これまで何度か触れたとおり、6月初めの長江での客船転覆事故、8月中旬の天津港での大爆発事故が発生しているが、いずれも「安全基準」無視の“人災”と言われている。それぞれ国の調査チームが原因究明等に当っているが、いずれもまだ詳細が明らかにされていない。しかし、その後も8月下旬の山東省の化学工場の爆発事故が発生したりと、一体習政権の安全対策はどうなっているのかと、中国国内でも非難の声が挙がる程だった。そうして、またしても広東省の土砂崩れ、山東省の鉱山での崩落事故と、12月に入っても悲惨な事故が続発しているとメディアが警鐘を鳴らしている。
12月26日付米
『ロイター通信(米国版)』は、「共産党政府、広東省の土砂崩れは安全基準違反と断定」との見出しで、「共産党政府は12月25日のウェブサイトで、12月20日午前に広東省深セン市で発生した土砂崩れは、自然災害ではなく、積み上げられた残土が崩れた安全面の事故であったと認め、調査結果に基づき責任者を処分する、と発表した。この事故で工業団地内の33棟が土砂に押しつぶされ、2人が死亡、70人以上が行方不明となっている。なお、残土置き場を管理する会社は、4日前に当局から出された、土砂の積み上げを止めるようにとの指示を無視して作業を続けていた。更に、同社の残土置き場への土砂の積み上げ許可は、10ヵ月前までとされていた。」と報じた。
また、同日付中国
『チャイナ・デイリィ』中国英字新聞は、「深セン土砂崩れは安全基準違反」との見出しで、「12月25日現在、4人が死亡、75人が行方不明となっている深セン工業団地の土砂崩れ事故について、同日夜に記者会見した馬興瑞(マー・ジンズイ)深セン市共産党書記は、国家調査チームに協力して、責任の所在を明らかにすると述べた。」とし、「同残土置き場は、深セン緑威(リーウェイ)物業管理有限公司が管理していたが、同社に許可を与えた同市光明(クァンミン)新区(深セン特区)監督局は、今年の7月には、同置き場の土砂積み上げが許可どおりに行われていないと警告を出していた。」と伝えた。
一方、同日付米
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙(
『AP通信』記事引用)は、「中国の鉱山の土砂崩落で11人救助」との見出しで、「国営新華社通信が12月26日に報じたところによると、12月25日早朝、山東省平邑県(ピンユィ)の石膏採掘現場で大規模な土砂崩れが発生し、現場作業員29人のうち、救助されたのは11人のみで、18人が依然不明という。なお、中国の鉱山がこれまで、安全基準度外視で多くの犠牲者を出していたことから、ここ最近では当局が安全基準遵守を厳しく指導してきており、その結果、昨年の鉱山事故での死者は931人と、2002年の約7,000人から大幅に減少している。」と報じた。
また、同日付中国
『グローバル・タイムズ(環球時報、人民日報国際版)』は、「中国東部の鉱山事故で11人救出も、18人が不明」との見出しで、「生き埋めとなった18人は二つの作業現場にいるとみられるが、依然土砂崩落が断続的に起こっているため、救助が難航している。なお、中国地震ネットワークセンターによると、事故当日朝、平邑県で震度4の地震を観測したと速報したが、事故発生の鉱山での大規模崩落で引き起こされた揺れだったとしている。」と伝えた。
以上の事故は安全基準無視の「人災」と言われているが、その根本には、習政権が進める“反腐敗”キャンペーンがあるとの見方もある。すなわち、同政権による厳しい摘発で、特に広東省の大物政治家が次々と失脚、粛清させられている。そこで多くの公務員が戦々恐々の状態で、とても積極的に仕事ができる環境ではなくなり、良くも悪くも“事なかれ主義”に徹していると言われている。深セン特区の土砂崩れ事故も、事前に対応策を講じようとすれば、そのために新たに予算を組んで業者に発注する等の必要が出てくるが、それを以てして「業者との癒着」などと政敵から攻撃されかねないので、何もしないでいたと推測されるからである。
北京などの度重なる大気汚染発生にしても、一時的な工場閉鎖、車の乗り入れ制限等、その場凌ぎの対策ばかりで、一向に好転しないのも、行政官僚の“事なかれ主義”の心理が蔓延しているためとも言われる。汚職官僚の摘発は重要な政策ではあるが、習政権の“反腐敗”キャンペーンが、政敵を追い落とす政治運動という形で行われていると取られる限り、深セン特区の土砂崩れ事故のような事態が、今後も繰り返されるのではないかということを懸念する。
閉じる