中国で度重なる人権活動家の獄中不審死(2015/11/09)
中国は以前から人権問題について、国際社会や人権団体から批判を受けてきたが、習近平体制となって以降、活動家の拘束、インターネット利用の制限、少数民族の抑圧などが一層激しさを増している。特に、政府への批判者に対する弾圧は厳しく、勾留後の拷問や虐待行為が常態化していると指摘されている。ドイツのメルケル首相は、10月末の中国訪問時、中国政府の不興を覚悟のうえ人権活動家と面談した。こうした中、今月の国連人権委員会による中国での拷問審査を前に、新たな政治犯の獄中不審死が発生した。
10月30日付
『ブルームバーグニュース』は、ドイツのメルケル首相が、中国訪問時の10月29日、中国政府の怒りを覚悟のうえで9人の人権活動家と政府反対派に面会したと報じている。活動家らは、3年前に習近平国家主席が政権の座に就いてから人権問題は悪化したとメルケル首相に訴えた。今年7月、アムネスティインターナショナルは、習近平政権下で、全国的な規模での政府反対派への弾圧や人権活動家の逮捕、脅迫がおこなわれていると非難した。...
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10月30日付
『ブルームバーグニュース』は、ドイツのメルケル首相が、中国訪問時の10月29日、中国政府の怒りを覚悟のうえで9人の人権活動家と政府反対派に面会したと報じている。活動家らは、3年前に習近平国家主席が政権の座に就いてから人権問題は悪化したとメルケル首相に訴えた。今年7月、アムネスティインターナショナルは、習近平政権下で、全国的な規模での政府反対派への弾圧や人権活動家の逮捕、脅迫がおこなわれていると非難した。同月、中国は「人民民主主義による独裁を守り、社会の平穏を維持する」として、国家治安法を制定した。
メルケル首相訪中の数日後、11月4日付
『ラジオフリーアジア』は、中国の人権活動家である張劉茂(Zhang Liumao)氏は広州市警察が管轄する収容施設で不審死したが、家族は遺体に面会できずにいると報じている。張氏は、政府批判者に対し当局が使う常套手段の、「社会秩序に論争を仕掛け、騒乱を扇動」した疑いで本年8月から勾留されていた。家族によると、勾留施設の職員は死亡時の状況などを一切説明せず、埋葬手続きを早くおこなうよう伝えたが、家族はそれを拒否している。人権活動家は、「法律では “社会秩序に論争を仕掛け、騒乱を扇動する”との基準が曖昧で、当局の権力乱用に都合がよく、単に意見を言っただけで勾留されやすい」と批判する。
国連人権委員会は11月17~18日に拷問およびその他の残酷、非人道的又は虐待・懲罰行為に関する協定への中国の違反を評価するが、その矢先に張氏の不審死が発生した。海外に拠点を置く中国人権擁護ネットワークは、中国政府は拷問の罪で告発された当局者の処置について一切公表することを拒否している、と非難している。それどころか、中国人権活動家は、中国の政府情報公開システムを通じて情報収集をおこなおうとすると、報復として脅迫や逮捕されるはめになるのが実情である。
11月6日付ニューヨークタイムズ』紙は、人権活動家の張劉茂氏が、江東省の省都広州市の第3収容所内で死亡したことを報じている。数百人の人権活動家や親族が、死亡原因および死亡した時期や場所、遺体の確認などを求める要求をおこなっている。警察が張氏を逮捕したのは、米国政府の資金援助を受けて広州市で雑誌を発刊したことが理由だと推測される。張氏の弁護士は、姉妹2人が収容所当局者と面会し、同氏の死亡原因調査ビデオと遺体を見せるよう文書で要求した。
中国では、また拘留者が死亡したことについて、弾圧ではないかとの疑念が生まれている。2009年には人権活動家のLi Qiaoming氏が雲南省で死亡し、2015年には著名なチベット族僧侶のテンジン・デレック・リンポチェ氏が「テロとチベット分離教唆」の罪で終身刑を服役中に不可解な状況で死亡し、怒りの抗議が起きている。
11月5日付
『ヒューマン・ライツ・ウオッチ』は、張氏の隔離勾留は、習近平政権のもとでおこなわれる活動家への取締りと同じ手口であり、2人の著名な活動家の拘留中の不審死と繋がるものがあると報じている。それによると、2014年3月に人権活動家Cao Shunli氏が数ヵ月の勾留後死亡し、2015年7月には、チベット僧のテンジン・デレック・リンポチェ氏が獄死したことは、明らかに当局が法律を遵守していないことを示している。中国の“収容施設での死亡取り扱いに関する規則”では、調査ビデオの撮影と保管および拘留者への聞き取り調査を義務付けている。しかし、どちらのケースも調査はおこなわれず、誰も責任を問われていない。中国では、犯罪容疑者への拷問や、家族、弁護士、医者の接見拒否 などが常態化しており、政治犯への拷問リスクは特に高い。中国政府は今月開催される国連の拷問審査会への準備をするにあたり、自国の法律は空約束ではないことを示し、張氏および獄死した全員について調査をおこなうべきであると主張している。
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戦禍に翻弄されるシリア人の暮らし(2015/09/16)
戦禍に追われ、住む場所を失った数百万のシリア人が、故郷や国を離れ難民となっている。平穏な暮らしを奪われた難民の苦境を海外メディアがレポートしている。
9月15日付
『ニューヨークタイムズ』紙は、シリア政府軍の反政府勢力に対する攻撃は激しさを増しており、一般人の犠牲者が増えていると報じている。ダマスカス近郊にある人口50万人のドーマという都市では、政府軍による空爆の開始で8割の住民が既に町を去っている。ドーマとその近郊では過去1ヵ月間に空爆で550人以上が死亡し、その大半が子供123人を含む一般人である、と赤十字医療団は報告している。人権団体“ヒューマン・ライツ・ウオッチ”や反体制派支援グループは、ドーマのように反政府勢力が支配する地域への政府軍の爆撃は、ISよりはるかに多く市民の命を奪っていると主張している。...
