<合併・買収(M&A)>
1.世界の動き
米英調査会社のディールロジックがまとめた、世界の企業による2015年のM&Aの総額は、5兆300億ドル(約590兆円)となり、リーマン・ショック前の2007年最高額の4兆6,100億ドル(約541兆円)を抜いて過去最高を記録したという。
米景気回復を追い風に、米大手企業が絡むM&Aが増えた他、中国大手企業による海外企業の買収や、アベノミクスの後押しで力を回復しつつある、日本企業のM&Aも盛んである。
米大手企業の例を挙げれば、製薬大手ファイザーによる同業アラガンの買収は、M&A史上で2番目の約1,600億ドル(約18兆8千億円)の買収額となっている(注後記)。
また、合併でみれば、米化学大手のダウ・ケミカルと同業のデユポンの合併によって、時価総額1,300億ドル(約15兆円)の世界最大の化学企業が誕生している。
一方、中国企業による買収は主に不動産が多く、2014年の話であるが、安邦保険集団による米高級ホテルのウォルドルフ・アストリア・NY買収(買収額19億5千億ドル、約2,300億円)は、盗聴(?)を恐れたオバマ大統領が、昨年NYに出張の折り、連邦政府幹部の常宿となっていた同ホテルでの宿泊を見合わせたことで更にニュースになっている。
なお、この問題を契機としたのか、米大手スターウッド・ホテル&リゾート(シェラトン、ウェスティンホテルなど保有)買収に中国企業3社が名乗りを挙げていたが、最終的には米大手ホテルチェーンのマリオット・グループが122億ドル(約1兆4千億円)で買収することとなり、安全保障問題発生を回避している。
また、年明けに飛び込んできたニュースであるが、中国の家電最大手ハイアールが、米ゼネラル・エレクトリックの冷蔵庫・洗濯機の家電事業を54億ドル(約6,300億円)で買収
するという。ついに、100年を超える米古参の創業事業部門が、中国資本の手に渡ることになる。
(注)M&A史上最大の買収額:2000年に英携帯電話事業会社ボーダフォンが行った、ドイツ複合企業マネスマン買収時の2,028億ドル(約23兆9千億円)。それまで史上最大と騒がれた、1999年の石油大手エクソンによる同業モービル買収額の772億ドル(約9兆円)を遥かに上回るもの。
2.日本の動き
日本の企業による2015年のM&Aも、560件、総額11兆2,600億円と、前年比+93.9%増の過去最高となっている。
大手商社伊藤忠とタイ財閥共同による、中国複合企業の中信集団(CITICグループ)買収額は1兆2千億円であり、大手経済紙日本経済新聞による、英大手メディアのフィナンシャル・タイムズ買収額は8億4,400万ポンド(約1,600億円)である。
その他、東京海上ホールディングスによる、米保険大手のHCCインシュアランスの買収額は75億ドル(約8,900億円)、また、電機メーカーのブラザー工業は、英プリンター製造大手のドミノ・プリンティングを約1,890億円で買収し、完全子会社化している。
なお、日本の対外M&Aの史上最高額は、2013年の大手電気通信事業者ソフトバンクによる、米大手携帯電話事業者スプリント・ネクステル買収額の216億4千万ドル(約2兆6千億円)である。
対外M&Aが盛んになることは、日本の企業の競争力の回復であり、かつ、世界戦略を睨んだ頼もしい動きとして歓迎できる。
しかし、経済評論家によると、これまでの日本企業による海外M&Aの成功確率は5%程度だという。直近でも、資源価格下落に伴う、大手商社の海外資源関連投資ビジネス一部撤退、縮小もさることながら、製薬大手の武田薬品工業によるスイス、米の医薬品会社買収も全く効果が上がっていない。
日本のM&Aは、買収先の現経営陣が残ってくれることを期待する“甘い”企業買収スキームが主であることが、失敗の原因のひとつと考えられなくもない。米企業専門家によると、M&Aで買った会社にはすぐに経営陣を送り込み、3ヵ月以内に自分たちの遣り方で新しい経営計画を策定・推進することが成功の秘訣という。
果たして、昨年のM&Aがどの位成功をもたらすのか、注目してみていきたい。
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22日で日韓関係正常化50周年を迎えるが、ここに来て日韓関係が改善に向けて大きく動き始めている。対日強硬論者の象徴であるユンビョンセ外相が4年ぶりに訪日し、日韓外相会談が約3時間にわたって開かれた。この中で日中韓サミットを年末までに開催することや、これまで韓国が反対していた「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産への協力を韓国が表明するなど、両国の間に横たわっていた懸案事項のいくつかが大きく前進した。また国交正常化50年記念行事では、東京で安倍首相が出席、韓国ソウルではパククネ大統領が出席するなど、日韓の関係改善を象徴的に演出するものとなった。韓国側が態度を軟化させている背景には、MERSによる経済への打撃、米国からの圧力などが考えられる。一方、韓国と中国から懸念されている戦後70周年談話だが、日本経済新聞によると中韓の反発を避けるために、閣議決定を経ない安倍首相個人の談話として、前倒しして発表することが検討されているという。各国は、日韓関係改善の兆しについて以下のように報じた。
6月22日付
『デイリーメイル』(オーストラリア)は、「ユン外相と岸田外相の日韓外相会談が、日韓関係正常化50周年を記念して行われ、両外相は、今年年末までに日中韓サミット開催を目指すことで合意した」と報じた。また「韓国政府はパク大統領がソウルで行われる日韓関係正常化50周年式典に出席し、日本政府は安倍首相が日韓関係を改善するために、日韓関係正常化50周年式典の東京サイドの式典に象徴的に参加することで合意した」と伝え、「二国間には困難な問題が存在するが、今回の会談は意義ある会談だった」との岸田外相のコメントを掲載した。
6月22日付
『AP通信』(米国)は、「まだ友人とまではいかないが、とりあえず対話した日本と韓国」との見出しで日韓外相会談が行われたことを伝え、日韓両国の首脳が就任してから一度も首脳会談が行われていないことや、そのことに対して米国も懸念していることなどについて言及し、「日韓両国の首脳会談が行われていないことは何より深刻な状況には相違ないが、韓国に対する日本外交は国民感情を背景にして、より厳しいものになってきている」との慶應義塾大学政治学教授西野純也氏のコメントを紹介した。
6月22日付
『MK』(韓国)は、「パククネ大統領と安倍晋三首相が、ソウルと東京で開かれる韓日国交正常化50周年記念レセプションにそれぞれ参加することにしたのは、両国がもはやこれ以上韓日関係が悪化しては困るという認識を共有したということに他ならない」と報じた。
6月22日付
『東亜日報』(韓国)は、「日本経済新聞によると安倍首相が夏に発表する戦後70年談話だが、政府がこれについて閣議決定しないという案が浮上している」と報じた。それによると、「談話の中で、韓国や中国などが求める過去の植民地支配への謝罪などを盛り込まない代わりに、閣議決定せずにあくまで首相個人の見解とすることで韓中の反発を下げたい狙いがある。これまで村山談話など、歴代の首相談話はすべて閣議決定を経て発表されたものである。また、談話の発表時期も8月15日以前に前倒しし、注目度を下げる案が議論されている」と伝えた。
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