トランプ支持者による連邦議事堂一時占拠事件は、民主主義への冒涜とばかり、米国のみならず世界からも厳しい非難の声が上がっている。この事件を契機として、大統領自身が再び弾劾訴追されるという不名誉な記録を作っただけでなく、実業の不動産業でも、ニュージャージー州に保有のトランプ・ナショナル・ゴルフクラブで予定されていた全米プロゴルフ選手権がキャンセルされたり、ニューヨークに保有の自社ビルから大テナントが撤退するとの話まであり、実害が出始めている。
1月16日付
『NBCニュース』:「パームビーチ郡も全米ガールスカウト協会もトランプとの契約終了を希望」
先週ワシントンDCで発生した、トランプ支持者による連邦議事堂一時占拠事件によって、ドナルド・トランプ大統領(74歳)との関係終焉を望む団体が増えている。
まず、フロリダ州パームビーチ郡は、ウェストパームビーチ市にあるトランプ・インターナショナル・ゴルフクラブの土地リース契約を終了させようとしている。
地元『パームビーチ・ポスト』紙報道によると、同郡のハワード・ファルコン副検事が、“先週ワシントンDCで発生した事件を契機に、同郡の役人から、同リース契約を解除したいとの相談を受けた”としたが、同副検事からは、“かなり難題だ”とコメントしたという。
同ゴルフクラブの代理人弁護士は同紙のインタビューに答えて、“契約解除の該当事項に当たらない”と表明している。
同副検事も『NBCニュース』の質問に対して、“契約解除を主張できる根拠を探す必要があるが、正直言って無理だろう”と答えている。
なお、同郡が『NBCニュース』に回答したところによると、トランプ・オーガナイゼーション(1923年設立の複合企業、本拠はニューヨーク、トランプ大統領は2代目社長)は同郡に対して、当該ゴルフクラブの土地リース代として毎月8万8,338ドル(約920万円)を支払っているという。
一方、ニューヨークに本拠を構えるガール・スカウツ米連盟(1912年設立)も、マンハッタン島フィナンシャル・ディストリクト(金融街)にある72階建てトランプ・タワー(1995年にトランプが買収)の15ヵ年賃貸契約を7年前倒しして中途解約しようと考えている。
同連盟ニューヨーク支部のメリディス・マスカラ代表は『NBCニュース』に寄せた声明で、“物事の優先順位を考慮して、同タワーからの事務所移転を最優先で取り組む必要があると考える”と言及した。
同代表は、“ニューヨーク支部に所属する女子会員のために、最良の場所を確保すべく最善を尽くす”とも付言している。
また、同タワーの不動産管理会社のクッシュマン&ウェイクフィールド(1917年設立、本社シカゴ)も1月13日、同タワー管理契約を終了すると発表した。
同社広報担当によれば、同大統領との関係を断ち切る動きに出ている銀行や企業に追随するものだという。
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12月18日付
『AP通信』:「トランプ氏のフロリダ州リゾートへの定住に近隣住民が反発」
ドナルド・トランプ大統領(74歳)は来年1月、大統領職退任後にフロリダ州のマー・ア・ラゴ別荘地に定住しようと考えているが、これに反発する近隣住民の代理人弁護士は、同大統領が実業家時代の1990年代、同リゾートを会員制ゴルフ・クラブに変更する許可を求めた際にパームビーチ市と締結した契約に基づき、同リゾートに長期滞在することは認められないとする訴えを提起した。
匿名希望の近隣住民を代理するレジナルド・スタンボー弁護士は今週、トランプ家が同リゾート地に定住することを当該住民が望まないとする訴えを同市宛に提起したと明かした。
その主な理由は、同大統領が同リゾートにしばしば滞在することから、シークレットサービスによって警護のために設置したマイクロ波防御壁が発するマイクロ波励起による難聴等の症状に悩まされており、今後トランプ家が定住することによってこの悩みが継続するだけでなく、その他の問題もあって当該リゾート地周辺価格が下落する恐れがあるとしている。
大統領一家は昨年、ニューヨークから同リゾートに現住所を移転している。
