既報どおり、懸案となっていた2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が来年に延期されることが漸く決まった。しかし、3千億円とも更に巨額とも言われる、延期にかかる追加費用は誰が負担するのかについて、欧米メディアも報じているが、一義的には日本の納税者だとけんもほろろの論調である。マラソン・競歩の札幌移転は、国際オリンピック委員会(IOC)の意向で決定されたため、IOCが負担する話になっていたが、果たして今回の場合、せめてIOCと折半負担交渉が可能であろうか?
3月25日付米
『AP通信』:「来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックの追加費用は誰が負担?」
世界的流行を続ける新型コロナウィルス感染の収束見通しが立たないことから、主催国日本とIOCとの協議の結果、この程漸く、東京オリンピック・パラリンピックを来年に延期することが決定された。
主催国側として、次に対応しなければならないのは、延期に伴い発生する追加費用がどれ程で、また、誰が負担するのかという問題を解決することである。
一義的には、主催国である日本の公的資金、すなわち納税者が負担することになろう。
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の武藤敏郎事務局長は3月24日、大会の延期について発表した際、“追加費用がいくらかかり、誰が負担することになるのかは未定で、これから検討すべき事項”とコメントしている。
『日本経済新聞』報道では、関係者の推計を引用し、27億ドル(約2,970億円)かかるだろうと報じた。
まず、再交渉を含めて対応しなければならないのが競技会場の賃貸契約である。
現行賃貸契約を破棄することになる場合の違約金、また、来年に新たに契約する場合の賃貸料がいくらになるのか。
また、選手団・コーチ含めて東京オリンピックの場合1万1千人、東京パラリンピックの場合4,400人のために確保した選手村の扱いもある。
東京湾の広大な土地に建てられたマンション群(全5,632室)は、大会終了後に民間に売却される予定であるが、1ユニットが100万ドル(約1億1千万円)余りもする物件含めて、約4分の1が売却済みであるため、引き渡し時期延期に伴う違約金や補償金などの交渉が必要となろう。
関係不動産ディベロッパーの1社である三井不動産は、所有する23棟含めた全ての物件の販売を一時停止している。
更に、大会組織委員会の人件費の問題もある。
同組織委は現在、約3,500人のスタッフを抱えているが、規模縮小に伴う失職手当、また、来年までの追加人件費をどうするか詰める必要がある。
また、同組織委が確保した大会ボランティア8万人及び東京都の3万人について、来年改めて募集する場合等の追加費用も捻出する必要がある。
一方、大会スポンサー企業群との見直し交渉も必須である。
今回の東京大会では、広告大手の電通の主導によって、日本企業との交渉で、33億ドル(約3,630億円)とこれまでのオリンピックでの実績値の倍以上の協賛金を獲得している。
かかる協賛企業は、契約見直しに関わる返金、あるいは、新たな契約締結等を求めることになろう。
なお、大会組織委及び政府はこれまで、同大会にかかる総費用は126億ドル(約1兆3,500億円)と発表しているが、昨年12月に会計検査院がまとめた検査報告では、総額280億ドル(約3兆円)に上るとされている。
このうち、公的資金以外の拠出金は56億ドル(約6,160億円)で、上述企業協賛金、観戦チケット売り上げ10億ドル(約1,100億円)、そしてIOCからの支援金13億ドル(約1,430億円)である。
従って、大会組織委の公表ベースでいくと、70億ドル(約7,700億円)が公的資金、すなわち税金で賄われることになるが、今回の延期に伴う追加費用発生で、その負担額は更に増える可能性がある。
これに関して、英オックスフォード大学大型プロジェクト・マネジメント研究部門のベント・クライフヨルグ教授(67歳、デンマーク出身の経済学者)は『AP通信』のインタビューに答えて、“IOCは大会主導権を握っている以上、もっと費用負担に関わるべき”だとコメントした。
同教授は、著書「2016年オリンピックに関わる費用及び予算超過の調査研究」の中で、“IOCが大会を独占していること”及び“同大会は他のどの大型プロジェクトより予算超過が大きい”と述べている。
同日付英国『ITV』(1955年設立の英国最古の民間テレビ放送局):「追加費用が20億ポンドかかる予想から、2021春のオリンピック開催も選択肢」
新型コロナウィルス感染問題に伴い、東京オリンピック・パラリンピックが2021年に延期された。
IOCのトーマス・バッハ会長は3月25日朝、2021年春季の開催も検討対象になると言及した。
