GLOBALiでも報じられているとおり、米国が、インド太平洋海域の安全保障強化の一環として、オーストラリア(豪)と次期原子力潜水艦の技術提供に関わる契約を締結した。これに対しては、仮想敵とされた中国はもとより、豪州との潜水艦共同開発契約を破棄された同盟国フランスも激高している。そうした中、南シナ海周辺国においては、反って軍事力競争が激化する恐れがあると懸念を表明する国もあれば、同海域の安定につながると評価する国もある。
9月18日付米
『ニューズウィーク』誌:「マレーシア:米豪間原潜契約で南シナ海における核軍備競争が激化すると懸念表明」
マレーシアの『デイリィ・エキスプレス』オンラインニュース(1963年設立)は9月17日、イスマイル・サブリ・ヤアコブ首相(61歳、2021年就任)が、米国が豪州と締結した次期原子力潜水艦技術提携契約に関し、南シナ海における核軍備競争が今後激化しかねない、として非難していると報じた。
同首相事務所がリリースした声明においても、同首相が9月17日に豪州のスコット・モリソン首相(53歳、2018年就任)と直接電話会談を行い、懸念を伝えたとしている。
更に、同首相は9月18日、“これによって別の大国を怒らせて、更に同海域での高圧的な行動を取らせかねない”と警鐘を鳴らした上で、“マレーシアは、同海域の平和、自由航行及び中立性”を維持していくことに最善を尽くしていくと表明した。
これに対して、米国務省のネッド・プライス報道官(38歳)は『ニューズウィーク』誌のインタビューに答えて、“インド太平洋地域の安全保障と繁栄は、米国民のみならず同盟国及びパートナー国にとっても重要である”とした上で、“今回の提携が同地域の権益を擁護する一助となるはずだ”と、マレーシア側の懸念を押し戻すコメントをしている。
今回の米豪間原潜契約によって、複数の国から非難の声が上がっている。
まず、仮想敵とされた中国は、外交部(省に相当)の趙立堅報道官(チョウ・リーチアン、48歳)が、“著しく無責任な決定で、同地域の平和と安定を棄損する上、軍拡競争を増加させる”とする非難声明を出した。
また、米豪両国の同盟国であるフランスも、同契約によって仏豪間ディーゼル型潜水艦開発契約が反故にされたことから、厳しく非難する声明を発表している。
ジャン=イブ・ル・ドリアン外相(74歳)が9月16日、『フランスインフォ・ラジオ』(1987年開局)のインタビューに答えて、“今回の乱暴で一方的、かつ前例のない決定は、トランプ前大統領が良くやっていた狼藉を思い出させる”とし、“同盟国間ではあり得ない事態で、非常に怒りを覚える”と表明した。
この報道に引き続き、フランスは9月17日、在米国及び在豪州フランス大使を本国に召還することとしている。
同外相は、“エマニュエル・マクロン大統領(43歳)の指示で、今後の対米国及び対豪州政策につき協議するため、両国駐在の大使を召還することとした”と付言した。
これに対して、国務省のプライス報道官は、“フランスの立場は理解しているし、フィリッペ・エティエンヌ大使(65歳)を召還する予定であることも承知している”とした上で、“フランスは米国の大切なパートナーであり、今後も両国関係を最大限重要視していく”とツイートしている。
一方、シンガポール外務省は、新たな米豪契約を評価すると表明している。
同省によると、リー・シェンロン首相(李顕竜、69歳)が今週モリソン首相と電話会談し、同契約によって“同海域に確実な平和と安定がもたらされることを切望している”と伝えたという。
9月19日付マレーシア『マレーシア・ニュース.ネット』:「マレーシア首相、新たな米英豪安保協定が地域の脅威になると懸念表明」
米国・英国・豪州3ヵ国は9月15日、「インド太平洋地域の平和と安定の維持」に向けた新たな安全保障の枠組み(AUKUS)を構築すると発表した。
豪州は、AUKUS協定の下、米英から原子力潜水艦の技術提供を受けることになる。
これを受けて、マレーシアのヤアコブ首相は9月17日、豪州のモリソン首相との電話会談において、“AUKUSによって、アジアの大国に更なる攻撃的な行動を取らせることになるばかりか、結果としてインド太平洋地域に核軍備競争をもたらす恐れがある”と懸念を伝えた。
マレーシアの他、インドネシアやロシアも懸念を表明し、「核拡散防止条約(NPT、注後記)」に準拠するよう求めた。
なお、フランスは、AUKUS成立に伴って、2016年に豪州と合意していた、ディーゼル型潜水艦12隻の共同開発契約(契約金額660億ドル、約7兆2,600億円)が破棄されることになったことから、著しく激怒している。
