これまでしばしば報じているとおり、中国が一方的に南シナ海の岩礁を埋め立て、人工島建設の上、滑走路やレーダー施設を建造している活動について、米軍が軍事拠点化阻止の目的で「航行の自由作戦」の名の下に、同人工島の12海里(約22キロメーター)内を軍艦に監視航行を複数回実行すれば、中国側は、中国の主権の範囲内の干渉であり、同海域の緊張を高めていると非難している。そして今度は、同海域で監視航行したばかりの米海軍原子力空母の香港への寄港について、中国が拒否通告をしてきた。
4月29日付米
『ロイター通信米国版』の報道記事「米国防総省、米空母の香港寄港を中国が拒否と発表」:
「・米国防総省のビル・アーバン報道官は4月29日、米原子力空母“ジョン・C・ステニス”及びその随行の軍艦の香港寄港要請に対して、中国政府が拒否を通知してきたと発表。
・米海軍高官の話では、これまで米海軍の軍艦は香港寄港が認められてきたが、南シナ海の監視航行をしてきた同船隊の入港について、中国外交部(省に相当)が、適当な時機ではないとの理由で断ってきた由。
・国防総省のアッシュ・カーター長官が4月15日、南シナ海監視航行中の同空母を訪れ、今後も“航行の自由作戦”を展開すると表明したばかり。
・なおこれまでも、2007年11月に通常動力空母“キティ・ホーク”の入港が拒否され(5ヵ月後に寄港許可)、また、2014年にミサイル駆逐艦“ハルゼー”が入港拒否に遭遇。」
同日付米
『ブルームバーグ』オンラインニュースの報道記事「中国、(南シナ海)海域での緊張高揚の中、米軍空母の香港寄港拒否」:
「・在香港米国総領事館のダラー・パラディソ報道官は4月29日、中国外交部から前日に、原子力空母“ジョン・C・ステニス”等の船隊の入港を拒否する決定をした旨通知があったと公表。
・同空母は、南シナ海における監視航行の中心的役割を演じており、それが入港拒否の理由かと推測されるが、目下のところ同外交部はメディアの問い掛けに無反応。
・パラディソ女史は、現在も揚陸指揮艦“ブルーリッジ”が寄港していることでもあり、今後も問題なく寄港が認められるよう望むとコメント。」
同日付英
『BBCニュース』の報道「中国、米軍空母の香港寄港を拒否」:
「・米側発表では、南シナ海における監視航行をしてきた原子力空母船隊は入港拒否されたものの、揚陸指揮艦の入港はこれまでどおり受け入れられるだろうとし、同船は4月29日朝に香港に入港。
・なお、原子力空母船隊の受け入れ拒否の理由は、依然公式発表なし。」
同日付ロシア国営
『ロシア・テレビ』の報道「南シナ海の緊張高揚の中、中国が米軍空母
の香港寄港を拒否」:
「・米軍空母の香港寄港拒否について、中国外交部はもとより、駐米中国大使館も依然ノーコメント。
・受け入れ拒否された原子力空母、駆逐艦2隻、巡洋艦2隻、及び(寄港は許された)日本を母港とする第7艦隊揚陸指揮艦は、3月初めに南シナ海域に入り、中国とブルネイ・マレーシア・フィリピン・台湾・ベトナム間で領有権争いのある岩礁-既に中国が人工島を建設した海域を監視航行。
・米国防総省のカーター長官は4月14日、米国・フィリピン合同軍事訓練終了後もおよそ300名の米兵をフィリピンに駐留させ、南シナ海の警戒に当らせると表明。
・これに対して中国外交部は、かねてから主張しているとおり、米軍が“航行の自由作戦”と銘打って、中国の主権内の島々の安全を脅かし、悪戯に緊張を高めることに断固反対すると発表。」
同日付香港
『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』紙の報道記事「在香港米国総領事
館高官、米軍空母が香港寄港拒否されたと発表」:
「・在香港米国総領事館高官によると、中国外交部が米軍空母船隊の受け入れ拒否を通知してきたのは4月28日夜。
・本紙の問い掛けに対して同外交部は4月29日夜、米軍艦船や戦闘機の寄港については、安全保障の原則の下、その時の事情などに鑑み毎回(寄港を許可するかどうか)判断している、とのみ文書で回答。
・同領事館高官によると、同空母が香港寄港後の5月5~7日の間、招待客らの艦内ツアーを計画していたが、キャンセルを余儀なくされたとコメント。」
一方、同日付中国
『人民日報』の社説「米軍による“航行の自由作戦”は覇権主義の
表れ」:
「・中国人民解放軍は、“西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)”(編注;日米中など21ヵ国の海軍高官が参加)で採択された“海上衝突回避規範(CUES、注後記)”について尊重。
・これによって米中両国の衝突回避の基準となり、昨年12月には大西洋において、両国初の共同軍事訓練を実施。
・しかし、米原子力空母“ジョン・C・ステニス”のマーカス・ヒッチコック新司令官は、“航行の自由作戦”の名の下に、南シナ海の中国主権の島々に艦船を航行させており、中国の平和と安全保障にとって脅威。
・同司令官は、同海域の領有権争いに関し、どちらの側にも就かないと言いながら、明らかに中国主張の領有権を変更させようとの意図。
・一方、中国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国と同海域の平和と安全について協力して当るよう努力。」
(注)CUES:2014年4月に中国(青島)で開催のWPNSで採択された、“洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準”。偶発的な衝突を防ぐため、遭遇した外国軍艦艇や航空機に、(攻撃の際に照射する)火器管制レーダーを照射することや、航空機による挑発飛行を制限するもの。法的拘束力はない。
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