米政府発表では、ウクライナ戦争に参戦しているロシア傭兵組織ワグネル・グループ(WG、注後記)の戦闘員3万人以上が死傷しているという。しかし、プーチン信奉者のひとりであるチェチェン共和国首長は、首長退任後に自身も同様組織を立ち上げると表明する程、同グループの活躍を称賛している。
2月19日付
『Foxニュース』は、「プーチン信奉者のチェチェン共和国首長、退任後に自身も傭兵組織を立ち上げると発言する程WGを称賛」と題して、プーチン大統領側近のチェチェン共和国首長が、ロシア傭兵組織WGの活躍を称賛し、自身も退任後に同様組織を立ち上げると発言したと報じている。
チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長(46歳、2007年就任)はウラジーミル・プーチン大統領(70歳、2000年就任)の信奉者・側近であり、ウクライナ軍事侵攻を強く支持している人物である。
そして同首長は2月19日、ウクライナ戦争に参戦している傭兵組織WGの活躍を称賛した上で、自身も首長職退任後に同様の組織を立ち上げたいと発言した。
WGは、同大統領の最側近の一人でオリガルヒのエフゲニー・プリゴジン(61歳)によって立ち上げられた。
プリゴジンは、“プーチンのシェフ”との渾名を持っているが、これは、彼が営むレストランやケータリング事業が、しばしばプーチンと外国要人との夕食会等に使われていたからである。
同グループは、ウクライナ戦争に本格参戦する前、中東、アフリカ、ベネズエラ等の内戦で活動していた。
同首長は、ロシアSNSのテレグラムに投稿して、“WGが軍事面で示した気迫等より、(紛争等について)このような民兵組織が必要かどうかの疑問に明確に答えを出している”と称賛した。
その上で同首長は、“首長職退任後、プリゴジン氏の組織と競争できるような民兵組織を立ち上げたいと思う”とも明言している。
WGは目下、ウクライナに約5万人の戦闘員を派遣している。
ただ、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官(2022年就任)は先月、ほとんどの戦闘員は囚人で、参戦を条件に派遣されたものだとコメントした。
更に、ロシア国防省は長い間WGとの関係性を否定していたとし、また、米情報局の調査では、ロシア軍高官とプリゴジンとの間の亀裂が大きくなってきている、とも付言している。
なお、米財務省は先月、WGを多国籍犯罪集団と認定していて、“プーチンは、自身が始めたウクライナ戦争継続のために、WGを利用している”と言及した。
同省の1月26日付声明によれば、“WG戦闘員は、中央アフリカ共和国(1960年フランスより独立)、同西部のマリ共和国(同左)の内戦において、大量殺人・強姦・子供誘拐・拷問等の重大犯罪を犯している”とする。
同日付『ニューズウィーク』誌は、「プーチン側近、WGと競えるような民兵組織を立ち上げるとの意向表明」と詳報している。
WGは先日、中央アフリカ共和国やマリでの人権蹂躙犯罪容疑で告発されている。
米ブルッキングズ研究所(1916年設立、ワシントンDC本拠)の2022年報告によると、WGは、イエメン、シリア、リビア、モザンビーク、マダガスカルにおける紛争にも参戦しているという。
そのWGについて、プーチン信奉者のカディロフ首長が2月19日、“WGはこの程、異論がないほど立派な功績を残している”とした上で、“自身も首長職を辞した後は、プリゴジン氏と競合できるような民兵組織を立ち上げたい”とまで発言している。
その上で同首長は、“チェチェン共和国の特殊部隊「アクマット」を母体として、民兵組織に仕立て上げるのは最善かも知れない”とも言及した。
しかし、防衛・外交政策専門の米シンクタンク、戦争研究所(2007年設立、ワシントンDC本拠)は、プリゴジンはウクライナ戦争を利用して、ロシア政界における“(自身の)衰退しつつある影響力”を復活させようと目論んでいるだけだ、と批判している。
すなわち、同研究所は2月18日リリースの報告書の中で、“プリゴジンはカディロフと共謀して、ロシア国防省の力を削ごうとしているに過ぎない”と評価している。
更に、“カディロフがWGを称賛しているのは、プリゴジンが2月16日に負傷したチェチェン共和国特殊部隊司令官を見舞ったことの返礼の意味もある”とした。
その上で、“プリゴジンが2月18日に、WGはロシア国防省に属する団体ではないし、ロシア軍と何の関係もないと明言して、同省に対抗する意図を鮮明にしたことから、カディロフ自身もそれに追随する意図で、上記のような称賛コメントを出したものとみられる”と言及している。