(注)NPT:核兵器廃絶を主張する政府及び核兵器廃絶運動団体によって、核兵器廃絶を目的として制定された条約(正式名称は「核兵器の不拡散に関する条約」)。核保有国は核兵器の削減に加え、非保有国に対する保有国の軍事的優位の維持の思惑も含めて核保有国の増加、すなわち核拡散を抑止することを目的として、1963年に国連で採択。関連諸国による交渉・議論を経て1968年に最初の62カ国による調印が行われ、1970年3月に発効。日本は、1970年に署名し、1976年に批准。
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これまで何度も報じたとおり、南シナ海領有権問題に関し、フィリピンが提訴した国際仲裁裁判所(PCA)の裁定が下される瞬間が間近に迫り、米中間の応酬が激しさを増してきている。そして、中国派、反中国派が混在する東南アジア連合(ASEAN)においても、いよいよ旗幟を鮮明にしようとする動きが出てきている。
6月15日付米
『ロイター通信米国版』:「ASEAN、南シナ海問題に懸念表明の共同声明文を撤回」
「・中国とASEANの特別外相会議が6月14日、昆明(雲南省)で開催。
・当初、南シナ海の一方的な海洋活動によって、同海域の平和と安定が阻害されていることに重大な懸念を有するとの共同声明文が、マレーシア外務省からリリース。
・しかし数時間後、同省報道官が、同声明文を至急変更する必要が出たとして撤回。...
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6月15日付米
『ロイター通信米国版』:「ASEAN、南シナ海問題に懸念表明の共同声明文を撤回」
「・中国とASEANの特別外相会議が6月14日、昆明(雲南省)で開催。
・当初、南シナ海の一方的な海洋活動によって、同海域の平和と安定が阻害されていることに重大な懸念を有するとの共同声明文が、マレーシア外務省からリリース。
・しかし数時間後、同省報道官が、同声明文を至急変更する必要が出たとして撤回。
・ただ、それ以降新たな声明文のリリースはなく、各国が個別にコメントを発表する事態。
・中国外交部の陸康(リュー・カン)報道官は、同会議は非公開であり、初めから共同声明文が準備される話となっていなかったとコメント。
・ベトナム外務省は、南シナ海での軍事拠点化に重大な懸念を表明するとの声明を発表したが、シンガポールとインドネシアは、平和と安定維持のためASEANと中国間で対話は継続すると、少々トーンダウンしたコメントをリリース。」
同日付英
『UKニュース』(
『AFP通信』記事引用):「ASEANの南シナ海問題に関わる声明文が撤回」
「・撤回前の共同声明文案には、国連海洋法条約(UNCLOS)を含めた国際法に基づき、南シナ海における平和、安全保障、そして航行の自由が保たれることの重要性を強調する、との文言。
・中国の陸報道官は、
『AFP通信』がリリースした共同声明文原稿は、ASEANの公式のものではなかったと主張。」
同日付マレーシア
『マレーシア・ニュース』(
『ニュース24』記事引用):「ASEAN、南シナ
海問題を批判する声明文を撤回」
「・中国は当初から、南シナ海問題をASEANグループではなく、個別の国との交渉をリクエスト。
・しかし、中国外交部がASEANの公式声明文ではないと主張した、当初リリースの共同声明文案には、ASEANグループとして南シナ海問題を国際法に基づく解決を望む等、中国と真っ向から対立する表現を使用。」
一方、同日付中国
『チャイナ・デイリィ』:「(南シナ海)海洋問題は対話で解決が可能」
「・25年目に当る中国・ASEAN特別外相会議が昆明で開催。
・これまでの同会議を通して、中国側とASEAN側の協力関係が構築。
・南シナ海問題についても、関係外の国の介入で相互信頼が損なわれかねない事態もあったが、今後も関係国間の対話を通じて、協調していくとの共通理解。」
最初に共同声明文案がメディア報道されてから、中国外交部の慌てふためく様子、そして同声明文を撤回に追いやった恫喝行為がまざまざと目に浮かぶ。同外交部は、世界40ヵ国以上が中国支持を表明しているとするが、経済力等で縛りを強くしていかない限り、“中国離れ”がそこかしこで起き始めていると言える。
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