しかし、同弁護士によれば、同大統領が1993年に同市と締結した契約によれば、個人所有の別荘地を会員制ゴルフ・クラブに変更する許可取得条件として、同大統領も含めて全ての会員は、同リゾートに年通算21日以上の長期滞在を認められないとされているとする。
同弁護士は同市宛書状の中で、“同市内には他に素晴らしい住宅が売りに出されていることでもあり、トランプ一家がマー・ア・ラゴに定住することによって近隣住民とトラブルとならないよう、同市から前広に同一家に対して、同契約に基づきしかるべき対応をとるようはたらきかけることを望む”とも言及している。
しかし、トランプ政権は12月17日、“トランプ大統領一家がマー・ア・ラゴに定住することを禁ずるような文書も契約書も存在しない”との声明を発した。
一方、目下のところ、パームビーチ市シティ・マネージャー(注後記)のカーク・ブルーイン氏もゲイル・コングリオ市長も、具体的なコメントを発表していない。
なお、トランプ氏がマー・ア・ラゴに関わった経緯は以下である。
1985年:食品メーカーのゼネラル・フーズ(1895年設立)の創業者である故マージョリー・メリウェザー・ポスト(1887~1973年)遺産管理団体から、当該邸宅(126室)を1,000万ドル(約10億5千万円)で買収。数百万ドル(数億円)をかけて改装し、避寒地の別荘として毎年11月~5月の間に短期滞在。
1990年代:ニュージャージー州に所有するカジノ含めて、所有不動産価格が暴落し、トランプ氏経営の不動産会社が経営危機。同別荘の年間維持費300万ドル(約3億1,500万円)負担が困難となり、同不動産を小規模に分けて切り売りすることを考えたが、同市が不許可。
1993年:(1)同市から、同別荘を会員制ゴルフ・クラブリゾート(最多会員数500名、入会金20万ドル、年会費1万4千ドル)とする案の許可取得。その際、同リゾートでカジノ運営を行わないことや、会員の滞在限度を年通算21日以内とする等の条件付け。
(2)当時の『パームビーチ・ポスト』紙報道によると、トランプ氏代理人のポール・ランペル弁護士は、“トランプ氏は同リゾートに定住することはない。ただ、同クラブ会員として、許容範囲内での短期滞在することはあり得る”とコメント。
2000年代:近隣住民から騒音等の苦情が相次ぎ、トランプ氏とパームビーチ市が度々衝突。特に2006年、トランプ氏が無許可で80フィート(24メートル)高の国旗掲揚ポールを建てたことで関係は更に険悪に。
2017年以降:(1)大統領就任以降、クリスマスシーズンでの21日間を超える滞在や、習近平国家主席(シー・チンピン、67歳)、安倍晋三首相(66歳)等の首脳を歓迎するためにしばしば利用。
(2)同大統領が来訪・滞在ごとに起こる、随行員・シークレットサービス等使用の多数の車・ヘリコプターの騒音、また、同リゾート近隣への車両進入禁止措置に対して、近隣住民から頻繁に苦情発生。
12月17日付『ABCニュース』:「マー・ア・ラゴ近隣住民、大統領退任後のトランプ一家の同リゾート定住を歓迎せず」
『ニューヨーク・タイムズ』紙や『シアトル・タイムズ』紙報道によると、マー・ア・ラゴ・リゾート隣接のデモス家代理人弁護士が12月15日、パームビーチ市及びシークレットサービス宛に、1993年にトランプ氏が署名した契約書に基づき、トランプ一家は連続7日以上、年通算21日以上同リゾートに滞在することは許されないと訴える書状を送付したという。
地元『パームビーチ・ポスト』紙も、同契約書によると、同リゾートの会員は、トランプ氏も含めて上記を超える長期滞在は許されないと記載されていると報じている。
(注)シティ・マネージャー(あるいはタウン・マネージャー):地方行政システムの一つで、米国などで採用されている。もう一つのシステムである、市町村長を行政の主体とする市長制と違い、市議会がシティ・マネージャーを任命し行政を任せる。本システムのもとでは、市議会が政策の決定、条例の制定、予算の認定、マネージャーの任命を行い、市長(あるいはそれに相当する責任者)は、非常に儀礼的な仕事や市議会の議長的な行為を行うことが多い。
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