マイク・ペンスは、2016年時に副大統領候補として選挙キャンペーンを進めていた際、大統領候補だったドナルド・トランプが女性にセクハラを迫るビデオが公開されたときも、目をつぶって選挙キャンペーンを継続した。
ホワイトハウスでの執務時、新型コロナウィルス感染問題で米国が危機に陥ったときも、副大統領としてトランプ政権の政策を賛美する姿勢を貫いた。
更に、2021年1月初め、米議事堂乱入事件を起こした暴徒から殺害予告をされたにも拘らず、米国憲法修正第25条(注1後記)に基づいてトランプ大統領の解任を求める下院議会からの嘆願を受け入れることはしなかった。
しかし、何年もトランプの従属的相棒を務めてきたものの、ペンスはいよいよトランプから距離を置く対応を取り始めている。
これは、取りも直さず、彼自身が次期大統領選に打って出ることを睨んでのことと思われる。
例えば、ペンスは先月、トランプの実名を挙げて、2020年の大統領選の結果を覆す権限を副大統領が有していると主張した前ボス(トランプ)は“間違っている”と非難した。
更に、ペンスは別の機会に、共和党支持者らの前で行ったスピーチの中で、トランプが以前にウラジーミル・プーチン大統領(69歳)を“天才”だと褒めていたことを引き合いに出して、“(ウクライナ軍事侵攻を強行した)プーチンを擁護するような人物は共和党内に居場所はない”と断罪し、共和党はトランプと決別すべきだと訴えている。
ただ、ペンスが前ボスと袂を分かつとの戦略は、依然共和党内にトランプ支持者が多く、かつ、トランプが言う2020年大統領選は盗まれたものだとの虚偽の主張がまかり通っていることから、大きなリスクを伴うものである。
しかし、もしペンスのかかる戦略が奏功すれば、共和党員にとって、トランプがこれまで取ってきた様々な有害な行動で地方票を失うという事態を再びみることなく、共和党候補を応援できることになるのは有益であろう。
ペンスが副大統領時に首席補佐官として仕えたマーク・ショート(52歳)は、“副大統領職にあっては、自身に裁量が許される場合もあるが多くの場合制約がある”とし、“大統領とは違った独自性を有していても、ともかく4年間は大統領を支えるのが仕事であった”として、ペンスの今回の動向を擁護した。
他の側近も、ペンスは何十年も保守的な政治姿勢を貫いてきており、主義・主張もトランプと異なる見かたをしていたことも明らかであり、従って、この機会にペンスがトランプと決別して自身の原理・原則に則って活動していくことを望んでいる。
更に彼らは、ペンスが以前からプーチンを非難してきたことを良く理解しており、実際ペンスは、ロシアによるウクライナ侵攻後間もなく、周囲に大っぴらにせずにポーランドのウクライナ国境地区を電撃訪問して、同国からの避難民に食糧を供給している。
米福音派伝道師でサマリンダ・パース(注2後記)代表のフランクリン・グラハム尊師(69歳)が、ペンスのウクライナ国境地区訪問をお膳立てしたものであるが、同尊師は、ペンスが表明した姿勢は彼の本来の姿であると言及している。
ペンスは直近数ヵ月、米国内を行脚して彼の政策を説いて回り、また中間選挙の候補者用の選挙資金の支援を獲得する活動を行っている。
また、彼の政策グループ「先進の米国自由主義」は、1千万ドル(約11億9千万円)のキャンペーン資金を拠出して、ロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機に対応するため、米国内産エネルギー政策の充実に向けて活動を続けると発表している。
更にペンスは、強力な支援者との面談を繰り返している。
ウクライナ国境地区を訪問する前にイスラエルを訪ね、ナフタリ・ベネット首相(49歳、2021年就任)と会談して連携強化を図っている。
また、大富豪の共和党支援者であるミリアム・シェルダン(76歳、イスラエル系米国人医師)と直近で2度も面談している。
なお、2024年大統領選の共和党予備選挙の候補予定者をみた場合、共和党内では依然トランプの支持率が非常に高く、2番目はフロリダ州のロン・ディサンティス知事(43歳、2019年就任)が続く。
また、マイク・ポンペオ前国務長官(58歳、2018~2021年就任)も、直近で台湾の蔡英文総統(ツァイ・インウェン、65歳、2016年就任)を電撃訪問したりして、存在感をアピールしている。
ただ、ペンス自身は2024年大統領選への出馬については言葉を濁しており、『Foxニュース』の番組に出演した際も、“目下は2022年の中間選挙における共和党候補の応援に注力している”とし、“2023年になって、共和党としての2024年選挙対応の戦略が整い始めたら、家族や支持者とも相談の上で、自身の対応を明確にしたい”と述べるに留まっている。
一方、トランプは先週、『ワシントン・イグザミナー』(2005年発刊の保守系週刊誌)のインタビューに答えて、“次期大統領選を考えた場合、トランプ・ペンスという組み合わせは有権者から支持されないと思う”とし、仮にトランプが再度立候補する場合、別の副大統領候補を指名する考えであることを仄めかしている。
