欧州連合(EU)が7月1日に「ヘルスパス」と呼ばれるコロナパスポートの運用を開始する。中国の在仏大使館は、中国製ワクチンをシステムから除外するという欧州連合の決定に追従するフランスに対して、中国に入国しようとするフランス人旅行者に対する規制を強化することで報復すると発表した。
仏ラジオ局
『フランス・アンテール』によると、ヘルスパスは、直近の検査で陰性であったこと、ワクチン接種が完了したこと、あるいはコロナから回復したことを証明するもので、フランスではすでに、紙とデジタルの2種類が使用できる。11歳以上から提示が義務付けられ、2021年9月30日まで使用が認められている。
しかしニュースサイト『Cnetフランス』によると、ヘルスパスでは「欧州医薬品庁が認可したワクチン」のみが認められるため、ロシアの「スプートニクV」や中国の「シノバック」などのワクチンは、対象外となる。例えば、ロシア製のワクチンを接種しているハンガリー人は、フランスをはじめとするEU諸国に入国するためには、PCR検査を受けなければならない。欧州で認められたファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、ヤンセンのいずれかのワクチンを接種した人のみ、PCR検査なしでEU27カ国への渡航が可能になる。
米『エポックタイムズ』によると、フランスでは6月9日から先駆けて、新しい入国規制を施行し始めた。欧州で認められたワクチンを接種した人は、フランスに入国する際に「やむを得ない理由」の提示や検疫の必要性がなくなった。
しかし、フランスはコロナの流行状況に応じて世界を緑、オレンジ、赤の3つの地域に分けており、中国はオレンジ色の地域に分類されている。そのため、中国からフランスに入国するためには「やむを得ない理由」を提示し、入国が許可された場合でも到着後7日間の検疫が求められる。
在仏中国大使館員がラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、中国政府はフランスに対する報復制裁として、フランスから中国に入国する際に、中国製以外のワクチンを接種した人を認めないことを明らかにした。
中国本土のメディアは6月15日、このフランスに対する報復措置を報じ、フランスからの旅行者には到着後28日間の隔離が義務付けられ、フランスが中国国民に求める期間よりもはるかに長いと付け加えた。記事は、中国製のワクチンが世界保健機関(WHO)で承認されているにもかかわらず、政治的な理由でフランスとEUに受け入れられていないと主張している。そして、中国政府の報復は「フランスに思い知らせる」ためのものだと伝えている。
フランス在住の時事評論家、ワン・ロンメン氏は、RFAに対し、中国の報復は中国人のナショナリズム感情を掻き立てるためのものだと考えられると語った。同氏は、政権の「戦狼外交」の代表者の一人である中国の盧・在仏大使が、新型コロナウイルスの起源の調査を求める欧米諸国をたびたび批判していることを指摘した。また、「中国が主張している相互制裁は馬鹿げている。フランスに住む、西洋の予防接種を受けた中国国民はどう感じるのか。彼らは中国への帰国を禁じられるのか」と述べ、EUの主要国であるフランスは、中国製ワクチンの有効性の低さや、臨床試験データの透明性の低さが報告されていることから、中国製ワクチンを承認しないことで、フランス国民に対する責任を果たしていると語っている。
フランス在住のカザフ人ジャーナリスト、アーキン・アザット氏も、中国製ワクチンを承認しないというEUの決定を賞賛した。しかし同氏は、中国の「一帯一路構想」に参加し、中国から多額の融資を受けているEUのいくつかの国が中国製ワクチンを承認していることから、EUの政策がいずれ中国政府のワクチン外交によって破られるのではないかと懸念している。
閉じる
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国の首都は、今や世界都市かつ金融センターとして世界の注目を集め、人の出入りが激しい。そうした中、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題もあって、首都ドバイ国際空港では入出国の旅行者のパスポート審査に当たって、接触の機会を減らす一環でAI(人工知能)を使用しての“虹彩の色(瞳の色)”を識別することで即時確認ができる最新鋭システムを導入している。
3月7日付米
『AP通信』:「ドバイ国際空港で旅行者の瞳の色でパスポート審査」
ドバイ国際空港は、国際色豊かな旅行者で賑わう世界トップクラスの空港であるが、今現在でも、とても広大な免税店、人口のヤシの木、きらめくターミナル、人工滝、そして北極並みに涼しい空調と、現実離れした空間となっている。