(注)WG:2014年に勃発したドンバス戦争(ウクライナ東部ドンバス地方におけるウクライナ政府軍と親ロシア派間紛争)に参戦すべく、ロシア人オリガルヒ(新興財閥)でプーチン最側近のひとりであるプリゴジンによって組成。以降、アフリカ(スーダン・リビア)、シリア、ベネズエラ等の内戦に派兵。
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ロシアが隣国ウクライナに軍事侵攻して早9ヵ月が経過したが、未だに終結の糸口が見えない。そうした中、ロシア連邦保安庁(FSB、注1後記)から漏洩した機密文書で、ロシアがウクライナ侵攻前の昨夏に、日本を攻撃する計画を立案していたことが明らかになった。
11月24日付
『ニューズウィーク』誌は、「FSB漏洩文書から、ロシアが2021年夏に日本を攻撃する計画を持っていたことが明らかに」と題して、ロシア当局内の内部告発者から提示された情報から、ロシアはウクライナ軍事侵攻を行う半年余り前に日本を攻撃する計画を練っていたことが判明したと報じている。
ロシアのFSBの内部告発者から得た情報によると、ロシアは、ウクライナ軍事侵攻を開始する何ヵ月も前の2021年夏に、日本を攻撃する計画を練っていたという。
反汚職運動を展開する「グラグ・ネット(注2後記)」の人権活動家、ウラジーミル・オセチキン氏(44歳、2015年にフランスに亡命中)が同内部告発者から3月17日付メールで受信したものである。
同内部告発者は、かねてFSB等の腐敗に憤って、ウラジーミル・プーチン大統領(70歳、2000年就任)が手を染めたウクライナ軍事侵攻に関わるFSBの暗躍についてオセチキン氏に度々情報提供をしてきていた。
今回の上記メール含めて、ワシントンDC本拠のNPO団体「ウィンド・オブ・チェンジ・リサーチグループ(WCRG)」イゴール・スシュコ代表が、内部告発者のロシア語表記の発信情報を英訳して『ニューズウィーク』誌に提供したものである。
当該メール文によると、2021年8月にロシアは“日本と局地的な軍事衝突を真剣に検討”していたという。
更に、“両国間で深刻な軍事衝突へ進む恐れがあり、それが戦争へと発展する可能性があったが、何か別の理由で、日本ではなくウクライナとの戦争に変わった”とする。
同内部告発者によると、ロシア側は、政府高官や国営メディアを通じて、日本人は“ナチス”かつ“ファシスト”だと喧伝し始める一方で、電子戦闘ヘリコプターに日本攻撃の準備をさせていたという。
内部告発者によると、具体的にロシア当局が取ったプロパガンダは、2021年8月にFSBが機密解除して、第二次大戦中にソ連市民が日本の特高警察にどれだけひどい拷問を受けたか生々しい描写を公開して、日本を貶めようとしたとする。
また、“ロシア国営メディアは8月8日の報道で、日本は1938年からソ連を攻撃しようと準備していた、と更に言いがかり的な記事を流していた”という。
しかし、“8月16日にはいきなり、日本軍が生物兵器開発のためにソ連軍捕虜を人体実験に使っていた”とした上で、ソ連軍が日本軍を打ち負かしたことで、“ソ連が、日本軍による生物兵器使用による攻撃から世界を救った”とも喧伝し始めた、とする。
なお、両国は、第二次大戦終了後、依然平和条約を締結していない。
この阻害要因が、戦後何十年間も続く“北方領土問題(日本領土とする北方4島をロシアが実効支配)”である。
“敗戦国の日本は、公式な軍隊や対外情報局等を保有することが禁じられているが、北方領土(ロシア呼称はクリル諸島)を取り戻すことで戦後体制を変更できると考えている”とする。
一方、ロシア側は、北方4島は“交渉の切り札”だと捉えているとし、これが、ロシアが日本を攻撃対象として検討していた背景だと考えられる、という。
(注1)FSB:旧ソ連の情報機関・秘密警察であったソ連国家保安委員会(KGB、1954~1991年)の後継とされる組織で、1995年設立。ロシア連邦の犯罪対策を行う。
(注2)グラグ・ネット:ロシアの汚職撲滅や囚人の人権擁護を目的としたプロジェクトで、元実業家で人権擁護者のウラジーミル・オセチキンが2011年に創設・運営。囚人(囚人家族)や元囚人からの救援要請・情報提供を受けるホットライン、また公開のGmailアドレスを持っており、刑務所・拘置施設内での拷問・人権侵害について当局側の職員からも内部告発を受け取っている。またSNSを通じて、発生した人権侵害を広く周知させて、当局が不正行為をした職員の処分に動かざるを得なくなる状況を作っており、頻繁なストリーミング配信では被害者や元職員・人権擁護者などのインタビューを精力的に行っている。
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