(注1)米国憲法修正第25条:米国憲法第2条第1節第6項の曖昧な語句を部分的に置き換え、米国大統領の承継を取り扱い、副大統領が欠員の場合にそれを埋める方法と、大統領がその職務上の権限と義務を遂行することができない場合の対処法を規定。
(注2)サマリンダ・パース:米国福音派のキリスト教徒が運営する緊急援助支援団体。1970年設立。日本においても、2011年東日本大震災を契機に活動開始し、同年7月に一般社団法人格を取得。
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日米両国は1月22日、フィリピン海で今年初となる共同海上訓練を実施した。そこで、両国から目の敵とされている中国が早速反応し、翌日に昨年10月以来となる39機も戦闘機を大挙して台湾空域に派遣し、ひとつの中国原則をアピールした。
1月23日付
『ワシントン・イグザミナー』:「中国軍、日米共同海上訓練実施に対抗して戦闘機を大挙して台湾空域に派遣」
台湾国防部(省に相当)は1月23日、今年初めてとなる39機もの中国軍機の大編成が台湾の防空識別圏(ADIZ、注後記)に侵入してきたと発表した。
中国人民解放軍(PLA)戦闘機が飛来した前日、日米両国がフィリピン海で共同海上訓練を実施していた。
同訓練には、米軍の空母2隻、強襲揚陸艦2隻、ミサイル巡洋艦2隻、及び駆逐艦5隻、そして海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦(本質的には小型空母)が参加していた。
同訓練の実施海域は、中国が領土の一部と主張する台湾と米軍基地があるグアム島の間に広がるフィリピン海である。
横須賀基地をベースとする米海軍第7艦隊司令官のカール・トーマス中将(58歳)は、“米海軍の誇る艦隊と同盟国日本の海上自衛隊と共同して、自由で開かれたインド太平洋を擁護する目的で実施された共同訓練は素晴らしい成果を収めた”とツイートした。
一方、中国政府はかねてより、台湾を統一するために武力行使も辞さないと宣言しており、5年余り前からしばしばPLA戦闘機を台湾のADIZに派遣してきている。
そして今回も1月23日、J-16戦闘機24機、J-10戦闘機10機、Y-9輸送機2機、Y-8対潜戦闘機2機、H-6大型爆撃機1機の合計39機を台湾ADIZに侵入させた。
これは、昨年10月4日に56機もの大群を侵入させてきて以来で、今年に入って最多の派遣となっている。
シンガポールのラジャラトナム国際学院(2007年設立)のコリン・コー研究員は、“今回の戦闘機派遣は、日米共同訓練に対抗したものと考えられるが、同時に台湾側に中国軍の度重なる軍事的圧力に疲弊させる目的もある”と分析した。
すなわち、1月半ばに発生した台湾軍のF-16V戦闘機の墜落に言及して、“台湾の政治家や元軍人からは、PLAの軍事的挑発を迎え撃つための戦闘機の熟練操縦士の不足を問題とする声が挙がっている”とする。
同研究員は、“かかる背景もあって、PLA側が台湾独立機運を一挙に雲散霧消させるため、大軍を派遣してきたものと考えられる”と付言した。
また、米太平洋軍統合情報センターの元作戦部長のカール・シャスター氏も、中国側の狙いは、度重なる台湾空域への戦闘機派遣で、台湾を疲れさせる目的、“例えば、テニス選手が試合中に相手選手を疲れさせるためにあえて逆コーナーを狙ってストロークするようなもの”だとする。
ただ、同氏は、日米共同訓練の目的が台湾問題のみならず、日本が抱える尖閣諸島の領有権問題も絡んだものとするが、今回の訓練海域が、中国本土からかなり離れたフィリピン海であるため、中国側は然程脅威を抱いてはいないと分析している。
同日付『AP通信』:「中国、台湾空域に向けて戦闘機39機を派遣」
台湾国防部発表によると、1月23日晩にPLA戦闘機39機が大挙して台湾のADIZに侵入してきたため、警告を発するとともにスクランブル発進を実施したという。
PLA戦闘機は、直近1年半ほど毎日のように台湾空域に侵入してきているが、今回の39機は、昨年10月の56機に次いで最多となっている。
台湾と中国の関係は、2016年の総統選挙で、台湾独立が党是に入っている民主進歩党の蔡英文(ツァイ・インウェン、当時60歳)党首が勝利して以来、対立した関係になっている。
すなわち、中国国民党の馬英久(マー・インチウ、当時65歳)党首が総統だった2015年、初の中国・台湾首脳会談が開催される程関係が密になっていたが、2016年以降はコミュニケーションチャネルが一切断ち切られたままとなっている。
(注)ADIZ:各国が防空上の必要性から領空とは別に設定した空域のこと。同圏では、常時防空監視が行われ、通常は強制力はないが、予め飛行計画を提出せず、ここに進入する航空機には識別と証明を求める。更に、領空侵犯の危険がある航空機に対しては、スクランブル発進等軍事的予防措置などを行使することもある。
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