ファイザーとアラガンが合併合意、租税回避との批判(2015/11/24)
米国ファイザー社とアイルランドのアラガン社による1600億ドル規模の巨大合併合意が、23日発表された。
ファイザー社は、「バイアグラ」「リピトール(コレステロール改善剤)」「エリキィス(抗凝固薬)」などを製造販売し、アラガン社は「ボトックス(抗皺薬)」「レスタシス(ドライアイ改善剤)」を製造するほか有望な開発品目を有している。合併により、ファイザー社はノバルティス社を抜いて売上高世界一の製薬会社に返り咲くことになる。米国では、税率の低い外国で法人を設立またはその国の企業と合併して節税を目指すインバージョン(租税地変換)をおこなう企業が増えており、米政府はその防止に苦慮している。今回の合併は、あからさまなインバージョン行為との批判が出ているが、止めることは難しいようである。
11月23日付
『ABCニュース』は、ファイザー社とアラガン社の合併合意が発表され、米政府はインバージョンへの対抗策を強化しようとしていると報じている。それによると、史上2番目となる今回の巨大合併は、医薬品の価格を引上げ、ヘルスケアー産業他での再編の動きを更に加速させていくことになる。ニューヨークに本拠を置くファイザー社は、アラガン社のアイルランドに本社を移し納税することにより、税率は約25%から約18%に低下する。...
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11月23日付
『ABCニュース』は、ファイザー社とアラガン社の合併合意が発表され、米政府はインバージョンへの対抗策を強化しようとしていると報じている。それによると、史上2番目となる今回の巨大合併は、医薬品の価格を引上げ、ヘルスケアー産業他での再編の動きを更に加速させていくことになる。ニューヨークに本拠を置くファイザー社は、アラガン社のアイルランドに本社を移し納税することにより、税率は約25%から約18%に低下する。これによって、毎年数億ドルを節税することができ、過去最大のインバージョンになるが、米政府はこうした行為を税金逃れであるとして批判してきた。
米議会や財務省はインバージョンを阻止しようと努めてきたが、過去10年間で約50社がインバージョンをおこない、更に多くの企業が検討している模様である。ファイザー社は、2014年に米国で31億ドル納税したが、アイルランドであれば10億ドルが節税可能である。
昨年、財務省はインバージョンによる利益を減らすための新規制を実施した。今回、財務省はインバージョンに対する反発が高まる中で、ファイザー社とアラガン社の合併発表を見越して新ルールを作成した。新ルールは、合併する海外企業の株主比率が20%から40%に適用されるものである。しかし、今回の合意による合併比率では、アラガン社株主が44%、ファイザー社株主が56%を保有するため、新ルールは適用することができない模様である。
11月23日付
『ブルームバーグニュース』は、合併合意では、アラガン社1株363.63ドルに対しファイザー社は11.3株を割り当て交換すると報じている。これは、合併発表前のアラガン社の株価水準に27%のプレミアを付けたものである。ファイザーの株主は現金での受け取りを選択することも可能で、最大120億ドルが現金で支払われる。ダブリンに本拠を置くアラガン社が形式上ファイザー社を吸収合併することにより、納税地をアイルランドとするが、実質的な本社機構はニューヨークに置くことになる。
この合併は、いろいろな意味で前例のないものである。まず、本年最大の合併であり、製薬業界ではファイザー社のワーナーランバート社買収(2000年、1160億ドル)を上回る業界最大の合併である。もし、新会社が税率の低い海外で設立されることになれば、史上最大のインバージョンになる。米国財務省はこうしたインバージョンの手法の防止に躍起となっており、ごく最近、インバージョンを実施する米国企業が所有する資産の評価方法に新しい基準を設けると発表した。米国は、法人税が35%と世界一高いうえ、他国と違って国内外を問わず儲けた利益に対し課税する制度をとっている。
11月23日付
『ニューヨークタイムズ』紙は、米政府が米国企業による節税戦略を阻止しようとしても、今回のファイザー社とアラガン社の合併には効果がないだろうと報じている。
米財務省が11月19日、米国企業がインバージョンをおこなうこと、特に合併企業による実質的に活動しない税率の低い国へのインバージョンを阻止するため、新ルールを発表したと報じている。ファイザー社とアラガン社の合併は、米国の大企業が税率の低いアイルランドの小企業と合併することから、多分にインバージョンの性格が色濃い。但し、経理専門家はインバージョンではないと主張する。インバージョンの要件としては、ファイザー社株主が新会社の株を60%以上持たねばならないが、今回の合併ではファイザー社株主は56%、アラガン社株主が44%を持つため、インバージョンには該当しない。
合併は、両社株主の承認が必要であるため、2016年後半に実行される見込みである。この合併は、インバージョンの認定を回避するために周到に検討されており、法律上はアラガン社がファイザー社を合併する形をとっている。更に、ファイザー社株主への現金割り当て資金120億ドルの調達が重要な鍵となるが、アラガン社がジェネリック事業をイスラエルのテバ者に売却して得た資金から支払われる。もし、ファイザー社が支払いをおこなえば、ファイザー社の持株比率を60%以下に引き下げるのは難しかったであろうと報じている。
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中国で度重なる人権活動家の獄中不審死(2015/11/09)
中国は以前から人権問題について、国際社会や人権団体から批判を受けてきたが、習近平体制となって以降、活動家の拘束、インターネット利用の制限、少数民族の抑圧などが一層激しさを増している。特に、政府への批判者に対する弾圧は厳しく、勾留後の拷問や虐待行為が常態化していると指摘されている。ドイツのメルケル首相は、10月末の中国訪問時、中国政府の不興を覚悟のうえ人権活動家と面談した。こうした中、今月の国連人権委員会による中国での拷問審査を前に、新たな政治犯の獄中不審死が発生した。
10月30日付
『ブルームバーグニュース』は、ドイツのメルケル首相が、中国訪問時の10月29日、中国政府の怒りを覚悟のうえで9人の人権活動家と政府反対派に面会したと報じている。活動家らは、3年前に習近平国家主席が政権の座に就いてから人権問題は悪化したとメルケル首相に訴えた。今年7月、アムネスティインターナショナルは、習近平政権下で、全国的な規模での政府反対派への弾圧や人権活動家の逮捕、脅迫がおこなわれていると非難した。...
