ドイツの殺人犯の「忘れられる権利」が認められる(2019/11/28)
ドイツの憲法裁判所が、過去の事件の殺人犯が、インターネットで事件を検索した際に検索結果に自分の名前が出てこないようにする権利を認めたという。インターネットの検索エンジン表示をめぐっては、情報を得たいという公共の利益か忘れられたいというプライバシー保護かの間で、しばしば裁判が起きている。
11月27日付英国
『BBC』は「ドイツの殺人犯が“忘れられる権利”を勝ち取る」との見出しで以下のように報道している。
ドイツ最高裁の判決により、1982年に殺人罪で有罪判決を受けたドイツ人男性が、インターネットの検索サイトで自分の名前を検索結果から削除する権利を勝ち取った。カールスルーエの憲法裁判所は、ヨットで2人を殺害し終身刑となっていた男に有利な判決を下した。男は2002年に釈放され、犯罪歴と名字の関連性をなくしたいと主張。...
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11月27日付英国
『BBC』は「ドイツの殺人犯が“忘れられる権利”を勝ち取る」との見出しで以下のように報道している。
ドイツ最高裁の判決により、1982年に殺人罪で有罪判決を受けたドイツ人男性が、インターネットの検索サイトで自分の名前を検索結果から削除する権利を勝ち取った。カールスルーエの憲法裁判所は、ヨットで2人を殺害し終身刑となっていた男に有利な判決を下した。男は2002年に釈放され、犯罪歴と名字の関連性をなくしたいと主張。出版社がネット上でアクセスすることが制限されることとなる。
当時カリブ海を石油タンカーで航海中、二名を射殺し1人を重傷を負わせた。この事件に関する本やTVドキュメンタリーが制作されている。1999年、雑誌「デア・シュピーゲル 」(Der Spiegel) が1982から翌年にかけ作られた男のフルネーム入りの3つの記事を同誌ホームページ上にあげた。その記事は今もグーグル検索で簡単に見つかるという。2009年男はその記事に気づき削除を求めた。裁判陳述によると、彼の「権利と人格形成能力を侵害する」として認められたのである。
2012年、最初連邦裁判所は彼のプライバシーは公共の関心や表現の自由に勝るとは言えないとして、棄却したが、憲法裁判所でその決定は覆され、連邦裁判所に戻されることとなった。
出版社はネット上に記事のアーカイブを保存できるが、要請があれば削除しなければならなくなる。「忘れられる権利」問題は賛否ある問題であり、EUとグーグル間で訴訟も起きている。
同日付ドイツ『DW』は「ドイツの最高裁が殺人犯の忘れられる権利を認める」との見出しで以下のように報道している。
ドイツの憲法裁判所が1982年に有罪判決を受けた男がネット上にある自分の名前を削除する権利を認めた。男のフルネームがネット上の大手雑誌のアーカイブに残っている。1982年におきた犯罪に関する記事が、名前検索の上位に来るため削除を求めた男の申し立てが認められたこととなる。
水曜出された声明によると、サーチエンジンが現在の犯罪についてのニュース記事を載せるのは妥当だが、時が経過すれば、加害者を突き止めようとする公共の関心は薄れるものだとの判断が成されたという。
1982年、当事件はドイツで大ニュースとなった。タンカー船がカリブ海を航海中、船上で乗組員のもめごとが起き、男が複数名を殺傷した。当時40代前半だった男は2002年釈放されている。
事件は2004年に本や民放番組(ARD)で取り上げられるほど有名になり、1999年雑誌「デア・シュピーゲル 」(Der Spiegel) が過去に作成した彼の名前を含む記事をホームページ上にあげた。その記事は今もグーグル検索で簡単に見つかるという。
弁護士や報道の自由提唱者は、今回の決定を歓迎。個人弁護士は、特殊な重罪事件のような場合でも、犯人は社会の中で、忘れられ新たなチャンスを得る権利があるとする。
ネット検索エンジンを巡るプライバシーの権利と情報を得る自由とのバランスは、ドイツや欧州でしばしば裁判沙汰となっている。4月には、欧州司法裁判所がEU法の下では、EU圏外の国の要請により、検索結果を削除する必要がないとの判決を下し、グーグルが勝訴。フランスのデータ監視当局CNIL(情報と自由に関する国家委員会)が、ネットサーチ結果から機密情報を削除する事を拒否したことで、グーグルに2016年罰金を科したこともあった。ドイツの憲法裁判所は、EU法は合法だが、この件では、ドイツ国民の憲法上の権利を守る義務があると判断した。
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ドイツ3つの州議会議員選挙、右派ポピュリズム政党が大躍進(2016/03/14)
昨年秋ごろまでは、ドイツは難民受け入れに対し寛容な政策をとり続けてきた。好調な経済成長を続けるドイツは、国内の労働力不足を解消すべく周辺国から労働者を受け入れており、難民の受け入れは労働力の確保にも一役買うとの目論見もあったのかもしれない。しかしながら、難民の流入はドイツの思惑に反し、とどまるところを知らず、増加の一途をたどっていった。難民の流入により職を失う自国民が出て、挙句の果てには昨年大晦日にドイツ西部の都市ケルンでアラブ、北アフリカ人を中心とした集団による、大規模なドイツ人女性への強盗や性的暴行事件が発生し、治安の悪化を招いている事態も報告されている。そんな中、メルケル首相が難民受け入れを打ち出してから初めての議会議員選挙がドイツの3つの州で行われた。難民問題は国政の問題であり、地方議会の選挙とは無関係にも見えるが、選挙活動の中でも難民問題は大きなウェイトを占めて取り沙汰されており、事実上国の難民問題への是非を問うものとして注目を集めいていた。結果は右派ポピュリズム政党で、難民排斥を謳う「ドイツのための選択肢」(AfD)が獲得議席数を大幅に伸ばしている。今後のドイツの難民政策はどのように変化していくのか、各メディアは以下のように報じている。
3月13日付
『ザ・ガーディアン』(英)はバーデン・ヴェルテンベルク州、ザクセン・アンハルト州、ラインラント・プファルツ州の3州で議会議員選挙が行われ、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が獲得議席数を大幅に減らし、代わってAfDが第一党ではないものの大幅に議席数を伸ばし躍進したと報じている。特にバーデン・ヴュルテンベルク州は、第二次世界大戦以降CDUが多数派を占めてきたが、今回の選挙でその座を30.5%の票を獲得した「緑の党」に明け渡す結果となった。...
