フランス上院議会報告書、フランスの大学における中国の圧倒的影響力を警告(2021/10/08)
フランス上院議会で5日、フランスの「学術界における欧州外の国家からの影響」に関する報告が行われた。報告書をまとめた議員らは、フランス学術界が、年々強まっている人文・社会科学分野への中国の干渉を見落としがちであり、新たな脅威に対応することができていないと警告した。
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『ルモンド』紙によると、上院の報告書は、「中国」は文明世界の中心にあり、野蛮なものを寄せ付けないという古代中国の思想が、今の中国共産主義政権の願望の根底にあることから、フランスをはじめとする諸外国に影響を与える「体系的な戦略」を展開していると強調している。
報告書は、この思想が健在であることを示す事例を紹介している。パリ政治学院が2016年9月のダライ・ラマを招待した会議をキャンセルした一方で、フランス国立東洋言語文化学院は「中国大使館からの手紙」や「奨学金の停止や撤回という暗黙の脅し」があったにもかかわらず、同じように予定されていたダライ・ラマの会議を実行した。...
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『ルモンド』紙によると、上院の報告書は、「中国」は文明世界の中心にあり、野蛮なものを寄せ付けないという古代中国の思想が、今の中国共産主義政権の願望の根底にあることから、フランスをはじめとする諸外国に影響を与える「体系的な戦略」を展開していると強調している。
報告書は、この思想が健在であることを示す事例を紹介している。パリ政治学院が2016年9月のダライ・ラマを招待した会議をキャンセルした一方で、フランス国立東洋言語文化学院は「中国大使館からの手紙」や「奨学金の停止や撤回という暗黙の脅し」があったにもかかわらず、同じように予定されていたダライ・ラマの会議を実行した。最近では、研究者のアントワーヌ・ボンダズ氏が今年3月に、台湾訪問を希望する議員に対する中国の圧力を非難したことで、駐仏中国大使から「小心者の泥棒」「イデオロギー荒らし」、最後には「狂ったハイエナ」と公の場で呼ばれた。
中国のフランスの学術界での干渉活動には2つの目的があるという。1つ目は、主に人間科学や社会科学、特に歴史学を利用して特定の国家のイメージや評判を形成していくための「影響力」の行使があげられる。2つ目は「収集」で、知的財産で保護された科学データにアクセスし、主に中国の技術、工学、機械に関連する科学分野に利用することだという。
フランスには4万7500人の中国人学生がいると推定されており、フランスにおける留学生の主要な出身国となっている一方で、中国政府にとってこうした活動の最前線で働いてくれる人材になっているという。
また、研究面で、「中国が欧米の研究機関と全面的に提携したいと考えているのは、中国が追い付き追い越せ」の考えがあるためだと報告している。現在、フランス国立科学研究センター(CNRS)では100の中仏プロジェクトや、中国で設立された26の関連国際研究所などがあげられる。
仏『レクスプレス』誌によると、上院で報告を行ったアンドレ・ガトラン議員は、欧米のいくつかの国ですでに自国の大学における中国の戦略的影響力に対する懸念を公に表明しているため、「関係国が連携し合うことが重要」だと述べ、特に欧州委員会の「関心」を歓迎した。また、「盲目でいることをやめよう」と述べ、国の監視から漏れやすい地方や地域での「体系的な影響力の行使」を非難した。
報告書は、「中国は、これまでのところ、世界的かつ体系的な影響力行使の戦略を実行することができる最も有能な国家であると思われる」と指摘している。その手段として、世界各地にある孔子学院をあげている。フランス、ドイツ、スペインも同様の機関を持っているが、孔子学院の問題は、プロパガンダの道具であり、相手国の学問の自由を脅かし、スパイをかくまっていることだと指摘している。
フランス軍事研究所(IRSEM)の研究員であるヴィルメール氏は、「孔子学院そのものが問題なのではなく、受け入れ国が、使用されている教材に発言権を持たないことが問題である。例えば、歴史が書き換えられている場合などがある。また、研究所が大学のキャンパス内に設置されている場合、大学に財政的な圧力がかかり、中国に関して自己検閲が行われやすくなっている。」と説明している。
報告書は、EUとしての対策、大学のITシステムのセキュリティの監査、「EU外からのプロジェクトの資金調達に関する透明性」の構築などを求めている。
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フランス軍事省、約800人のサイバー隊員を追加採用へ(2021/09/09)
フランス陸軍省のフロランス・パルリー大臣は、「サイバー攻撃の多発と深刻化」に対応するため、2025年までに当初予定していた1100人に加え、800人近くのサイバー隊員を追加雇用する計画であることを8日に発表した。
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『ニース・マタン』紙によると、フランスには2017年から軍のサイバー部隊が設置されているが、2019-2025年の国防7年計画では、サイバー攻撃対策のために16億ユーロ(約2100億円)の予算が計上され、サイバー隊員を1100人追加採用して4000人の人員にすることが定められていた。
しかし、パルリー軍事相は、サイバー攻撃の数と深刻さが増していることから、2019年から2025年の間に採用を強化する。...