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9月15日付
『ニューヨークタイムズ』紙は、シリア政府軍の反政府勢力に対する攻撃は激しさを増しており、一般人の犠牲者が増えていると報じている。ダマスカス近郊にある人口50万人のドーマという都市では、政府軍による空爆の開始で8割の住民が既に町を去っている。ドーマとその近郊では過去1ヵ月間に空爆で550人以上が死亡し、その大半が子供123人を含む一般人である、と赤十字医療団は報告している。人権団体“ヒューマン・ライツ・ウオッチ”や反体制派支援グループは、ドーマのように反政府勢力が支配する地域への政府軍の爆撃は、ISよりはるかに多く市民の命を奪っていると主張している。シリアの反体制市民グループによると、政府軍の空爆で1万8千人の一般人が犠牲になり、政府軍と反政府勢力双方の迫撃砲やロケット攻撃で2万7千人が死亡している。
ドーマでの暮らしを妨げるのは爆撃だけではない。数年にわたる政府軍の封鎖により、住民は日用品をトンネルや密売を通じてしか入手できず、人道的援助物資も殆どが阻まれている。政府軍も反政府勢力も賄賂を要求し、密売で金を稼いでいる。荒廃した多くの都市から首都ダマスカスに避難民が集まるが、ここでも反政府支配地域から逃れてきた住民は、警備当局から脅迫や逮捕されることを恐れる日々が待っている。このような理由で、4百万人ものシリア人が隣国のレバノン、ヨルダン、トルコなどに難民として逃れているが、これらの受入国も、難民に対する態度は冷淡になっていると同紙は報じている。
9月15日付
『US&ワールドリポート』は、トルコに避難しているシリア人は200万人以上であり、26万人が難民キャンプに住んでいると報じる。シリア難民はトルコ全土に分散しているが、イスタンブールだけも33万人に達し、さながらシリアの新首都の様相を呈している。裕福なシリア人難民はトルコ各地で会社を興し、同朋のシリア人を雇ってレストラン、建設業、衣料品、旅行業などの事業をおこなっている。しかし、幸運な難民は一部に過ぎず、貧しい難民は気の毒な目に遭う。労災保険もない低賃金労働を強いられるなかで悲惨な事故も起きている。また、賃金が支払われないことも稀ではない。仕事に就けず売春や物乞いをする者もいる。トルコでは600万人の失業者を抱えており、各地でシリア人に仕事を奪われたトルコ住民とシリア難民の間で衝突が頻発している。
9月15日付
『ボイス・オブ・アメリカ』は、シリアでは学齢期の子供640万人のうち200万人が、戦闘や暴力によって学校に通えずにいると報じる。ユニセフは、これに加え40万人の生徒が戦闘の拡大や避難によって退学を余儀なくされていると述べている。戦争前のシリアでは、普通教育がほぼ浸透し識字率は90%を超えていたが、今や教育体系は機能していない。シリアの教育制度が完全に崩壊するのを避けるため、ユニセフは学校に行けない子供のための自習プログラムを開発し、これを危険でアクセスできない地域や難民の子供に普及させる計画を進めている。ユニセフの広報担当者は、「シリア難民が欧州を目指す大きな理由として、子供に教育を受けさせたいという親の想いがある。この計画はシリア人が自国に留まることの助けになるだろう」と語っている。
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