米国は、1970年代の第一次石油危機をきっかけに、安全保障上の理由から原油の輸出を禁止し、ガソリンなど精製された石油製品の輸出に限ってきた。しかし、「シェール革命(注1後記)」を背景に、原油生産がこの7年間で8割以上増え、世界の原油生産量の1割を超える世界有数の産油国となった。そして、シェールオイルの増産で原油の在庫がだぶついていることから、40年振りに原油輸出の解禁が図られることになったと各国メディアが伝えた。
12月16日付米
『USAトゥデイ』紙は、「米原油輸出解禁、短期的にはメリット薄く」との見出しで、「米議会が12月15日に与野党間で合意した、40年振りの原油輸出解禁は、世界の原油供給市場を安定化させ、また、テロリストによって中東産油国の原油輸出に損害をもたらした場合の保険にもなり得る。しかし、原油価格が11年振りの低価格となっている現在、石油需要国にとって短期的にはあまりメリットが感じられないだろう。1973年に中東アラブ産油国が原油輸出を禁止する第一次石油危機が発生した際、米国は安全保障上の理由から自国の原油輸出を禁止した。当時、米国産原油価格が1バレル当り90ドルで、欧州の市場価格が110ドルであったため、米国の原油生産者は地団駄を踏んだ。」とし、「しかし、現在の米原油価格は36.25ドル前後で中東の価格より50セント程安いだけであるため、海上輸送費などを考慮すると輸出メリットはない。」と報じた。
12月18日付米
『ブルームバーグ』オンラインニュースは、「米国原油は、アジアの需要国にとっては品質、価格とも高すぎて食指は動かず」との見出しで、「アジア諸国の石油精製企業は、硫黄分の高い、安価な重質油を石油精製原料としている。しかし、米国のシェールオイルは、硫黄分の低い軽質油であるし、また、中東に比し海上輸送費が安くもないので、米国が原油輸出を解禁しても、余りメリットを感じないだろう。例えば、日本向けは、サウジアラビアからの大型石油タンカー(20~30万トン)による航行日数が27日で、海上輸送費が1バレル当り約2.25ドルであるのに対して、米国ヒューストンからでは38日かかり、また、使用可能なアフラマックス型タンカー(8~12万トン、注2後記)の輸送費が約5ドルとなるため、食指を動かさないであろう。」と伝えた。
12月16日付英
『ザ・テレグラフ』紙は、「米国、40年振りに原油輸出解禁」との見出しで、「シェールオイル増産で米国内の原油在庫がだぶついていることで、石油業界などと近い野党・共和党が輸出解禁を求めていた。一方、オバマ政権及び与党・民主党は、環境保護派の反対もあって、解禁に反対してきたが、再生可能エネルギーの支援策と引き換えに野党側と折り合うことになった。」と報じた。
また、12月17日付トルコ
『デイリィ・サバ』紙は、「米国、40年前の原油輸出禁止措置を変更」との見出しで、「原油輸出解禁は、米国内石油生産者は歓迎しているが、米国の同盟国向けに、ロシアやOPECに代わってエネルギー供給できる可能性をもたらすからである。なお、与野党委員会が合意の上で12月16日に議会に提出された法案では、緊急事態が認められたり、輸出によって国内原油供給不足に陥るような場合、大統領権限で1年間原油輸出が差し止められるとの条文が入っている。」と伝えた。
一方、同日付ロシア
『ロシア・ビヨンド・ザ・ヘッドライン』ニュースは、「米利上げと原油輸出解禁はロシア経済に脅威」との見出しで、「ロシア中央銀行のナビュリーナ総裁は、米利上げによって、ロシア含めた新興国から外国資本が流出し、また、ルーブル安ももたらすこととなり、ロシア経済への悪影響は今年だけでなく来年も続いてしまうとコメントした。更に、原油輸出解禁で底値に張り付いた原油価格が一段と押し下げられるおそれがあり、石油収入が大きいロシアにとって大打撃となるとも述べた。」と報じた。
(注1)シェール革命:今まで困難であったシェール層からの石油や天然ガス(シェールガス)の抽出が可能になったことにより、世界のエネルギー事情が大きく変わることを指す。米国において、シェール層が国土のほぼ全域に広がり、そこに埋蔵されている石油や天然ガスは100年分を超えるといわれていることから、中東やロシアの石油・天然ガス生産国の世界輸出構造を大きく変える事態となっている。
(注2)アフラマックス型タンカー:載貨重量トンが8~12万トンの範囲にある石油タンカーを指す言葉。黒海、北海、カリブ海、東シナ海、南シナ海、地中海 などで広く用いられている。石油輸出国機構(OPEC)が使用する大型タンカーなどが入港可能な港、運河を持たない、非OPEC産油国が主に使用している。
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