仏・「個人の権利や自由」より「反テロ監視」へ(2015/06/26)
米国国家安全保障局(以下NSA)が、シラク大統領からオランド大統領まで、フランス大統領三代の通話を盗聴していた事が明るみに出た。フランス議会が反テロのフランス版愛国者法ともいえる、インテリジェンス法を採択したタイミングでこの暴露が行われたものの、法案は可決された。この法律は通信事業者やプロバイダー業者が、通信判別のためのブラックボックス設置を許可する。
フランス政府が「受け入れられない」と強く反発姿勢を示すものの、諜報活動自体に理解を示すようなあいまいな扱いがフランスメディアの中に目立つ。右派系
『フィガロ紙』は、「米仏の諜報活動における協力は、「米国のノウハウによって、欧州は実際恩恵を受けた」と、フランスの諜報機関にあたる国内情報中央局(以下DGSI)のスカルシニ元局長の言葉を引用する。フィガロ紙は「残念な波乱のせいで、有益な反テロの共同作業に傷をつける事は間違いない」と嘆き、その矛先はNSAよりむしろウィキリークスであるかのようだ。...
全部読む
フランス政府が「受け入れられない」と強く反発姿勢を示すものの、諜報活動自体に理解を示すようなあいまいな扱いがフランスメディアの中に目立つ。右派系
『フィガロ紙』は、「米仏の諜報活動における協力は、「米国のノウハウによって、欧州は実際恩恵を受けた」と、フランスの諜報機関にあたる国内情報中央局(以下DGSI)のスカルシニ元局長の言葉を引用する。フィガロ紙は「残念な波乱のせいで、有益な反テロの共同作業に傷をつける事は間違いない」と嘆き、その矛先はNSAよりむしろウィキリークスであるかのようだ。スカルシニ元局長は以前にも「企業を守る事は国益なので、我々フランスがスパイ活動を行うように、米国が経済界や産業界をスパイする」とフィガロ紙で述べており、今回も「同盟国が国家最高レベルの諜報活動を行う時のモラルの問題」との見解を示す。諜報機関の大家として知られるスカルシニ元局長は、「潜入活動における遵守すべき職業倫理がある」と説明し、今回はその一線を超えたという見解で、個人の自由には触れなかった。インテリジェンス関連法が、時を同じくしてフランス議会で可決した事が影響している。
経済紙
『レゼコー紙』は、「個人の自由の擁護者に大損害を与えて諜報活動を合法化する」と形容するインテリジェンス法案を、「左派系与党の社会党から共和党(旧国民運動連合UMP)までが賛成に投じた」、「約100名の議員がこの法律を“危険”と判断し、憲法評議会に提訴する」一方で、「カゼヌーブ内務大臣は、NSAの盗聴とこの法律を“作為的に同一視して混乱する事”を警戒する」、「フランス政府高官は“愛国者法”設置を拒否」、「オランド大統領は、憲法遵守のため憲法評議会にかけると発表」等、フランス国内の各反応を追う報道に留まるものの、「この法律が急速に進められたのは1月のシャルリ・エブド襲撃翌日」だった事に注目する。襲撃事件が、フランスを一気に個人の権利や自由より反テロ監視へと向かわせたと言える。
スノーデンの講演を独占掲載した
『リベラシオン紙』は、個人の自由の観点から一貫して愛国者法と「大規模監視に対する国民の無反応」を危惧する。
『ルモンド紙』は「仏社会党が右化したと反発する社会党議員の離脱」を報じる。
フランス国内で意見が割れつつも、フランス社会全体が方向転換しつつある事が、フランス各メディアの報道の違いからも浮彫になる。
閉じる
フランス・カトリック社会と“自由”(2015/01/19)
1つ目は、現ローマ法王の出身母体であるイエズス会系の雑誌であるにもかかわらず、表現の自由の観点から、「シャルリ・エブド襲撃の翌日にウーベ編集長率いるエチュード誌のトップページで、カトリックとローマ法王に対して不敬とも言える、シャルリ・エブドの一面記事を掲載する。“恐怖に屈しない事”と“多次元的社会を擁護する事“を求める言葉を添え、“権威をあざ笑えるのは勇気の印”、“信仰でのユーモアは狂信に対する解毒剤”との結論を導く」。...
全部読む
1つ目は、現ローマ法王の出身母体であるイエズス会系の雑誌であるにもかかわらず、表現の自由の観点から、「シャルリ・エブド襲撃の翌日にウーベ編集長率いるエチュード誌のトップページで、カトリックとローマ法王に対して不敬とも言える、シャルリ・エブドの一面記事を掲載する。“恐怖に屈しない事”と“多次元的社会を擁護する事“を求める言葉を添え、“権威をあざ笑えるのは勇気の印”、“信仰でのユーモアは狂信に対する解毒剤”との結論を導く」。具体的には「ベネディクト16世が辞任後に陽気にスイスの傭兵にキスし、“ついに自由だ!”のセリフが添えられたり、ローマ法王フランシスコがリオの海岸でバレリーナの格好をする」風刺画も含まれる。
2つ目は、フランスは自由を掲げる国であると同時に、今でもローマカトリックが影響力をもつ点である。このため伝統的に権威に対抗するシャルリ・エブドは、ローマカトリックもたびたび標的としてきた。
「シャルリ・エブドのエチュード誌掲載が、論争を引起し、犠牲を払う事になったのは、エチュード誌には予想外だった」事はこの二つの側面を表す。「我々カトリックはシャルリ・エブドの論説を共有しないが、共感したのは表現の自由の擁護だった」とウーベ編集長は説明するが、「強力で保守的なカトリックサイト
『サロン・ベージュ』は、ローマ法王フランシスコやベネディクト16世の卑猥な描写をあえて掲載した事は、想像を絶する。神は嘔吐し我々も吐き気を覚える」と投稿し抗議文を送った。しかし「イエズス会からの圧力はなかった」とウーベ編集長は断言した。抗議デモ以来、一部イエズス会は右派の烙印を押され、法王とイエズス会自体にも敵意を向けられている。同類に扱われる事を危惧して議論をなだめるために、エチュード誌はこのページを削除した」とリベラシオンは報じる。,BR>
『AFP通信』とリベラシオン紙は、ローマ法王フランシスコの見解を引用する。「表現の自由は全ての人がもつ“基本的権利”である」と認めつつ、「“他を貶める事なく”行使されるべきである」と述べ「“神の名のもとに殺す”という表現は常軌を逸脱している」と例を挙げる。
フランスメディアの指摘どおり、言論の自由の名の下にどこまで許容されるかの議論は今後益々白熱し、不可欠でもある。日本のヘイトスピーチで「殺せ」という言葉が繰り返された時、請願署名サイトで暴力的なヘイトスピーチの規制を、自治体に求める署名活動が行われた。これを言論の自由への攻撃と呼ぶ人は少ないだろう。
閉じる
その他の最新記事