既報どおり、米国における北京冬季大会のテレビ視聴率が低迷している。米メディアは、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題の最中での開催のみならず、米中対立が激化していることから止む無いとしているが、カナダにおいても、カナダ人実業家の中国当局による不当拘束問題等、中国との軋轢もあって、同様に低迷している。ただ、米メディアと同様、カナダメディアも「ストリーミング(注後記)」視聴率増でカバーされているとする。
2月12日付
『グローブ&メール』紙(1936年設立)が、カナダ公共放送
『CBCテレビ』(1952年開局)が集計したデータをもとに、目下開催中の北京冬季大会の視聴率について詳報した。
それによると、2月4日の開会式当日を除く最初の6日間のプライムタイム(午後7時から深夜12時まで)のテレビ視聴者数は105万5,500人と、同日数の東京夏季大会の129万人、また、前回2018年の平昌冬季大会の194万人から大きく後退しているという。
ある広告代理店が『グローブ&メール』紙に語ったところによると、『CBC』が当初目論んでいた視聴率に比べて25%も下回っているという。
この凄まじい落ち込みは、米国の低視聴率と同様の事態で、米『NBCテレビ』(1938年開局)のプライムタイムの視聴者数は、平昌大会の2,300万人から僅か1,230万人と46%も下落している。
ただ、両冬季大会の競技日程及び放送時間の違い等から、単純に比較することはできない。
例えば、平昌大会でカナダのマックス・パロット選手(当時23歳)及びマーク・マクモリス選手(同24歳)がスノーボード・スロープスタイルでそれぞれ銀・銅メダルを獲得した際、カナダ東部時間午後9時28分の放送で340万人が視聴していたが、今回の北京大会では、同じく両選手がそれぞれ金・銅メダルを獲得した時の放送時刻は深夜12時29分だったこともあり、僅か120万人の視聴に留まったからである。
また、『CBC』によると、平昌大会フィギュアスケート団体戦でカナダチームが金メダルを獲得した際、午後9時57分の放送でもあったことから大会を通じて最多となる360万人が視聴していたが、今回の同種目では4位と成績が振るわなかったこともあってか、午後9時06分の時刻に放送されたものの、カナダ・ペアの試技で最多150万人が視聴したに留まったという。
一方、大会開催前のカナダにおける世論調査の結果、中国における人権問題に加えて、カナダ人ビジネスマンのマイケル・コブリグ氏(49歳)及びマイケル・スパバー氏(45歳)が中国当局によって不当に拘束された事態もあって、北京大会への興味はすこぶる低調であった。
(編注;両氏とも2018年12月、中国滞在中にそれぞれ“国家転覆容疑”等のでっち上げとしかみられない理由で拘束。多分に、カナダ当局が米国要請に応えて、通信機器大手ファーウェイの孟晩舟副会長(メン・ワンチョウ、50歳)を逮捕したことへの報復と推定。ただ、カナダが2021年9月、米国への引き渡しをせずに孟容疑者を退去処分とすることで放免したことから、ほぼ同タイミングで両カナダ人も釈放・帰国。)
ただ、トロントの広告代理店キングスター・メディアのアダム・シーボーン営業・メディア担当部門長は、上記政治的問題以外に、『CBC』が今回北京に余りスタッフを派遣せず、報道担当者・競技解説者等がカナダのスタジオからリモート中継したことも要因だとしている。
更に、大会期間中の2週間、視聴者の興味をそそるような中国の文化・歴史・地理等の情報について、『CBC』が中国側から収集できないという事情もあったとする。
その上で同部門長は、『CBC』はプライムタイムの視聴者数を平均142万人と見積もっていたとするが、“自身が思うところ、今のところ予想を大きく下回っている”と付言している。
また、別の観察者によると、東京夏季大会が終わってまだ半年しか経っておらず、視聴者にオリンピック疲れがあるとみられる他、COVID-19問題によって大観衆もいない殺風景の競技場に対する興味喪失、更には、NHL(北米アイスホッケーリーグ)やNBA(北米プロバスケットボールリーグ)の公式戦が続いていることや、2月13日にスーパーボウル(北米プロアメリカンフットボール優勝決定戦)が予定されていることもあるとする。
しかし、『CBCスポーツ&オリンピック』担当のクリス・ウィルソン部門長は、2018年の平昌大会の時と比べてカナダ全般のテレビ視聴率が下がっている傾向となっていることから、“前回大会のときとの視聴率比較についてあまり気にしていない”と表明している。
カナダの視聴率調査会社ヌメリス(1944年設立)の直近のデータによれば、同視聴率は平昌大会時に比べて約18%、東京大会時と比べても約10%減少している。
なお、同部門長は、『CBC』傘下のストリーミング・サービス提供の「ジェム(2018年設立)」の契約視聴者が特段増加していて、北京大会もライブもしくはオンデマンド配信で盛んに視聴されており、問題はないとも付言している。
『CBC』公式発表によると、北京大会の最初の3日間の「ジェム」総視聴時間数は、東京大会の同期間の実績に比べて48%も増えているとする。
