シリア紛争をめぐる攻防:ロシアの国連決議案拒否と孤立
プーチン大統領孤立
ロシアは国連安全保障理事会でまたもや拒否権発動。シリアアレッポへの爆撃の即時停止を求める決議案を拒否して採択を阻止する。シリアでの停戦を目指すフランスが飛行禁止区域設定を含む停戦決議案を提案したが、アサド政権を支援するロシアは猛反発し拒否権発動に訴える。フランスメディアは次の通り報じる。
『フィガロ紙』は「シリア紛争裁定におけるロシアと欧米の亀裂を今一度確認することになった」と現状を報じる。ロシアが国連安保理でシリア紛争関連の採択を拒否するのはこれで5度目となる。ロシアは対抗案を提出したが、壊滅的な犠牲を出し続けるアレッポへの爆撃停止を含まない。オランド仏大統領は「継続的な人権侵害の咎」と非難して戦争犯罪として糾弾すると示唆する。
孤立するロシアと戦争犯罪調査の圧力
拒否権を盾にするロシアによって無力化しがちな国連だが、「今回ロシアは孤立を深める」と見るのは
『ルモンド紙』だ。...
全部読む
『フィガロ紙』は「シリア紛争裁定におけるロシアと欧米の亀裂を今一度確認することになった」と現状を報じる。ロシアが国連安保理でシリア紛争関連の採択を拒否するのはこれで5度目となる。ロシアは対抗案を提出したが、壊滅的な犠牲を出し続けるアレッポへの爆撃停止を含まない。オランド仏大統領は「継続的な人権侵害の咎」と非難して戦争犯罪として糾弾すると示唆する。
孤立するロシアと戦争犯罪調査の圧力
拒否権を盾にするロシアによって無力化しがちな国連だが、「今回ロシアは孤立を深める」と見るのは
『ルモンド紙』だ。「軍事力の駒を握るロシアはシリアで外交的に孤立した事はなかった」が、今回は「常にロシア支持にまわる中国でさえも棄権」した。「米国とフランスが明確に定義した“戦争犯罪”に加担するように見える事を中国は避けたかった」ためと「ルモンド紙」は指摘する。国連安保理15か国の中でベネズエラだけがロシアを支持した。現況は「外交的行き詰まり」だが、今までと違い「今回の単独拒否はあまり威力を持たない」と評し、今後ロシアの妥協を引き出す可能性を示唆する。
「ルモンド紙」によると、拒否権によるロシアの決議案阻止は織り込み済みだったようだ。「決議案を促す事で、シリア政策におけるロシアの孤立を明示する」事こそが、「今回の決議案提出におけるフランス外交の目的の一つ」だった。今回の決議案阻止は「米露協定の崩壊を決定づける」だけでない。「欧米はイスラミック・ステート(IS)と戦う仲裁者と定義される一方で、ロシアはアサド政権支援のために大規模介入する“当事者”と見なされる」。新たなロシア制裁に加え、「アレッポの病院爆撃の戦争犯罪調査」を求める米国務長官の発言でロシアは動揺しているという。「ロシアの安全保障と国益への脅威」と猛反発する露外相の反応はその表れと「ルモンド紙」はみる。一方で、状況打開のためには、シリア反政府軍支援の道しか残っておらず、今後戦闘は拡大せざるを得ないと伝える。
しかし、フランスとロシア間の亀裂は深まる。
『レゼコー紙』によると、19日に予定されたパリのロシア正教大聖堂竣工式への出席を、プーチン大統領は中止した。戦争犯罪を問われるプーチン大統領は「中止によって、議論を世論と政治レベルに分散させる」ため先手を打った。しかし仏国内では、国際刑事裁判所への提訴や新たな制裁でこの亀裂が深まるとの懸念や、一応パートナー国であるロシアを追い詰める事を窘める声もある。また、プーチン大統領が西側諸国で一目置く唯一の人物メルケル独首相は「あらゆる選択肢を模索する」と慎重姿勢を見せる。欧米がロシアの孤立状態と手持ちのカードをどう使うかが問われる。
閉じる
