2011年3月、シリアで民主化運動「アラブの春」に端を発した内戦が勃発して5年が経ったが、20万人以上が死亡し数百万人の難民を生んだ戦乱の収束の見通しはいまだに立たないばかりか、イスラム教の宗派対立と異なる勢力を支援する主要国の思惑も絡んで、様相は複雑化している。海外メディアは、平和的な民主化運動が泥沼の内戦になった背景や、その結果発生した犠牲や損失について報じている。
12日付
『ザ・ワシントンポスト』紙は、5年前に発生した反政府運動がどのようにして泥沼の内戦に陥ったのかについて報じている。
・シリアは、イスラミックステート(IS)のような過激武装グループの台頭を許し主要国を巻き込んだ激しい内戦の影で、アラブの春の平和的抗議活動から5周年を迎える。
・アラブ民主化運動が始まる以前から、中東の独裁者たちはイスラム過激派が一般市民を恫喝して服従させることを容認する一方で、対外的には独裁政権の正統性を主張してきた。...
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12日付
『ザ・ワシントンポスト』紙は、5年前に発生した反政府運動がどのようにして泥沼の内戦に陥ったのかについて報じている。
・シリアは、イスラミックステート(IS)のような過激武装グループの台頭を許し主要国を巻き込んだ激しい内戦の影で、アラブの春の平和的抗議活動から5周年を迎える。
・アラブ民主化運動が始まる以前から、中東の独裁者たちはイスラム過激派が一般市民を恫喝して服従させることを容認する一方で、対外的には独裁政権の正統性を主張してきた。過激派は恐怖を利用して戦闘員を集め、残虐な行為を正当化した。
・シリアの民主化運動は失敗して内戦が始まり、アサド大統領は未だ政権を保っているがシリアはISに蹂躙され荒廃した。
・エジプトなどシリア以外の国々では、民主化運動が行われる前よりも過酷な復讐や弾圧で独裁体制が支配権を回復してきた。チュニジアを除き、民主化運動を推進した穏健派は言論を封じられ投獄されるか亡命を強いられた。
・シリア停戦で束の間の平穏が訪れ、一部で自由と民主化を求めるデモが起きているが参加者は少なく、民主化運動はイスラム過激派によって封殺されている。
・民主化運動活動家の多くは獄中で衰弱している。人権団体「シリア人権ネットワーク」は2011年以降11万7千人が逮捕され6万5千人がまだ拘留されたままである。数千名が拷問で死亡し、多数が行方不明となっている。
13日付
『ABCニュース』は、シリア内戦が世界に与えた影響について次の通り報じている。
1.ISの台頭と過激派・テロ行為の拡散
2.プーチン・ロシア大統領の中東での発言力増大
3.難民流入による欧州の不安定化
4.中東近隣諸国での過激派武装勢力の拡大
5.中東地域でのイランの影響力拡大
3月12日付「FOX8」(AP電)は、5年に及ぶシリア内戦のコストを次のように報じている。
・死傷者:国連によると25万人が死亡し百万人以上が負傷している。英国に本部を置く「人権シリア監視団」は27万人以上が死亡したと推定している。シリアの人口23百万人のおよそ半数が戦火で住居を追われている。国連は650万人がシリア国内で避難し、480万人がシリア国外で難民となっている。
・都市の破壊:世界銀行によるシリアの6大都市の被害推定額は、2014年末時点で36~45億ドルである。
・遺跡の破壊:アレッポ、ボスラ、パルミラの遺跡発掘現場などユネスコ世界遺産の殆どが被害を受けるか破壊されている。
・経済的損害:内戦が2020年に終息した場合のコストは1兆3千億ドルと試算されている。また、世界銀行はシリアの2014年時点の資本財の損害は700~800億ドルと推定している。
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