国連総会において10月12日、ロシアによるウクライナ東部・南部4州の一方的な併合宣言を無効とする決議が143ヵ国の賛成で採択された。欧米諸国によって提案された決議案が、これまで最多となる国々によって支持されたことになった。しかし、ウラジーミル・プーチン大統領(70歳、2000年就任)は、依然西側諸国が思うより多くの支持国を保有していることを示す行動に出ている、と米メディアが報じている。
10月14日付
『ニューズウィーク』誌(1933年創刊)は、「ウラジーミル・プーチン大統領、西側諸国が思う以上に支持国保有」と題して、193ヵ国が加盟する国連総会において、実に74%以上の国がロシア非難決議に賛成したにも拘らず、同大統領が依然多くの支持国を抱えていると報じた。
国連総会でこれまで最多となる国から非難決議を受けて四面楚歌となっているウラジーミル・プーチン大統領は、その翌日に中央アジアで開催されたアジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA、注1後記)において、加盟国首脳らから暖かく迎えられた。
国連総会は10月12日、ロシアが一方的にウクライナのヘルソン・ルガンスク・ドネツク・ザポリージャ4州を併合するとした宣言を非難し、無効とする決議を143ヵ国の賛成多数で採択していた。
反対したのは、ロシアの他、北朝鮮・ベラルーシ・シリア・ニカラグアの僅か4ヵ国であった。
これに対抗するかのように、プーチン大統領は10月13日にアスタナ(カザフスタン首都)で開催されたCICAにおいて、西側諸国基準で作られた国際秩序から離れて、非西側諸国主体の秩序を作っていくよう強く訴えた。
同大統領は、“アジアのパートナー国の多くが望むように、今こそ我々の欲する国際金融システムの構築が必要とされている”とも言及した。
ロシア国営『タス通信』(1902年設立)は、プーチン大統領が10月14日に初めて開催されたロシア・中央アジア首脳会議においても、“多くの分野で我々が相互協力していこうとする努力を、(西側諸国等)外部から邪魔されてきている”と警鐘を鳴らした、と報じている。
西側諸国に代わる立場を率先して示してきたことから、プーチン大統領は依然西側諸国以外の国々からの信頼が厚い。
特に、ブラジルを含めて中・南アメリカのほどんどの国がロシアを支持しており、対ロシア制裁に賛同しているのはバハマ(1973年英国から独立した英連邦王国)1ヵ国のみである。
ウェズリアン大(1831年創立、コネチカット州在私立大学)ロシア・東欧・ユーラシア研究専門のピーター・ラトランド教授は、南北問題(注2後記)で言及される途上国が、“ロシアのウクライナ軍事侵攻を寛容な目でみていることによって、法に則った国際秩序に悪影響を及ぼしかねない”と憂慮している。
同教授は、“かかる状況下、これら途上国が西側諸国による対ロシア制裁を打ち壊し、ロシアとの交易を更に増やそうと望む姿がより浮かび上がってしまう”と懸念した。
一方、中国及びインドも、プーチンの戦争が始まって以来、ロシアを直接非難することは控えてきていて、そのお陰か、高騰した市場価格より安価なロシア産原油を購入する等、ロシアとの貿易を増やしてきている。
また、プーチンは天然ガス輸出国フォーラム(2001年設立、加盟19ヵ国、本部カタール)において、カタールのタミーム・ビン・ハマド・アール=サーニー首長(42歳、2013年就任の世界最年少の君主)と会談し、エネルギー市場での連携について協議している。
更に、プーチンは、(対ロシア制裁を続ける欧州向け天然ガス供給について)トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領(68歳、2014年就任)と会談して、トルコ経由の天然ガス供給を新たな主要ルートに据えるべく協議している。
西側制裁に苦しむプーチンとしては、トルコがそれに参加せず、むしろロシア・ウクライナ間の仲立ちをしようとしているため、信頼を高めている。
米シンクタンク大西洋評議会(1961年設立)のアルプ・セビムリソイ研究員(2021年より所属の地政学戦略家)は『ニューズウィーク』のインタビューに答えて、プーチンは(その返礼として)“トルコが望んでいる黒海ルートの優越性確保を黙認しようとし”かつ、“天然ガス輸送ルートの確保に協力してくれているトルコに最大限の敬意を払っている”と分析している。
しかしながら、先月辺りから潮目が変わりつつある。
まず、9月にウズベキスタンで開かれた上海協力機構(SCO、注3後記)首脳会議において、インドのナレンドラ・モディ首相(72歳、2014年就任)から直接、“今は戦争をしている時代ではない”と釘を刺され、また、習近平国家主席(69歳、2012年就任)からは、ウクライナ問題で“疑問や懸念”を抱いていると言われてしまい、中国からのロシア支持に限界がきていることが明らかになってしまっている。
更に、ラトランド教授が『ニューズウィーク』のインタビューに答えて、“インド・中国・トルコの首脳は当初、米国不信及び安価なロシア産原油確保との理由より、プーチン支援の気持ちを抱いていた”が、“ロシアが戦争に負け始めていることや、一向に止めずにむしろエスカレートするばかりであることから、それに伴うインフレーションによる世界経済への悪影響を憂慮するようになっている”とコメントした。
その上で、同教授は、“国連総会決議にみられるように、南北問題で言われる途上国が戦争継続に疲れ、一日も早く終戦することを望むようになった”と分析している。