来年夏季には、世界陸上競技選手権大会が米オレゴン州で、また、欧州女子サッカー選手権大会が英国で開催される予定であるため、延期された東京大会との日程調整が必要となろう。
更に、東京大会延期に関わる追加費用の問題もある。
東京大会では、総費用として100億ポンド(約1兆3千億円)が公表されているが、これに延期に関わる追加費用20億ポンド(約2,600億円)も必要と見込まれ、延びれば延びる程更に嵩む可能性がある。
また、最も大きい問題として、選手村がどうなるのかという点もある。
すなわち、選手村として建設された施設は、早ければ今年末から約4千戸が民間住宅として販売されることになっているからである。
もし、この手続きが変更できないとなったら、選手団はどこに滞在すればよいのかという問題が生じることになる。
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安倍晋三首相が仕掛けた、ドナルド・トランプ大統領訪問による狂想曲は終わった。同大統領が帰国後、“日本は素晴らしい”とツイートしたことから、新天皇皇后両陛下の謁見含めて、ひとまず“成果”があったものとみられる。しかし、同大統領と入れ替わるように来日した、ロドリゴ・ドゥテルテ比大統領他十数名の首脳は、新天皇謁見はできない。大手新聞社主催の国際会議出席のための来日であって、同大統領のように“国賓”待遇ではなかったことから、駐日フィリピン大使も、日本の“プロトコール(注1後記)”上の扱いに理解を示している。
5月28日付米
『ブライトバート』オンラインニュース:「ドゥテルテ比大統領、日本側と南シナ海問題につき協議」
駐日フィリピン大使のホセ・ラウレル5世氏は5月28日、当日の晩に来日するロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、新天皇・皇后陛下に謁見できないことを了解していると表明した。
同大統領は、日本経済新聞社が主催する「第25回国際交流会議/アジアの未来(注2後記)」に出席するため来日する。
同会議には、マレーシア、バングラデシュ、カンボジア、ラオス等12ヵ国の首脳や高官が出席するが、ドゥテルテ大統領同様、新天皇謁見はできない。
同大使は、日本が伝統を重んじる国で、今回は米国大統領のみに新天皇謁見を認める“プロトコール”としたことについて理解を示している。
一方、同大使は、ドゥテルテ大統領が安倍晋三首相と会談するとして、日本側が関心の深い南シナ海問題について協議することになると言及した。要旨は以下のとおり;
①貿易立国である日本は、諸外国との交易のため、多くの貿易船を就航させる必要があり、特に南シナ海は、アジア、中東、アフリカ、更に欧州ルート上重要な海域となっている。
②従って、日本側としては、ドゥテルテ政権になって、これまでの親米政策から親中政策に転換していることを非常に懸念していることから、同大統領との協力関係強化が必須と考えているとみられる。
③なお、日本側にとって、国際社会から種々批評のあるドゥテルテ大統領は、“物議を醸すリーダー”というより、むしろ“特異、かつ、関心のあるリーダー”とみている。何故なら、同大統領の国内支持率は依然堅調で、5月の総選挙でも大勝利を収めているからである。
しかし、同大使と違って、ある評論家らは、ドゥテルテ大統領が、過日の選挙戦勝利を契機に、これまで以上に脱日米、親中政策に拍車を掛けるのではないかと懸念している。
5月29日付フィリピン『ザ・マニラ・ブルティン』紙:「ドゥテルテ大統領、4日間滞在予定の日本に到着」
ドゥテルテ大統領は5月28日晩、羽田国際空港に到着し、日本側関係者の歓迎を受けた。
2016年の就任以来3度目の訪日となるが、同大統領の主目的は、5月31日の「第25回国際交流会議/アジアの未来」で基調講演を行うこと、更に、安倍首相と首脳会談を行うことである。
前者において、同大統領は、アジアの将来におけるフィリピンの役割等に言及し、また、後者においては、両国間の安全保障、貿易、インフラ投資等のみならず、北朝鮮の非核化、更には南シナ海領有権問題について協議する予定である。
(注1)プロトコール:国家間の儀礼上のルールであり、外交を推進するための潤滑油。また、国際的・公式な場で主催者側が示すルールを指すこともある。この精神は、国の大小に関係なくすべて平等に扱うことや、誰もが納得するルールに従うことで、無用の誤解を避け、真の理解を促進するための環境作りである。
(注2)国際交流会議/アジアの未来:アジア大洋州地域の各界のリーダーらが、域内のさまざまな問題や世界の中でのアジアの役割などについて率直に意見を交換し合う国際会議。日本経済新聞主催で1995年から毎年開催。今回は25回目で、5月30・31日に開かれる。
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