ドナルド・トランプ大統領は就任以来、しばしば自己保有のフロリダ州の別荘に安倍晋三首相含めて、海外要人を招待して会談を開いている。公務とは言え、かかった費用の大半が間接的に大統領個人に還流されているとして、野党・民主党議員、一部の州の司法長官、更に市民団体が、米憲法「報酬条項(注1後記)」に違反するとして、同大統領を提訴している。そして今度は、同大統領が、2020年に米国で開催される主要7ヵ国首脳会議(G-7サミット)を、同じく自己保有のフロリダ州のゴルフリゾートで行うことを考えていると言い出したことから、改めて法曹関係者らから、憲法違反だとする声が上がっている。
8月27日付米
『NBCニュース』:「トランプ大統領が2020年のG-7サミットをマイアミのゴルフリゾートで開催することを希望しているが、果たして可能か?」
ドナルド・トランプ大統領は8月26日、2020年に米国が議長国となるG-7サミットの開催場所について、自身が保有するマイアミ(フロリダ州)のトランプ・ナショナル・ドーラル・マイアミ・ゴルフリゾート(TNDMR)を考えていると発言した。
ビアリッツ(フランス南西部のリゾート)で開催されたG-7サミットの最終日に発言したものだが、早速野党・民主党、法律専門家、市民団体などから、米憲法に定める「報酬条項」に違反するとの批判の声が上がっている。
ミネソタ州立大学法学部教授で、かつてジョージ・ブッシュ政権下で倫理担当法律顧問を務めたリチャード・ペインター氏は、『NBCニュース』のインタビューに答えて、大統領が経営する事業会社保有の施設においてかかる公式行事が開催されるとなると、G-7に出席する各国要人に加えて、数百人の関係国政府関係者の滞在に関わる膨大な費用が同事業会社宛てに支払われることになるので、当然「報酬条項」に抵触するとコメントした。
ハーバード法科大学院のローレンス・トライブ教授はツイッターで、ペインター教授の見解に賛同するだけでなく、大統領の弾劾事項にも該当するとまで言及している。
また、同大統領を「報酬条項」違反で提訴している原告団のひとりであるディーパック・グプタ弁護士は、G-7サミットには米国要人も参加することとなり、その費用が国庫から同大統領の事業会社宛てに支払われることになるので、「大統領に関わる報酬条項(注2後記)」にも抵触することになると批判している。
同大統領はかつて、習近平(シー・チンピン)国家主席や安倍晋三首相と会談する際、同大統領の別荘マー・ア・ラゴを使用したことから、同様の理由で非難されている。
しかし、G-7サミットとなると、二国間首脳会談の比ではない、巨額な費用が発生することから、ホワイトハウス高官も同大統領の考えを諌めることになろう。
一方、TNDMRは2013から2018年にかけて、調理場にゴキブリや昆虫が大量に発生したことから、フロリダ州当局から衛生条例524条違反で行政指導を受けているとして、G-7会場として最適な場所ではないとの声も上がっている。
なお、前回2012年に米国が議長国となったG-7サミットは、バラク・オバマ大統領(当時)がホストとなって、キャンプ・デイビッド(首都ワシントンの約100キロメーター北のメリーランド州にある大統領専用別荘)で開催されている。
一方、同日付英国『ジ・インディペンデント』紙:「トランプ大統領、来年のG-7サミットを経営の苦しい自社保有のマイアミのゴルフリゾートで開催希望」
トランプ大統領は今回のG-7サミット終了時の8月26日、来年米国が議長国となるG-7サミットを、同大統領の事業会社保有のTNDMRで開催したい旨発言した。
その際、同大統領は、国際空港も近く至便であるばかりか、豪奢な施設や広大な敷地もあり、各国首脳を招くのに最適な場所だと付言した。
なお、自己保有の施設で公式行事を行う事に批判があることから、同大統領は、儲ける気持ちはさらさらないともコメントした。
一方、TNDMR保有の事業会社のタックス・コンサルタントのジェシカ・バチラテバンラク氏は、フロリダ州地元紙『サン・センティネル』のインタビューに答えて、同リゾートの業績は低迷していると語っている。
同紙によれば、TNDMRの収益は、大統領就任前の2016年に比し69%も下落しているという。
また、米メディア『マザー・ジョーンズ』誌によれば、同大統領保有の複数のリゾート事業の採算性が悪化しているとし、同大統領は合わせて13もの融資、総額3億1千万ドル(2億5,300万ポンド、約329億円)の債務を抱えているという。
(注1)報酬条項:米憲法第1条第9節8項によって、公職にある者が議会の承認なしに外国の政府や王族から報酬や贈与を受け取ることが禁じられている。
(注2)大統領に関わる報酬条項:米憲法第2条第1節7項によって、大統領職に関わる定額報酬の他、国または各州からいかなる報酬も受けることが禁じられている。
閉じる
5月25日付「米でまたしても黒人2人射殺の白人警官に無罪判決」の中で、“2012年11月にオハイオ州クリーブランドで発生した、白人警官による黒人男女2人の射殺事件について、オハイオ州裁判所が無罪判決を言い渡した”と報じた。これまで市警、特に白人警官が起した容疑者殺害事件について、長らく審議の動向が明らかにされず、そして結果として不起訴や無罪判決が度々出されていた。そうした中、自身が統括する、ニュージャージー州ブリッジトンで昨年の12月に発生した市警による殺人事件について、6ヵ月経っても調査に何の進展もないことに業を煮やした同市市長が、検察当局に不満を表す書簡を送付したことが明らかになったと米メディアが伝えた。
5月29日付
『マザー・ジョーンズ』誌は、「市警による射殺事件の捜査に6ヵ月進展なし、は許容不可と市長」との見出しで、「米国では、市警の殺人事件の捜査に非常に長期間かかることが、日常茶飯事である。例えば、昨年11月にタミール・ライス君(12歳)を射殺したクリーブランド市警の警察官は、事件発生から6ヵ月以上経った現在でも、未だに取り調べを受けておらず、タミール君の遺族は何も知らされていない。そして、ニュージャージー州ブリッジトンで昨年12月末に発生した、同市警による射殺事件の被害者であるジェレミー・リード氏(36歳)の場合は、ミズーリ州ファーガソンやメリーランド州ボルティモアの事件ほど世間から注目されていない。しかし、パトカーのカメラがとらえた映像では、助手席にいた同被害者が、乗っていた車を市警のパトカーに停車させられた際、ダッシュボードに拳銃はあったが、両手を挙げていたにも拘らず、2人の警官に射殺されており、明らかに過剰な対応であったことが認められる。そこで同市のアルバート・ケリー市長は検察当局に対して、6ヵ月経っても事件の取り調べの状況や、地裁への起訴等、何ら明らかにされないことは、リード氏の遺族はもとより、一般市民にとっても許容範囲を超えているとして、迅速な対応を求める書簡を送付したことを明らかにした。」と報じた。
世界の注目を浴びる発端となったファーガソンでは、街が朽廃するおそれが出てきている。すなわち、白人主体の市警が、黒人住民を標的に不当な逮捕や交通検問を繰り返したと批判され、米司法省からも非難されたことで、今年3月に同市警トップが辞任に追い込まれ、更に、その翌日に市警本部前で警察官2人が撃たれるなど混乱が続いている。そこで、殺人警官の不起訴への抗議に伴う暴動や、今回の一連の混乱に嫌気が差して、同市から引っ越す住民も出始めており、同市が犯罪都市化するのではないかとみられている。
閉じる