ウクライナ支援;軍宛の直接資金援助は倫理的にOK?【米メディア】(2022/03/09)
3月2日付GLOBALi「
ウクライナ支援;暗号資産寄付額が3,400万ドルまで積み上がり」で報じたとおり、手間もかからず迅速な暗号資産によるウクライナ宛の寄付が約3,400万ドル(約39億円)まで積み上がっている。そうした中、クラウドファンディング(注1後記)で集められた多額の資金がウクライナ軍宛に直接わたることで、間接的な戦争支援と見做されないか倫理問題が浮上している。
3月8日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙は、「“ウクライナ軍に支援したい”と集まったクラウドファンディングがウクライナ軍の武器調達資金に流用」と題して、ウクライナ人難民救済ではなく、ウクライナ軍の直接戦費に充当されるクラウドファンディングが増えていることに警鐘を鳴らしている。
ここ数年の中で、異常な程のクラウドファンディングによる資金がインターネット上で集まっている。
それは、2月下旬のロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まってからのもので、多くのインターネットユーザーや主要米国メディアまでもがウクライナ軍への直接寄付という形で表れている。...
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3月8日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙は、「“ウクライナ軍に支援したい”と集まったクラウドファンディングがウクライナ軍の武器調達資金に流用」と題して、ウクライナ人難民救済ではなく、ウクライナ軍の直接戦費に充当されるクラウドファンディングが増えていることに警鐘を鳴らしている。
ここ数年の中で、異常な程のクラウドファンディングによる資金がインターネット上で集まっている。
それは、2月下旬のロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まってからのもので、多くのインターネットユーザーや主要米国メディアまでもがウクライナ軍への直接寄付という形で表れている。
その中でも大きな役割を担っているのが、カリフォルニア州法人でウクライナ・キエフにも本拠を構えるITサービス企業ソフトジョーン社(2001年設立)がツイッターやリンクトイン上に設営したクラウドファンディングのプラットフォームで、人道支援のみならずウクライナ国立銀行(1991年設立)経由ウクライナ軍への資金援助を呼びかけている。
キエフ在住のエミー・ジェングラー社長は、同社は“ロシアによる2014年クリミア半島併合以来、ウクライナ軍への支援を続けてきている”と明かした。
同社の支援は、救急車等の医療機器の援助も含まれるとする。
同社には多くの国の出身者が在籍していて、ウクライナ内でも約200人雇用しているが、(戦禍の中)一部は退社しているが、会社に留まって業務を続けている社員も多いという。
米国政府や北大西洋条約機構(NATO、1949年設立)加盟国は、ウクライナに武器等を提供する一方、対ロシア制裁を科しているが、多くの市民や私企業は、反抗するウクライナや同国の人道支援のために直接あるいは間接的にインターネットを通じての資金援助を行っている。
オーストラリア・シドニー大(1850年設立の公立大学)のディジタル変革・ディジタル戦争専門のオルガ・ボイチャック講師(ウクライナ出身)は、2014年以来ウクライナにおいて実施されている軍向けクラウドファンディングを研究してきているが、クラウドファンディングに参加することでインターネットユーザーを“紛争と密接な関係に追い込んで”しまっていると警鐘を鳴らす。
“何故なら、投じた資金が軍事用兵站に使用されるのか、または市民レベルの物流関係に回されるのか境が見えないからだ”と指摘している。
ブロックチェーン(注2後記)の分析を手掛ける英国エリプティック(2013年設立)によると、ウクライナ侵攻以来、ウクライナ国立銀行及びNGOカムバックアライブ(CBA、2014年設立の軍事支援用クラウドファンディングを行う団体)宛に寄付された暗号資産は5,900万ドル(約67億8,500万円)に及ぶという。
一方、セキュリティ・クリアランス(注3後記)を伴う人材派遣・雇用相談を担うクリアランスジョブ・コム(2002年設立)のリンディ・カイザー情報担当役員によると、“ウクライナ軍に寄付したいがどうか”という質問を多く受けるが、“今のところ違法だと確認している訳ではないが、もしセキュリティ・クリアランスの資格を保有しているならば、思い止まった方が良い”と助言しているという。
なお、ロシア政府はこれまで長い間、“偽情報操作”によって大衆をミスリードしてきたことから、マイクロソフト、グーグル、メタ(前フェイスブック)等の米IT大手企業は、ウクライナに対して直接、あるいは間接的支援を行っている。
例えば、マイクロソフトは、ロシアによるハッカー攻撃の具体的防御策支援をウクライナ政府宛に行っているし、グーグル、メタは、ロシア政府に盲従して軍事侵攻と認めようとしないロシア国営メディア『RT(ロシア・トゥデイ)』等へのアクセスを制限したりしている。
ただ、アップルの態度がはっきりしないため、ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相兼ディジタル担当相(31歳、2019年就任)は、“ウクライナの子供たちを平気で殺害しているロシアという国において、アップル製品の販売を即時に停止するべきだ”として、アップルのティム・クック最高経営責任者(61歳、2011年就任)を非難するツイートをしている。
(注1)クラウドファンディング:群衆(クラウド)と資金調達(ファンディング)を組み合わせた造語。多数の人による少額の資金が他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを意味し、ソーシャルファンディングとも呼ばれる。支援したお金がどのように使われるのかが分かること、少ない額から気軽に支援できることなどが、被災地の復興支援に必要な資金を集めるために大きな役割を果たし、注目されている。
(注2)ブロックチェーン:暗号技術を使ってリンクされたブロックと呼ばれるレコードの増大するリストで、設計上、データの改変に強い。そこで、2つの当事者間の取引を効率的かつ検証可能で恒久的な方法で記録することができるオープンな分散型台帳の役割を成す。
(注3)セキュリティ・クリアランス:国家等の秘密にすべき情報を扱う職員に対して、その適格性を確認すること。特別管理秘密を扱う行政機関の職員を対象とする秘密取扱者適格性確認制度などがこれにあたる。また、そうした秘密情報を取り扱う資格。
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東京オリンピック;大観衆の前でのプレーに慣れている著名アスリートも無観客の中での真剣勝負に戸惑い【米メディア】(2021/07/27)
7月26日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙:「東京オリンピック出場のアスリート、静寂の中でのプレーに戸惑い」
日本武道館は、日本の武道家たちの憧れの聖地とされている。
しかし、そこで開催されている東京オリンピック柔道競技では、折からの新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題の深刻化で無観客とされている。
本来なら観戦者で満員となる観覧席は、空虚な雰囲気を醸し出していて、また、声援ではなく、コーチの指導の掛け声やチームメートの拍手が聞こえるだけである。...
