例えばC&Wは、トランプ・ビルの評価を2012年には2億2千万ドルとしていたのに、2015年には3倍以上の5億5千万ドルだと鑑定しているが、その評価変更理由等の説明や関係書類に関わる同司法省の要求をことごとく拒否している、と同省は言及している。
今回の同地裁命令によって、C&Wは関係書類を5月27日までに提出する義務が生じる。
一方、同地裁は、トランプ個人に対して、NY州司法省の求める関係書類を提出していないことから、当該書類提出日まで1日当たり1万ドルの罰金を科すとの命令を下した。
トランプが、この罰金支払いに応じるか未だ定かでないが、アリーナ・ハッバ代理人弁護士(38歳)は、4月25日地裁命令を受けて、可及的速やかに事情説明を記載したトランプ個人の宣誓供述書を提出すると表明している。
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