中国が、一帯一路経済圏構想(BRI)の下でインフラ建設等にかかる巨大融資を実行することで被仕向け国を“債務の罠” (注後記)に嵌めているという批判が絶えない。そしてこの程、ラオスがスリランカ・ザンビアに続いて債務の罠に嵌ってしまう恐れがあると経済専門家が警告している。
11月8日付
『CNBCニュース』は、ラオスが中国からの巨大債務に押されて債務超過に陥る恐れがあると報じている。
ラオスはこれまで、中国のBRI構想の下、中国から数十億ドル(数千億円)の融資を受けて鉄道・高速道路・水力発電所等のインフラ建設プロジェクトを進めてきたことから、国際通貨基金(IMF、1945年設立)の推定では、中国に対する債務総額が同国の今年の国内総生産(GDP)の122%にも達してしまっているという。
中国は、ラオスにとって2013年以来最大の債権国となっているが、それが更に膨大になっていることを表している。
ラオスは、世界的な食品・燃料価格暴騰に加えて、同国通貨キップの対米ドル最安値更新に遭っており、このままでは債務不履行に陥る可能性がある。
これに対して中国は、2020~2022年に掛けて債務返済繰り延べに応じているが、世界銀行(1946年設立)は“一時的救済”であって、同国の2022年GDPの僅か8%程度にしか及ばないとコメントしている。
更に、全対外債務の37%を負っているラオス国営電力(EDL、2010年設立)が2021年、中国南方電網(CSPG、2002年設立の送電会社)と25ヵ年利権協定を締結し、CSPGにEDL発電の電力の海外輸出権を与えてしまっている。
かかる背景より、多くの経済専門家が、今度はラオスが債務の罠に嵌ってしまう恐れがあると警告している。
● 東京大学公共政策大学院の西澤利郎教授(64歳、2013年就任)
・ラオスは、債務不履行に陥らないためには、債務弁済繰り延べ・金利率削減等、中国と根本的な債務返済交渉が必須。
・例えば、中国の気候変動対策に関わる債務スワップ(発生温室効果ガス等の環境対策上の権利譲渡)等も検討対象。
・中国としても、ラオスが債務不履行状態に陥ることを望んでいないと推測。
● ローウィー研究所(2003年設立の豪州シンクタンク)インド太平洋開発センターのマリーザ・クーレイ上級エコノミスト
・中国がこれまで対ラオスで取ってきた一時的救済策を考えると、今後も余り期待できない。
・スリランカやザンビアに対する中国の債務再編成交渉を見る限り、ラオスに対しても消極的と見ざるを得ない。
・米国がインド太平洋地域での関与度が高まる中、これに対抗する中国にとって、東南アジアにおける中国の立ち位置を好転させるためにラオスとの関係強化は願ってもないことから、ラオスの債務減額等で救いの手を差し伸べることは中国にとっても最善策のはず。
● 世界銀行ラオス事務所のペドロ・マーティンズ上級エコノミスト
・中国のみならず、他の債権国・銀行団等も債務再編交渉をうまくまとめることが肝要。
・支出効率の改善、金融セクターの強化、輸出を促進しながらビジネス環境を活性化することも解決策。
● S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンス(財務データ分析等を行う米金融サービス)の田口晴美首席エコノミスト
・ラオスとしては、過度な免税措置の縮小・徴税システムの改善等税制改革に取り組んで歳入改善の必要がある。
・歳出面では、多額の債務を負っている中国国営企業に対する返済・保証条件等の厳格管理も必要。
(注)債務の罠:借金漬け外交とも呼ばれる、国際援助などの債務により債務国、国際機関の政策や外交等が債権国側から有形無形の拘束を受ける状態のこと。友好国間で見られ、債務の代償として合法的に重要な権利を取得する。インドの地政学者ブラーマ・チェラニーによって、中国のBRI構想と関連づけて用いられたのが最初。債務国側では放漫な財政運営や政策投資などのモラル・ハザードが、債権国側では過剰な債務を通じて債務国を実質的な支配下に置くといった問題が惹起されうる。
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11月6日付米
『NBCニュース』、
『USAトゥデイ』等は、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が米TV報道番組に出演して、ウクライナ戦争を24時間内に終結させると豪語するドナルド・トランプ前大統領にダメ出ししたと報じている。
米大統領選に立候補しているドナルド・トランプ前大統領は今年9月、米NBCテレビの報道番組『ミート・ザ・プレス』(1947年から続く長寿番組)に出演して、“自分が大統領に再選されたら、ウクライナ戦争を24時間内に終結させる”と以前からの主張を繰り返した。
ニュースキャスターのクリステン・ウェルカー氏(47歳、2023年9月就任)から根拠を問われて、“全てを話してしまったら、(戦争終結に向けた)交渉戦術の価値が失われてしまう”と嘯いた。
トランプは、“プーチンにもゼレンスキーにも言い聞かせることがあり、皆にとって公平な取引を成立させられる”とも豪語している。
そしてこの程、11月5日放送の同番組に出演したウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、トランプ前大統領の発言は非現実的とダメ出しした。
同大統領はまず、“ジョー・バイデン大統領(80歳、2021年就任)はウクライナを訪問して、戦争の実態等をよく理解してくれた”とし、引き続いてのウクライナ支援に感謝した。
これに続けて同大統領は、“(24時間内にウクライナ戦争を終結させると豪語する)トランプ前大統領を当地に招待し、武力衝突の規模や悲惨さを目の当たりにさせた上で、24分あれば戦争終結が如何に困難か十分納得させられる”と強調した。
更に続けて同大統領は、“大統領制だからと言って、大統領の思惑だけで事を進めるべきではなく、米国民の総意に委ねられるべきだ”とも付言している。
その上で同大統領は、“米国や欧州連合(EU、1958年前身設立)では、社会や一般の人の意見が重要であり、政策決定や資金拠出等、彼らが納めた税金が基となっている以上、彼らの意思が大切だと理解している”とも言及した。
なお、共和党の大統領予備選に立候補している中で、ニュージャージー州元知事のクリス・クリスティ氏(61歳、2010~2018年在任)や前副大統領のマイク・ペンス氏(64歳、2017~2021年在任)がウクライナ訪問の上、ゼレンスキー大統領と面談しているが、いずれも予備選から撤退してしまっており、目下のところ、共和党内ではウクライナ支援継続に否定的な声が高まっている。
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