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『ニース・マタン』紙によると、フランスには2017年から軍のサイバー部隊が設置されているが、2019-2025年の国防7年計画では、サイバー攻撃対策のために16億ユーロ(約2100億円)の予算が計上され、サイバー隊員を1100人追加採用して4000人の人員にすることが定められていた。
しかし、パルリー軍事相は、サイバー攻撃の数と深刻さが増していることから、2019年から2025年の間に採用を強化する。ロシアや中国からの定期的な攻撃が確認されており、「サイバー空間における冷戦」が起こっていることが懸念されているという。
2025年には軍隊の装備総局(DGA)、フランス対外治安総局(DGSE)で5000人の人員を確保するために、「軍事省は、当初予定していた1100人に加えて770人のサイバー隊員を採用する」ことを決定したという。フランスは、「サイバーセキュリティでトップレベル」になることを目指している。
サイバー隊員の増員は、サイバー攻撃に対する防御対策にとどまらず、「軍事作戦の支援のためにサイバー兵器を使用する」ことも含まれるという。パルリー軍事相は、「我々の敵は、それが国家権力であろうと、テロリスト集団であろうと、その支援者であろうと、サイバー攻撃を実施することを躊躇していない。」と指摘している。
5000人以上のフランス兵を動員し、今後数ヶ月の間に抜本的な見直しが予定されているアフリカのサヘルでも、テロ対策のためのバルカン作戦の現場で、「最近、攻撃が増加している」という。
パルリー軍事相は、2022年前半にフランスが欧州連合理事会の議長国を務めるにあたり、27の加盟国のサイバー部隊の司令官を集めたフォーラムを1月に開催する予定だと述べた。
仏『レクスプレス』誌によると、データ盗難やランサムウェアによる攻撃は、ここ数ヶ月の間に世界的に増加しており、米国の石油パイプライン事業者、食肉加工会社、アイルランドの医療サービスのコンピュータシステム、インドの大手航空会社など、さまざまな企業や行政機関が標的となっている。また、2020年末には、米国で起きた大規模なサイバー攻撃により、マイクロソフト社の電子メールサーバーが被害を受けたほか、大企業や行政のコンピュータネットワークの管理・監督に用いられる米国企業ソーラーウインズ社のソフトウェア「Orion」が危険にさらされた。最近では、米国のIT企業であるKaseyaが、巨大なランサムウェアによるサイバー攻撃の被害に遭い、世界中の数百社の企業顧客に影響を与えた。
フランス地政学研究所の研究員であるオードゥ・ジェリー氏は、サイバー攻撃対策のための追加募集の発表は、フランス当局がサイバーリスクに対して「フランス企業の脆弱性が高まっていることを認識し、それに対して行動をとる必要があることを示している」とコメントしている。フランスは「受けて立つこと、その手段があること、そして戦略的利益を守るつもりでいること」を見せようとしているという。ただし、問題は、「採用された人材が守備隊となるのか、それとも攻撃隊となるのか」であり、後者の場合は、デジタル紛争がより激化するリスクがあると指摘している。
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