7月26日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙:「東京オリンピック出場のアスリート、静寂の中でのプレーに戸惑い」
日本武道館は、日本の武道家たちの憧れの聖地とされている。
しかし、そこで開催されている東京オリンピック柔道競技では、折からの新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題の深刻化で無観客とされている。
本来なら観戦者で満員となる観覧席は、空虚な雰囲気を醸し出していて、また、声援ではなく、コーチの指導の掛け声やチームメートの拍手が聞こえるだけである。...
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7月26日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙:「東京オリンピック出場のアスリート、静寂の中でのプレーに戸惑い」
日本武道館は、日本の武道家たちの憧れの聖地とされている。
しかし、そこで開催されている東京オリンピック柔道競技では、折からの新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題の深刻化で無観客とされている。
本来なら観戦者で満員となる観覧席は、空虚な雰囲気を醸し出していて、また、声援ではなく、コーチの指導の掛け声やチームメートの拍手が聞こえるだけである。
台湾の楊勇緯選手(ヤン・ヨンウェイ、23歳、男子60kg級銀メダリスト)は、“大勢の歓声の中での試合に慣れているので、無観客の中でのオリンピックは少し気詰まりだ”と吐露した。
東京大会組織委員会は、日本の置かれた厳しいCOVID-19環境下、東京都を含めた多くの主要競技場での競技を無観客開催と決定している。
そこで、柔道選手以外の競技出場選手も、“静寂の世界(サウンド・オブ・サイレンス、米サイモン&ガーファンクルが1964年に発表した楽曲のタイトル)”の中でのプレーを強いられている。
多くの出場選手は、大会が開催されたことを大いに喜んでいるが、尋常ではない環境での競技に複雑な気持ちを抱いている。
例えば、2週間前のウィンブルドン選手権大会を連覇したノバク・ジョコビッチ選手(34歳、セルビア出身プロテニスプレイヤー)は、有観客の騒々しい中でプレーしたが、今回の東京大会では、新装なった有明コロシアムの2万席が空のままの状態の中でプレーすることになる。
同選手は、“自身のテニス競技の歴史において、否定的であろうと能動的(応援)であろうと観客の発する声に包まれて、大勢の観客の前でプレーすることでエネルギー(闘志)を得ていた”とし、“それが、依然プレーを続けている最大の理由のひとつだ”とコメントしている。
オリンピックの長い歴史の中で、無観客開催されるのは初めての事態であるため、有観客の場合とどれ程違うのか、大会3日間だけでもそれが如実に表れている。
・競泳競技で、選手の水をかく際の音が観客席まで聞こえる。
・女子ソフトボールの試合で、米国チームのキャット・オスターマン投手(38歳)が見事に内野ゴロでアウトに取った際、チームメートが発した“グッジョブ(良くやった)”との声がテレビ画面を通じて聞こえた。
・体操競技で、米チームのサム・ミクラク選手(28歳)が平行棒の試技の後、見事に着地を決めても、全く反応が聞こえてこない。チームメートのシェーン・ウィスカス選手(22歳)は、歓声がないと試技の出来栄えを鈍らせる恐れがあると吐露している。
・女子サッカーで、(世界ランク1位の)米国チームが1次リーグのスウェーデン(同5位)戦で3点取られて敗戦した際、『テレムンド』(米スペイン語テレビ、1984年開局)名物コメンテーターのアンデレ・カントール氏(58歳、アルゼンチン系米国人)による“ゴーーーーーーール!”という、かの有名な絶叫が遥か遠くからでも聞こえてきた。
・地元開催の日本チームにとっては大きな痛手で、開会式の入場行進のとき、本来もらえる最大の拍手・歓声が起こらなかった。
・(13年振りにオリンピック競技とされた)女子ソフトボールの試合において、日本チームがオーストラリアに8:1でコールド勝ちを収めても何ら歓声等はなく、エース上野由岐子投手(39歳)は、“私たちを支えてくれた多くのファンの前でプレーをしたかった”と吐露している。
これまで、世界のスポーツイベントの無観客開催がなかった訳ではなく、COVID-19蔓延に苦しんだ多くの国で実際に行われてきた。
ただ、それらの国でも今は観客が戻ってきていて、日本においても、プロ野球や大相撲が有観客で実施されている。
しかし、東京大会については、大会組織委員会のみならず日本政府も、有観客での実施による感染爆発を恐れて、止む無く無観客開催とせざるを得ないと強調している。
そこで、国際オリンピック委員会(IOC)も大会組織委員会を支援すべく、過去のオリンピック時の歓声・拍手等の録音を様々な競技場で流すという柔軟な対応をしている。
なお、大会組織委員会もIOCも、今後数週間内に東京都他の感染状況が改善することで、有観客開催に漕ぎ着けられるよう望んでいる。
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