仏メディアが見る英国離脱:ハード・ブレグジット
英国の欧州連合(以下、EU)離脱が確実となった国民投票以来、EUの単一市場と完全に決別する「ハード・ブレグジット(完全強硬な離脱/hard Brexit)」か、「英国とEU相互の譲歩で何らかの繋がりを残す「ソフトブレグジット(穏健な離脱/soft Brexit)」か、様々な議論や憶測を呼んだ。欧州理事会トゥスク理事長のように「離脱協議開始を明確にした」と歓迎する声もあるが、ポンドも急落が示す通り、フランスメディアは、英国離脱が「ハード・ブレグジット」になると断定した。次の通り報じる。
『ルモンド紙』によると、メイ首相は「交渉は極めて複雑になる」が、「残り27か国のEU加盟国と円滑な共同準備作業」と「ソフトな移行」を望むが、2017年3月までにリスボン条約第50条(*1)発動に言及した。「メイ首相には交渉の余地が殆どないと欧州は知っている。移民制限の場合、英国は欧州市場へ参入できない」上に、「交渉に強いと知られる英国相手に、欧州は多くを失う」と、「ルモンド紙」はかなりの「ハード・ブレグジット」を予測する。...
全部読む
『ルモンド紙』によると、メイ首相は「交渉は極めて複雑になる」が、「残り27か国のEU加盟国と円滑な共同準備作業」と「ソフトな移行」を望むが、2017年3月までにリスボン条約第50条(*1)発動に言及した。「メイ首相には交渉の余地が殆どないと欧州は知っている。移民制限の場合、英国は欧州市場へ参入できない」上に、「交渉に強いと知られる英国相手に、欧州は多くを失う」と、「ルモンド紙」はかなりの「ハード・ブレグジット」を予測する。「英国に対してEUが譲歩しすぎたり50条の手続き開始前に協議開始がないように」と欧州理事会と欧州委員会の指示書に既に明記されている。現段階では今後の英国とEUの関係は「自由貿易協定のカナダ型」が最有力視されている。
またメイ英首相は「単一の国家として離脱する」、「いかなる例外も認めない」事を強調し、EU残留を望むスコットランド独立派をけん制した。今後の動きとしては「2017年春の議会でのエリザベス女王演説時に、1972年に制定された欧州共同体法を廃止するために新たな法律案を提示する」ようだ。
『レゼコー紙』は「“ハード・ブレグジット”の見通しがポンドを急落させた」と報じ、市場は強く懸念する事を伝える。市場が最も恐れるのは「欧州からの移民規制にメイ首相が断固とした姿勢を取っている」ためとの見方を示す。市場が恐れるのは、「EU基本原則の一つである移動の自由を英国が放棄する代償として、残り27加盟国から不利な貿易協定を提示される」事である。交渉に強い英国といえども、英国企業や市場は先行きの不透明感に強い懸念を示す様子が浮き彫りになる。英政府もその事を認識しており、ハモンド英財務大臣は「英国企業が不確実性や不透明感に少なくとも2年間は直面する」との見方をしめし、例外的に緊縮財政を緩和する事を発表した。「来年の英国の成長はかなり停滞する」と味方を示し、「来年の英国のGDP成長率は0.7%」との分析を採用する。
『フィガロ紙』も「EUとの決別を示唆したバーミンガムの保守党大会での演説の後、ポンドは急落して3年ぶりの最安値を付けた」と報じ、「“ハード・ブレグジット”の仮説が市場に乱気流を起こした」として、しばらく「ジェットコースターのような状態」が市場で続くとの見通しを示す。
(1*)リスボン条約第50条:いかなる加盟国もEU脱退を決定できる。欧州理事会に通知し、EUとの交渉を経てEUと離脱に関する協定を締結。2年で協定を締結できず、欧州理事会が交渉延長を認めなければ、EU法の適用が停止される。
閉じる
その他の最新記事