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10月30日付
『ブルームバーグニュース』は、ドイツのメルケル首相が、中国訪問時の10月29日、中国政府の怒りを覚悟のうえで9人の人権活動家と政府反対派に面会したと報じている。活動家らは、3年前に習近平国家主席が政権の座に就いてから人権問題は悪化したとメルケル首相に訴えた。今年7月、アムネスティインターナショナルは、習近平政権下で、全国的な規模での政府反対派への弾圧や人権活動家の逮捕、脅迫がおこなわれていると非難した。同月、中国は「人民民主主義による独裁を守り、社会の平穏を維持する」として、国家治安法を制定した。
メルケル首相訪中の数日後、11月4日付
『ラジオフリーアジア』は、中国の人権活動家である張劉茂(Zhang Liumao)氏は広州市警察が管轄する収容施設で不審死したが、家族は遺体に面会できずにいると報じている。張氏は、政府批判者に対し当局が使う常套手段の、「社会秩序に論争を仕掛け、騒乱を扇動」した疑いで本年8月から勾留されていた。家族によると、勾留施設の職員は死亡時の状況などを一切説明せず、埋葬手続きを早くおこなうよう伝えたが、家族はそれを拒否している。人権活動家は、「法律では “社会秩序に論争を仕掛け、騒乱を扇動する”との基準が曖昧で、当局の権力乱用に都合がよく、単に意見を言っただけで勾留されやすい」と批判する。
国連人権委員会は11月17~18日に拷問およびその他の残酷、非人道的又は虐待・懲罰行為に関する協定への中国の違反を評価するが、その矢先に張氏の不審死が発生した。海外に拠点を置く中国人権擁護ネットワークは、中国政府は拷問の罪で告発された当局者の処置について一切公表することを拒否している、と非難している。それどころか、中国人権活動家は、中国の政府情報公開システムを通じて情報収集をおこなおうとすると、報復として脅迫や逮捕されるはめになるのが実情である。
11月6日付ニューヨークタイムズ』紙は、人権活動家の張劉茂氏が、江東省の省都広州市の第3収容所内で死亡したことを報じている。数百人の人権活動家や親族が、死亡原因および死亡した時期や場所、遺体の確認などを求める要求をおこなっている。警察が張氏を逮捕したのは、米国政府の資金援助を受けて広州市で雑誌を発刊したことが理由だと推測される。張氏の弁護士は、姉妹2人が収容所当局者と面会し、同氏の死亡原因調査ビデオと遺体を見せるよう文書で要求した。
中国では、また拘留者が死亡したことについて、弾圧ではないかとの疑念が生まれている。2009年には人権活動家のLi Qiaoming氏が雲南省で死亡し、2015年には著名なチベット族僧侶のテンジン・デレック・リンポチェ氏が「テロとチベット分離教唆」の罪で終身刑を服役中に不可解な状況で死亡し、怒りの抗議が起きている。
11月5日付
『ヒューマン・ライツ・ウオッチ』は、張氏の隔離勾留は、習近平政権のもとでおこなわれる活動家への取締りと同じ手口であり、2人の著名な活動家の拘留中の不審死と繋がるものがあると報じている。それによると、2014年3月に人権活動家Cao Shunli氏が数ヵ月の勾留後死亡し、2015年7月には、チベット僧のテンジン・デレック・リンポチェ氏が獄死したことは、明らかに当局が法律を遵守していないことを示している。中国の“収容施設での死亡取り扱いに関する規則”では、調査ビデオの撮影と保管および拘留者への聞き取り調査を義務付けている。しかし、どちらのケースも調査はおこなわれず、誰も責任を問われていない。中国では、犯罪容疑者への拷問や、家族、弁護士、医者の接見拒否 などが常態化しており、政治犯への拷問リスクは特に高い。中国政府は今月開催される国連の拷問審査会への準備をするにあたり、自国の法律は空約束ではないことを示し、張氏および獄死した全員について調査をおこなうべきであると主張している。
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