プーチン露政権は4月10日、ティラーソン米国務長官が4月12日にロシア訪問の際、プーチン露大統領との会談予定が無くラブロフ露外相との会談を発表し、その理由について触れなかった。これはシリア軍基地への米国によるミサイル攻撃が影響しているとされる。ティラーソン米国務長官に外交経験は無く、エクソンモービル石油の経営者時代、2013年にロシア国家の最高の勲章である「友情の勲章をプーチン露大統領から個人的に授与されており、今回もプーチン大統領との会談が期待されていた。ただ、一部のロシアのメディアはこのような状況の中でもプーチン露大統領は会談を行う可能性があると報じている。
ティラーソン米国務長官の今回のロシア訪問の目的はトランプ米政権がシリア攻撃の勢いを利用してシリア内戦を終わらせる戦略を策定し実行するための準備と見られているが、ロシアと米国は2016年の米大統領選挙でのロシアの干渉、ロシアの重要な軍備管理条約違反問題、対イスラム国家問題等厄介な問題が山積みだった。皮肉なことにシリア問題は米露両政権が共通の見解を持つ問題と見られていた。ティラーソン米国務長官はシリアのアサド政権から化学兵器を取りあげ、アサド政権にシリア和平の交渉につかせるようロシアにプレッシャーをかけさせるなどの譲歩を引き出しながら、ロシアと米国の対立を避けることが求められている。ティラーソン米国務長官はロシアが2013年の合意に基づくシリアから化学兵器を廃棄する責任をロシアは果たしていないとも指摘している。ティラーソン米国務長官はロシア訪問前に10日からイタリアで開かれた主要先進国と中東の同盟国外相によるG7会合に参加し、ロシアによるシリアのアサド政権支援をやめるようにとの共同声明案に参加国は賛成している。
一方、ペスコフ露大統領報道官は、米国のシリア軍基地への攻撃はシリア問題解決を遅らせるものだと指摘し、米国の思い通りにはならないと反発している。ロシアはシリアの民間人を殺害した毒ガスは反政府勢力のものでいいかげんな口実によりシリアに侵入した米国の違法性を指摘している。プーチン露大統領は4月11日、トランプ米政権が更にミサイル攻撃を計画しており、また反政府勢力は化学兵器攻撃を仕掛けて挑発する計画だと非難し、国連にシリアの民間人を殺害した毒ガス攻撃について調査を要請すると述べている。ロシアは米のシリア軍基地へのミサイル攻撃を違法と非難し、米露関係を損なう可能性があると述べ米露間の軍事通信網はつないではおくが、今後それを使用して情報交換はしないと述べた。
ある米政府高官はシリア軍基地攻撃後でもロシアが米国との協力関係を中止せず、ティラーソン米国務長官の訪露をキャンセルしなかったことが重要だと指摘した。トランプ米政権は、ロシアやシリアとの戦争よりもイスラム国を撃退するためにシリア問題に取り組みたいと考えていると指摘する専門家もいる。シリアのアサド政権を和平交渉の席に着かせるのに困っていたロシアにとっては、米国のシリア攻撃は必ずしも悪いことではないとみる専門家もいる。
一方、4月10日の
『The Washington Post』は以下の通り報じている。シリア軍基地への米国のミサイル攻撃は、シリア問題の中で米国の役割が大きくなることを暗示している。ティラーソン米国務長官は、北朝鮮のような国際的な規範を外れて行動する国に対しても警告として機能したとも述べている。
今回の米国のミサイル攻撃で短期的にはティラーソン米国務長官のロシア訪問の目的である米露間の関係改善がさらに遠のくが、長期的には米国の介入の脅威は、シリアのアサド政権に化学兵器問題と反政府勢力との和平問題に対して圧力をかける切り札となる可能性があると見る専門家もいる。
また複数の専門家はシリアの毒ガスの備蓄が廃棄されたとロシアが保証していたにもかかわらず、シリアのアサド政権が化学兵器を使ってプーチン露大統領の面目をつぶしたと指摘した。プーチン政権の関心はアサド政権のロシアへの忠誠心よりもロシアへの経済制裁の解除の問題ほうが大きい。そのためにロシアはティラーソン米国務長官のロシア訪問を認め、それをティラーソン米国務長官も計算に入れているのではないかと見ている。
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トランプ米大統領は米中貿易における米国の巨額な貿易赤字の削減を求めたが、その調子は米大統領選挙中の強い反中国の姿勢からトーンダウンした。米国の輸出増加と米国との対中貿易赤字縮小を目的とした「100日間の貿易交渉計画」を実施することで両国は合意した。中国はインフレ率を調整することで対米貿易黒字を削減することに興味を示した。トランプ米大統領が主張していた米国が中国を為替操作国に指定するかどうかについては今回言及されなかった。
米国は北朝鮮の核ミサイル問題について北朝鮮に圧力を加えるよう中国に求めた。習近平中国国家主席は北朝鮮のミサイル・核計問題への協力を強化することに同意したが、具体的な手段については提案しなかった。シリアでの米国の迅速なミサイル攻撃は、北朝鮮、中国、イラン、ロシアなどに対して軍事力を行使する意思のあることを示していると解釈できる。
南シナ海での中国の活動に対して米国は懸念を示した。中国はここで要塞化した島を建設し戦略的な航路の確保と領土の拡張を主張している。
一方、4月7日の
『The Washington Post』はこの会談での北朝鮮の核ミサイル問題を以下のとおり報じている。米中両首脳は北朝鮮問題に対して明確な解決策を見つけられず、シリアのアサド政権の化学兵器使用疑惑に対して、会談初日に行われたトランプ米政権の予期せぬシリアへの軍事攻撃は両者の立場の違いを際立たせた。トランプ米大統領は習近平中国国家主席にシリアへの軍事攻撃の事実と背景を説明すると習近平中国国家主席はトランプ米大統領の説明に感謝の意を表明し、子供が殺害されているならこのような軍事的対応はやむをえないと答えている。中国は、シリア問題で一方的な米軍の行動に長年反対し、ロシアとともに国連安全保障理事会でのシリア問題の決議に拒否権を繰り返し行使している。一方中国外務省の報道官は4月7日、中国がシリア問題の政治的解決を支持し、さらなる状況の悪化を防ぐことが緊急であると述べた。習近平中国国家主席はサプライズが好きでなく、米国が軍事行動を起こしている最中にトランプ米大統領と手を握って友情を宣言して笑うシーンは中国では受け入れられそうにない。中国では指導者は公務中の振る舞いが厳密に事前に振り付けられ、ニュースメディアは管理され、あらかじめ決められた手順を守ることが最も重要だ。4月6日夜米国の報道機関は、シリア攻撃は大胆だが計算された中国への警告だと報じた。北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを米国に向けて使用する計画があるなら米国は軍事行動を行わなければならずそれは朝鮮戦争を意味するので避けなければならないというものだ。中国が核ミサイル問題で北朝鮮に圧力をかける代わりに米韓軍事訓練を抑制することに関しての具体的な合意は今回無かった。
The Washington Postの引用によれば中国共産党系の新聞である環球時報は、オバマ前米大統領が行わなかったシリアへのミサイル攻撃をトランプ米大統領が威厳を示すために行い、また自分が単なる実業家出身ではない大統領であることをこの攻撃で世界に示したかったのではと報じている。
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