(注)ストリーミング:主に音声や動画などのマルチメディア・ファイルを転送・再生するダウンロード方式の一種。通常、ファイルはダウンロード完了後に開く動作が行われるが、動画のようなサイズの大きいファイルを再生する際にはダウンロードに非常に時間がかかってしまい、特にライブ配信では大きな支障が出る。そこで、ファイルをダウンロードしながら、同時に再生をすることにより、ユーザーの待ち時間が大幅に短縮される。この方式を大まかに「ストリーミング」と称する。
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カナダのいくつかの州は、首都オタワを中心にトラックドライバーによる大規模な抗議活動が繰り広げられていることを受けて、今後様々なコロナ規制を解除していくことを発表した。
『AFP通信』によると、サスカチュワン州は8日、屋内で食事をする際のマスク着用やワクチン接種の証明など、新型コロナウイルスに関する制限をすべて解除すると発表した。アルバータ州も追随することを明らかにした。ケベック州は規制緩和を前倒しすることを明らかにした。
サスカチュワン州では、デルタ株がカナダ全土に広がっていた9月に導入された対策のほとんどを13日の午前0時に終了する。ただし、屋内マスクの義務付けと、陽性反応が出た人への検疫は、今月末まで実施される。サスカチュワン州のスコット・モー首相は記者会見で、州民の80%以上がワクチンの接種を2回受け、約半数がブースターを受けたことに触れ、新型コロナウイルスをインフルエンザなどと同等に扱うべき時が来たと指摘した。
カナダ『トロント・スター』によると、アルバータ州のジェイソン・ケニー首相は8日行われた記者会見で、3段階で規制を撤廃していくことを発表した。同首相は、「今こそ、コロナとともに生きることを学ぶ時だ。制限はひどい分断を招いている。永遠に非常事態を保持したままではいられない。回復し始めなければならない」と述べた。
同日午前0時から始まる第1段階では、ワクチンパスポートが撤廃される。ただし、飲食店などの短時間営業や人数制限は継続する。また、今週末には幼稚園から高校までのマスク着用義務など、子どもに対する制限を大幅に撤廃する。
入院患者数が減少し続ければ、3週間後に第2段階に移行し、大人のマスク着用義務、人数制限、在宅勤務命令などが撤廃される。アルバータ州は3月1日までにこの段階に到達することを望んでいる。そして、最終段階では、残りのすべての制限が解除されることになる。
一方、ケベック州のフランソワ・ルゴー首相も8日に記者会見を開き、3月中旬までに同州のコロナ関連の規制を解除することを示唆した。「私たちは、このウイルスと共存することを学ぶ必要がある。いずれ第6波が来るかもしれないが、我々は共存していかなければならない」と述べた。
カナダの公共放送局『CBC』は、州レベルだけではなく、与党自由党の中からも、カナダの厳しい規制に反対する声が上がり始めていることを伝えている。ケベック自由党のジョエル・ライトバウンド議員は、新型コロナウイルスに対する連邦政府の対応に不快感を示し、そのパンデミック対策が「政治色が強くなっている」とし「分裂」を招いていると述べた。
ライトバウンド議員は8日に記者会見を開き、トルドー首相は、既存の政策に疑問を持つ人々を「悪者扱い」するべきではないと述べた。「前回の選挙戦から、政府の論調も政策も大きく変わってしまったことを、残念に思う。より前向きなアプローチから、人々に汚名を着せ、分裂させるようなアプローチをとるようになってしまった」と述べた。
また、自由党政府がワクチンを政治的議論の中心に据えたことは、この国の公衆衛生機関に対する国民の信頼を損なう危険性があると指摘した。「どこまでが公衆衛生で、どこからが政治なのか、区別することがますます難しくなっている」と指摘した。
その上で、連邦政府は厳しい渡航制限などのパンデミック対策を解除するためのある種の「ロードマップ」を提示する必要があると述べた。パンデミックの前段階では妥当だった措置が、「終わりの見えない正常化」になってはいけないと指摘している。
ライトバウンド議員は、ロックダウンなどの規制が日常生活のさまざまな側面にダメージを与えていることを、国の指導者は見失ってはいけないとも述べた。「国民の健康、それは一種のパイのようなもので、オミクロンはそのパイの一片に過ぎない。経済的健康、社会的健康、精神的健康も考慮されなければならない」と述べた。また、国境を越えるトラック運転手に対する政府のワクチン義務化に関する強硬路線は科学的根拠がないと述べた。政府は、12000人から16000人のトラック運転手を休業に追い込む可能性があるこの種の義務付けがコロナを収束させる上で有効であることを示す研究を何も行っていない、と述べた。カナダ商工会議所やカナダ小売業協会などの業界団体が、この政策は国内のサプライチェーンを混乱させ、商品の価格を押し上げることを懸念していることも指摘した。
しかし、トルドー首相はワクチン義務化を強く擁護しており、感染者が相次いでいることは、ワクチン接種の義務化よりもカナダのサプライチェーンを混乱させると主張している。
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