(注1)CICA:1993年に発足した多国間協力組織、もしくは国家連合。1992年10月の第47回国連総会において、カザフスタン大統領ヌルスルタン・ナザルバエフ(現82歳、1991~2019年在任)がアジア全域の相互協力と信頼醸成を目的とする地域フォーラムとして設立を提唱したことに始まる。正規加盟は西・中央・南・東アジア及び中東の28ヵ国・地域、オブザーバーは日本を含む7ヵ国・4機関。カザフスタンのアルマトイに常設事務局が置かれている。欧州安全保障協力機構(OSCE、北米・欧州・中央アジアの57ヵ国が加盟する世界最大の地域安全保障機構)のアジア版との見方がある。
(注2)南北問題:1960年代に入って指摘された、地球規模で起きている先進資本国と発展途上国の間に経済格差が存在しているという問題、及びその問題を解決するという、人類全体に課せられた課題のこと。地球規模の視野でみると、豊かな国々が世界地図上の北側に、貧しい国々が南側に偏っていることからそれぞれ、英語では通常グローバル・ノース、グローバル・サウスと呼ばれる。日本では、「南北問題」という短い訳語が選ばれているが、本来は「南北間の経済格差」が分かりやすい訳。
(注3)SCO:中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・インド・パキスタンの8ヵ国による多国間協力組織、もしくは国家連合。2001年に前身となる5ヵ国による組織が上海で設立されたために「上海」の名を冠するが、本部(事務局)は北京。
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日本政府は、故安倍晋三元首相(享年67)の盟友であったかも知れないが、仮にウラジーミル・プーチン大統領(69歳)から国葬参列の意思表明があったとしても断ることとした。その傍若無人な振る舞いを続けるプーチンについて、英国人ジャーナリストが、彼の愛人と噂されている女性との生活によって強気な外交政策を続けるに至っていると、近々発刊の伝記で記している。
7月22日付
『ニューズウィーク』誌(1933年創刊のニュース情報週刊誌)は、「プーチン伝記:彼の愛人によって外交政策を強気に展開」と題して、ウラジーミル・プーチン大統領が世界を敵に回すような強気の外交政策に転じた陰には、若い愛人との地に足がついた生活があると考えられる、とした英国人ジャーナリストが近々発刊する伝記の中で記述していると報じた。
ウラジーミル・プーチン大統領の半生を綴った伝記によると、彼の強気な外交政策はここ十数年噂されてきた愛人の存在によって影響を受けているとみられるという。
英国人ジャーナリスト兼作家のフィリップ・ショート氏(77歳)が記した「プーチン:彼の半生とその時代」という伝記で、7月26日に米国で出版される。
その中で同氏は、プーチンが他国の首脳と違って孤立しがちだったのは、これまで“地に足の着いた安定的な家庭”を持っていなかったからだとする。
プーチンは、公的の場に姿を見せようとしなかったかつての妻(編注;リュドミラ・プーチナ(現64歳)、1983~2013年の間婚姻関係)とうまくいっていなかったが、現在噂されている元オリンピック・アスリートの女性とは良好であるという。
その女性とは、ロシア代表元新体操選手のアリーナ・カバエワ氏(39歳、2004年アテネ大会金メダリスト)で、彼女が22歳(2005年)の頃から交際が始まった模様である。
この交際を最初に報じたのが『モスコフスキー・コレスポンデント』紙(2007年創刊)で、同大統領が、2008年報道の当該記事内容は“真実が一切含まれない”と全否定するコメントを出して間もなく、同紙は廃刊に追い込まれている。
しかし、ショート氏によると、プーチンが彼女と2005年に交際を始めたのは確かで、何故なら、その後彼の行動が“微妙に変化”し、明らかに精神的に上向いてきたからだという。
同氏は著書の中で、“(彼女の存在が)彼の私生活に止まらず、外交面での強気な対応等にも影響を及ぼしているのではなかろうか?”とし、“それが西側諸国にとっては、より好戦的になったと捉えられているとみられる”と言及している。
ただ、同氏は、“プーチンが私生活を完全に隠すと決断している以上、この憶測が正しいのか確かめようがない”とも記述している。
この愛人関係はこれまで一切確認されてきていないが、しばしば噂に上がってきており、また、カバエワ氏との間に2人の子供がいるとの情報についても、彼女自身も認めようとしていない。
一方、ロシアによるウクライナ軍事侵攻に伴い、西側諸国は挙って対ロシア制裁を発動し、特にオリガルヒと呼ばれるロシア新興財閥を厳しく制裁してきている。
今年4月、米財務省がこの一環で、プーチンと近しい関係があるとしてカバエワ氏も制裁対象とすることを検討したが、米ロ間の緊張関係が益々高まることを懸念して断念している。
しかし、欧州では違った対応をしていて、英国が5月中旬に、また欧州連合(EU、1993年設立)も6月初めに、それぞれプーチンの家族・友人に加えてカバエワ氏も制裁対象として資産凍結等の措置を講じることを決定している。
EUは声明文の中で、“ロシアによるウクライナの主権侵害等の行為は全く許されることではなく、それを支持したりする人物の責任は重い”とし、“カバエワ氏もその一人である”と認定している。
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