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3月13日付
『ザ・ガーディアン』(英)はバーデン・ヴェルテンベルク州、ザクセン・アンハルト州、ラインラント・プファルツ州の3州で議会議員選挙が行われ、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が獲得議席数を大幅に減らし、代わってAfDが第一党ではないものの大幅に議席数を伸ばし躍進したと報じている。特にバーデン・ヴュルテンベルク州は、第二次世界大戦以降CDUが多数派を占めてきたが、今回の選挙でその座を30.5%の票を獲得した「緑の党」に明け渡す結果となった。ドイツの週刊誌「デア・シュピーゲル」はこれを「保守派の黒い日曜日」と報じた。
AfDは2013年に結成された右派ポピュリズム政党であり、結成当初ユーロの廃止を謳っていた。その後設立者が党首を辞任後、党の方針を難民排斥にシフトし、国民の支持を少しずつ集めてきた。特にザクセン・アンハルト州では「ペギーダ」(西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者)活動と相まって勢いを伸ばし、出口調査で24.4%を獲得し第二党に躍り出るという快挙を成し遂げている。発足3年足らずの党が第二党になるのは驚きだと同記事は記している。AfDは残り2州でも12~15%の票を獲得し、まずまずの結果を出している。
他方「緑の党」はドイツ議会で4番目に大きい政党であり環境政党とも呼ばれている。「緑の党」はバーデン・ヴュルテンベルク州以外では議席数を減らしており、今回の選挙の焦点と言われた難民問題では「蚊帳の外」の存在になった。
このようなAfDの大躍進は、CDUの難民政策に失望した票がAfDに流れたためとみられている。AfDはTTIP(環大西洋貿易パートナシップ)での国民投票実施やロシアへのウクライナ問題に関する経済制裁の停止など様々な政策を謳っているが、これらに国民はほとんど注目しておらず、難民問題に関するメルケル首相への国民の意思表示がAfDの躍進につながったとみてよいだろう。
同日付
『ロサンゼルス・タイムズ』(米)はAfDの支持者層が、米大統領候補者ドナルド・トランプ氏のそれと類似すると指摘する。同記事によれば、AfDの支持者は難民に経済的地位を脅かされていると感じている、とりわけ低所得者層で教育レベルの低い男性が多いとされる。そして、その状況を改善するために国内に流入する難民を排除することが必要と感じている点が両者の共通点だというのである。そして現にAfDは「反難民」という政治的、道徳的に見て正しいとは言えない、いわば「タブー」とされるスローガンを掲げて多くの支持者を集めることに成功している。現時点ではAfDと組む政党は現れておらず、ドイツの難民政策が直ちに変更されることは考えづらいが、この先の動向は予測が難しいともいえる。
同日付
『ウォールストリート・ジャーナル』(米)もメルケル首相が難民政策に関してドイツ国境を閉鎖するのではなく、トルコと協力して難民の流入数を減らす方針を堅持する方針を変えるつもりはないと明言していると報じる。事実今回の選挙結果にもかかわらず、メルケル首相の支持率は54%と、昨年夏の67%からの落ち込みはみられるものの、他のヨーロッパの政治家と比べても高い数字を出している。AdFが急進的に勢いを伸ばしてはいるものの、ドイツ国民の大多数は静かにメルケル首相の難民問題に対する手腕を見定めているのかもしれない。
今回のAdFの躍進は難民政策をめぐる一時的なものと見る見解が多数を占めるものの、今後の政府の打ち出す方針如何によっては政権がAdFにとって代わるという事態も絶対に無いとは言い切れないだろう。この先のメルケル首相の手腕が問われるところである。
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