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7月26日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙:「東京オリンピック出場のアスリート、静寂の中でのプレーに戸惑い」
日本武道館は、日本の武道家たちの憧れの聖地とされている。
しかし、そこで開催されている東京オリンピック柔道競技では、折からの新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題の深刻化で無観客とされている。
本来なら観戦者で満員となる観覧席は、空虚な雰囲気を醸し出していて、また、声援ではなく、コーチの指導の掛け声やチームメートの拍手が聞こえるだけである。
台湾の楊勇緯選手(ヤン・ヨンウェイ、23歳、男子60kg級銀メダリスト)は、“大勢の歓声の中での試合に慣れているので、無観客の中でのオリンピックは少し気詰まりだ”と吐露した。
東京大会組織委員会は、日本の置かれた厳しいCOVID-19環境下、東京都を含めた多くの主要競技場での競技を無観客開催と決定している。
そこで、柔道選手以外の競技出場選手も、“静寂の世界(サウンド・オブ・サイレンス、米サイモン&ガーファンクルが1964年に発表した楽曲のタイトル)”の中でのプレーを強いられている。
多くの出場選手は、大会が開催されたことを大いに喜んでいるが、尋常ではない環境での競技に複雑な気持ちを抱いている。
例えば、2週間前のウィンブルドン選手権大会を連覇したノバク・ジョコビッチ選手(34歳、セルビア出身プロテニスプレイヤー)は、有観客の騒々しい中でプレーしたが、今回の東京大会では、新装なった有明コロシアムの2万席が空のままの状態の中でプレーすることになる。
同選手は、“自身のテニス競技の歴史において、否定的であろうと能動的(応援)であろうと観客の発する声に包まれて、大勢の観客の前でプレーすることでエネルギー(闘志)を得ていた”とし、“それが、依然プレーを続けている最大の理由のひとつだ”とコメントしている。
オリンピックの長い歴史の中で、無観客開催されるのは初めての事態であるため、有観客の場合とどれ程違うのか、大会3日間だけでもそれが如実に表れている。
・競泳競技で、選手の水をかく際の音が観客席まで聞こえる。
・女子ソフトボールの試合で、米国チームのキャット・オスターマン投手(38歳)が見事に内野ゴロでアウトに取った際、チームメートが発した“グッジョブ(良くやった)”との声がテレビ画面を通じて聞こえた。
・体操競技で、米チームのサム・ミクラク選手(28歳)が平行棒の試技の後、見事に着地を決めても、全く反応が聞こえてこない。チームメートのシェーン・ウィスカス選手(22歳)は、歓声がないと試技の出来栄えを鈍らせる恐れがあると吐露している。
・女子サッカーで、(世界ランク1位の)米国チームが1次リーグのスウェーデン(同5位)戦で3点取られて敗戦した際、『テレムンド』(米スペイン語テレビ、1984年開局)名物コメンテーターのアンデレ・カントール氏(58歳、アルゼンチン系米国人)による“ゴーーーーーーール!”という、かの有名な絶叫が遥か遠くからでも聞こえてきた。
・地元開催の日本チームにとっては大きな痛手で、開会式の入場行進のとき、本来もらえる最大の拍手・歓声が起こらなかった。
・(13年振りにオリンピック競技とされた)女子ソフトボールの試合において、日本チームがオーストラリアに8:1でコールド勝ちを収めても何ら歓声等はなく、エース上野由岐子投手(39歳)は、“私たちを支えてくれた多くのファンの前でプレーをしたかった”と吐露している。
これまで、世界のスポーツイベントの無観客開催がなかった訳ではなく、COVID-19蔓延に苦しんだ多くの国で実際に行われてきた。
ただ、それらの国でも今は観客が戻ってきていて、日本においても、プロ野球や大相撲が有観客で実施されている。
しかし、東京大会については、大会組織委員会のみならず日本政府も、有観客での実施による感染爆発を恐れて、止む無く無観客開催とせざるを得ないと強調している。
そこで、国際オリンピック委員会(IOC)も大会組織委員会を支援すべく、過去のオリンピック時の歓声・拍手等の録音を様々な競技場で流すという柔軟な対応をしている。
なお、大会組織委員会もIOCも、今後数週間内に東京都他の感染状況が改善することで、有観客開催に漕ぎ着けられるよう望んでいる。
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