しかし、今度は更に、SF然とした機能が付加されることになった。
それは、入出国のパスポート審査で、旅行者の瞳の色で識別できるAI機器を導入したことである。
COVID-19感染問題が世界を席巻している中、感染防止の一環で、人との接触を可能な限り減らすIT技術開発が必要とされている。
ただ、ドバイ、アブダビ等7つの首長国から成るUAEにおいて、人口当たりでは世界最多の監視カメラを設置しているものの、出入りする大勢の人々を瞬時に把握することが課題になっていた。
そこで今回採用したのが、瞳の色によって瞬時に個人が識別できるAI機器の導入である。
ここ数年の間、世界の多くの国際空港で、パスポート審査の時間短縮のため旅行者の顔認証システムが導入されてきている。
しかし、当局の説明では、今回ドバイ空港での瞳の色識別機器採用によって、旅行者は紙の搭乗券や扱いにくいスマートフォン内の搭乗券アプリを携行する必要がなくなるという。
当局は更に、エミレーツ航空(1985年設立、ハブ空港ドバイ)とドバイ入出国管理局との異例な協力体制の下、旅行者がただ1度のチェックインだけで搭乗できることになるとしている。
ドバイ内務・外務総局(GDRFA)副局長のオバイド・メハイヤー・ビン・スルール少将は、“未来が現実になった”とし、“パスポート審査が僅か5~6秒で「スマート」に済むことになる”と誇った。
しかし、一方で、顔認証や瞳の色認証で、入出国旅行者の個人が瞬時に特定されることから、特にジャーナリストや人権活動家らが標的にされかねないと非難の声が上がっている。
これに対してスルール副局長は、入出国管理局が個人情報を“完璧に保護”し、かつ、“第三者が閲覧することはできない”と反論している。
ただ、専門家は、今後得られたデータの利用や保管状況の詳細説明がなければ、生体認証データは誤用されるリスクを払拭できないと指摘する。
マサチューセッツ工科大学(1861年設立の私立大学)AI部門博士課程の学生であるジョナサン・フランクル氏は、“監視システムは、どんな制度を敷いている国であっても危険なものとされる”としながらも、“ただ、それが民主国家の話で、かつ、透明性を以て使用されるということであるならば、少なくとも公に功罪について議論ができるという利点はある”とコメントした。
これまで採用されてきている顔認証システムは、旅行者の承諾も得ずに勝手にカメラで認知するものであることや、離れた距離から投影することで正確性にも疑念がない訳ではないことから、問題視されている。
しかし、瞳の色認証システムは、旅行者本人固有のもので、かつ正確性の点でもより信頼度が高いことから、世界中で広く採用されるようになっている。
一方、UAE首相でありドバイ首長国の首長でもあるムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム氏(71歳)は先月、文書業務削減のため新たな顔認証システムを“いくつかの民間サービス部門”で試験的に採用することにすると発表したが、具体的にどの部門か等の詳細は明らかにしなかった。
なお、高層ビルが林立するドバイでは、様々な特定システムが採用されていて、COVID-19流行下、ショッピングモールや街路において、出入りする人や通行人の検温、マスク着用有無、消毒薬噴霧等がITで管理・実施されている。
ただ、同時に行われている顔認証カメラで取られた個人情報は、同首長国の生体認証データベースに保管されている可能性がある。
3月8日付UAE『ザ・ナショナル』(2008年創刊のアブダビ首長国英字紙):「ドバイ国際空港で採用されている最新鋭顔認証システムの機能」
ドバイ国際空港では、6ヵ月前に新たに採用された最新鋭顔認証システムによって、これまで空港内の複数のポイントで行われてきたパスポート・搭乗券等の審査が、一度で済むようになっている。
この新認証システムによって、AIが瞬時に顔及び瞳の色を特定するので、パスポート審査が僅か5秒で済む。
これは、昨年9月にGDRFAが導入したもので、同空港内の出発・到着ホールの122のゲートに設置されている。
同局出入国管理責任者のノーラ・アール・マズルイー氏によれば、“同システムが設置された「スマートゲート」を利用するためには、エミレーツ航空のチェックインカウンターで顔・瞳の色等の生体認証データを登録する必要がある”としながらも、“これが済んでおれば、パスポートや搭乗券等を見せることなく、当該スマートゲートを瞬時に通過できる”と説明した。
この6ヵ月間で15万4千人の旅行者が同空港を利用しているが、「スマートゲート」を僅か数秒で通過し、また、入出国管理官と余計な接触も不要であることから、双方にとって時間の大幅節約ができているとする。
閉じる