ブリュッセルでのテロは昨年のパリのテロに続いてヨーロッパに大きな衝撃をもたら
した。今回の事件を受けてポーランドはEU加盟国の中で難民受け入れ拒否を表明した
最初の国となった。EU内でも難民受け入れに関しては意見が分かれており、今回の一
件がEU内の不協和音をさらに大きくするとなると、イギリスのEU離脱問題にも影響が
及ぶ可能性も出てくる。
各メディアは次のように報じている。
3月24日付
『IBタイムズ』(英国版)は、ポーランドが昨年EUに対して受け入れを表
明していた4年間で難民7000人を受け入れる方針を覆し、今や「一人たりとも」受け
入れるつもりがないことを報じている。
この難民7000人の受け入れを容認したのは昨年政権を握っていたリベラル派のコパチ
首相の時代だ。その後2015年10月に右派政党が政権を掌握し、現在のシドゥオ首相に
なってからというもの、ポーランドは度々難民受け入れ問題をめぐってEUと対立して
きたという。...
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3月24日付
『IBタイムズ』(英国版)は、ポーランドが昨年EUに対して受け入れを表
明していた4年間で難民7000人を受け入れる方針を覆し、今や「一人たりとも」受け
入れるつもりがないことを報じている。
この難民7000人の受け入れを容認したのは昨年政権を握っていたリベラル派のコパチ
首相の時代だ。その後2015年10月に右派政党が政権を掌握し、現在のシドゥオ首相に
なってからというもの、ポーランドは度々難民受け入れ問題をめぐってEUと対立して
きたという。本来ならポーランドは今年400人の難民を受け入れるはずだったとされ
る。ワルシャワで行われた記者会見でシドゥオ首相はドイツのメルケル首相を名指し
で非難している。同氏はメルケル首相の「能天気な」態度が、現在のヨーロッパの難
民問題を招いたと主張する。
ポーランドの前政権が7000人の難民受け入れを容認したのは、EUとドイツからの圧力
によるものだったとされる。ドイツとポーランドは経済的に密接な関係関係にあり、
EUの中で最も経済力のあるドイツに出稼ぎに行くポーランド人も多い。EUが昨年提唱
した難民受け入れ方針についてチェコ共和国やスロヴァキア、ハンガリーやルーマニ
アは反対の意を表明していたが、当時ポーランドは「ノー」とは言えなかった。しか
し、今回のブリュッセルでのテロを受けてEUへの追従が我慢の限界を超えるところま
で来たともいえる。
同日付
『GMAネットワーク』(フィリピン)はシドゥオ首相がポーランド国内のメ
ディアに対して、EUに従うよりも国民の安全を最優先に考えての決断だということを
語ったことを報じている。「何千と押し寄せる難民の中にはテロリストが混じってい
るかもしれないのだ」。今回のブリュッセルでのテロでも、ポーランド人3人が犠牲
になっている。他の東ヨーロッパの国々が難民受け入れを拒否する中、このまま
「ノー」と言わなければ、EUからの要求がエスカレートする可能性も否定はできな
い。昨年9月にEU内でまとめられた合意では今後ヨーロッパ全体で12万人の難民を受
け入れることが定められている。ポーランドも3月、遅くとも4月には難民を受け入れ
る予定だったが、シドゥオ首相の発言により予定は白紙となった。シドゥオ首相は
「EUはパリのテロから何も学ばなかったと言わざるを得ない」とも発言している。
3月23日付
『デイリーメール』(英)はポーランドの今回の発言を受けて、EUが難民
受け入れ問題について分裂の危機にあると報じる。この危機を回避すべく、EU諸国の
中には今までよりも強力な協力体制でテロに立ち向かうことが求められているとの主
張も出てきている。フランスのヴァルス首相はフランスに続いてベルギーがテロの犠
牲となったことを受けて、EUはテロ対策の費用を大幅に増やすべきと主張している。
今後現れるであろうテロと対峙するためには、人的、技術的側面からのより深いアプ
ローチが求められ、費用の増額は必須とする。ただ、EUの結束が緩めば、費用の増額
は困難になることが予想される。
アブラモプロス欧州委員はEU内でのテロの情報収集とその共有が重要であり、オラン
ダに本拠地を置くユーロポール(欧州刑事警察機構)がその中心的役割を担うべきと
する。「EUが前進するためには、情報共有と相互信頼を育む他に道はない」。
難民問題とテロ問題により、EUの内部に亀裂が入るとなれば、テロリストの思うつぼ
である。テロに対してどれだけ一枚岩の協力体制が築けるかが今後のカギとなろう。
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