ジカ熱感染のおそれからリオデジャネイロでのオリンピック開催を危惧する声も一部からは上がっていたが、大会は予定通り開催される見込みである。そんな中、イギリスのプロゴルファー、ローリー・マキロイがジカ熱感染の危険性から、オリンピック出場を取りやめたことがイギリスで話題となっている。ジカ熱感染と小頭症小児の出産との因果関係は証明されたわけではないか、高い蓋然性が指摘されている。マキロイ氏は男性だが、「ジカ熱感染のリスクは極めて低いことは知っているが、自分や家族の健康を何よりも優先すべきと考え、オリンピック出場を辞退する」と語っている。そしてこの度アメリカの「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」(マサチューセッツ内科外科学会により発行される医学雑誌)が、南米での人工中絶が激増しているという調査結果を発表した。これらの国々では中絶が違法とされていることも多い。各メディアは以下のように報じている。
6月22日付
『ザ・ガーディアン』(英)は前出の医学雑誌が、南米の女性が「ウーマン・オブ・ウェブ」という団体に中絶の希望を訴えていることを明らかにしたと報じる。この「ウーマン・オン・ウェブ」は中絶が認められていない国に居住する女性の初期段階での中絶を援助する活動を長年行っている団体である。同団体は中絶が適切と認められた女性に対し、医師の監督の下、中絶のための薬を送るという方法で中絶援助を行っている。2010年1月から2016年3月までの調査によると、ブラジルやベネズエラ、エクアドルでは中絶が倍増、他の南米の国々でも30%以上の伸びを見せているという。同団体が同じく援助を行っているチリやポーランド、ウルグアイといった、ジカ熱が流行していない国では数値が横ばいであることからすれば、今回発表された伸び率はかなりのものである。
世界保健機関(WHO)は南米への渡航者に対して避妊具を用いた性交渉や、帰国後8週間の避妊を呼びかけているが、南米に暮らす女性たちにとって問題はそう簡単にはいかない。蚊に刺されることにより感染するジカ熱は、貧困層が暮らす地域では簡単に広まりやすく、中絶する手段も無いためだ。
今回の調査を行ったテキサス大学のアビゲイル・エイケン氏は「南米では、医学的に危険な手法や、違法な施設での中絶が行われているとみられ、実際の数の把握は極めて困難」と語っている。
同日付
『ワシントン・イグザミナー』(米)は上記の国以外のコスタリカやエルサルバドル、ホンジュラスなどでも中絶が急増し、36~108%の伸びを見せているとする。ボリビア、グアテマラ、ニカラグア、パナマ、パラグアイでは8~68%の伸びが報告されているが、メキシコやドミニカ共和国からは報告が無いと報じる。今回の調査を行った研究者は「この調査により、ジカ熱への心配から中絶が急増したとみるべきではなく、ジカ熱感染が南米の妊婦の人生にどれほど大きな影響を及ぼすかを知る機会とみるべき」とコメントしている。ニューヨークに拠点を置く「リプロダクティブ・ライツ・センター」のノースラップ氏は「このような公衆衛生への危険を回避するカギは政府や立法者が握っている。妊婦にその決断を委ねるべきではない」と中絶の認可を求めるコメントを発表している。
同日付
『BBC』(英)は「ウーマン・オブ・ウェブ」は、「汎アメリカ保健機構」が昨年11月17日にジカ熱感染への警告を発する5年前から中絶希望数を分析し、予測される中絶の数を割り出していたことを報じる。これによると昨年11月17日から今年3月1日までの中絶希望予測数はブラジルでは582件だったが、実際には1210件に達しており、急増していることが分かる。
「妊娠するな」「ジカ熱にはどこでも感染しうる」といった政府のメッセージだけでは不十分だともいえる。発症率は低いが、小頭症の子ども自身と、その子どもと生きていく女性のことを考えれば、何かしらの対策が必要なのは明らかであろう。
閉じる