トルコでは本年6月に国会の任期満了に伴う総選挙が実施され、13年間単独政権を維持していた公正発展党(AKP)は、初めて国会で過半数を失った。その後の連立政権樹立に向けた協議が失敗したため、エルドアン大統領は再選挙を決定し11月1日に今年2度目の総選挙が実施される。危機感を深めるエルドアン大統領は、クルド系野党との対決姿勢を強めとともに、クルド武装勢力への爆撃やクルド市民への弾圧を強化しており、トルコ国内の政情は不安定さを増している。また、イスラミックステート(IS)などの外部勢力がこれに乗じて浸透しようとする動きも加わり、更なる混乱が危惧されている。
10月25日付の米国
『エクスプレス・トリビューン』紙は、再選挙を一週間後に控え、エルドアン大統領が率いるAKPは、議会での過半数獲得を目指し全力を挙げていると報じている。AKP党首のダウトオール首相は、先頃首都イスタンブールで同党への支持を訴える運動デモ行進をおこなった。何千人ものAKP支持者が参加したが、その数はむしろ以前より少ない。13年間もの間与党としてトルコ政界を主導したAKPは、親クルド族政党の躍進もあって、前回6月の選挙では40.6%の支持率しか得られず絶対多数を失った。エルドアン大統領は、米国型の強力な大統領権限を指向しますます威圧的になっていると批判されている。
同大統領は6月の選挙後組閣に失敗し、再選挙を実施することになったが、国内はこれまでになく二極化している。7月以降、トルコ政府治安部隊とクルディスタン労働者党(PKK)武装勢力との戦闘が激化し、3年前に開始した和平交渉は決裂している。最新の世論調査によると、AKPは40~43%を獲得するに止まると予想されており、550議席の過半数に達しないため連立政権を樹立するか再選挙をするしか道はない。
AKPは選挙戦で、最大野党である国民民主主義党(HDP)をPKKテロリストと共謀していると攻撃している。一方、アンカラでの自爆テロで多くの死傷者が出たHDPは、当局の警備の手落ちやIS武装勢力の拘束失敗を糾弾するとともに、政府はクルド族との紛争を再燃させたと非難している。こうした状況を物語るように、先の日曜日には東京のトルコ大使館に国外投票に来たクルド人とトルコ人数百人が衝突し、12人が負傷したと同紙は報じている。
10月23日付
『ボイスオブアメリカ』は、トルコ検察当局が内務大臣他数名の政府高官に対し、自爆テロに関する対応について調査を開始したと報じている。全野党が政府および治安当局の怠慢を非難しているが、政府はこの批判を強く否定するとともに、ISだけが攻撃の首謀者ではないと主張している。エルドアン大統領は、シリア情報当局、PKK武装グループ、およびシリアのPKK分派が11月の総選挙を妨害するために仕組んだものであると発言したが、野党はその主張を否定している。
どの世論調査でも、今回の選挙で過半数を得る政党はおらず、連立政権樹立を目指すことになりそうである。識者は、連立政権を組むことがトルコ国内を深刻な対立から救う最も良い方法であると述べている。
10月22日付
『ヤフーニュース』はAFP電として、クルド人地域での緊迫した治安状況を報じている。それによると、シリアとイラク国境に近いトルコ南東部のシズルという都市では、PKKとトルコ治安部隊との激しい衝突が発生したため、夜間外出禁止令が敷かれ、街頭のいたるところにバリケードと治安部隊を配置し総選挙に備えているが、こうした状況は民主主義を否定することに繋がりかねない。
政府は夜間外出禁止令の9日間で32人のクルド人武装勢力を殺害したと発表したが、人権団体はそのうち21人は民間人であったとして政府を非難している。政府批判者は、政府はPKK党員を逮捕し、市民にAKPへ投票するか投票を棄権するよう脅そうとしていると語る。また、HDPは、政府がこの町の親クルド派市長を“テロ行為の教宣活動”をおこなったとして職務を停止し、妨害行為をしていると非難している。
同市の裁判所長は、政府は先の選挙敗北から教訓を得て、「市民に投票させないように脅しており、ここでの投票は安全が保たれないことを理由に無効とされる可能性もある」と憂慮している。
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