中国の習近平国家主席は、社会主義法制度の構築に関する共産党上層部の研究会で、中国が法的手段を使って国際闘争を行う必要があると述べ、外交問題に関連する法律を改正し、特に制裁や外国からの干渉など緊急な分野に重点を置くよう指示した。
香港メディア
『サウスチャイナモーニング・ポスト』によると、習近平国家主席は研究会での演説で、「我々は国際闘争を行うために法的手段を用いなければならない」と述べ、「最も緊急性の高い課題を優先するというルールに従い、対外関連の法制を強化し、制裁、干渉、法的管轄に対する法規をさらに完備させなければならない。国際的には、世界は変革の激動の時代に入り、国際競争はますます制度、規則、法律の競争という形で行われるようになっている」と述べた。
習近平は、中国の海外利益を守るための「セキュリティ・チェーンの拡大」のために、二国間関係に法的協力を取り入れることも呼びかけた。また、対外的な法律問題に対応できる人材の育成を強化するよう呼びかけた。なお、デジタル経済、電子金融、人工知能、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなど、従来とは異なる分野での国内での立法活動の強化を要請し、「弁護士に対する政治的指導を強化し、中国共産党と社会主義法制度を自主的に支持するよう導き、党と国民がともに満足する弁護士となるよう努力しなければならない」と政治的忠誠心の確保も指示した。
『サウスチャイナモーニング・ポスト』は、中米両国は、地政学的・経済的な面や価値観をめぐって、制裁などの法的手段に訴えることが多くなり、緊張が高まっている中で、習近平の呼びかけが行われたと伝えている。
一方、米『エポックタイムズ』は、習近平の発言は、ますます多くの西側諸国が人権侵害に関与する中国共産党職員に制裁を課し、国家安全保障上のリスクをもたらす中国企業に貿易制限をかける欧米諸国が増える中の発言だったと伝えている。
近年、中国共産党の役人と国営企業は、人権侵害と貿易違反について西側諸国から制裁を受けている。 2021年6月、中国政府はその対抗策として、一連の「反外国制裁法」を打ち出している。中国は、中国の人権侵害に対する外国の批判を内政干渉だと反論している。
米誌『アトランティック』は、米国をはじめとする自由主義の欧米では、「法の支配」という概念で動いていると指摘している。社会が正しく機能するために不可欠なものであり、少なくとも理論上は、法律は公平で独立しており、すべての人に均一かつ一貫して適用され、無実の人を国家からも含めて守るために機能しているという考え方である。一方で、中国の指導者は「法による支配」という概念に従っており、法制度は共産党の支配を保証するための道具であり、裁判所は政府の意志を押しつけるための場だという。国家はやりたい放題で、それを正当化するために「法律」の中に政府に都合の良い文言が使用されているという。
『アトランティック』は、75年間、米国は世界のルール作りと執行を自任してきたと伝えている。「第二次世界大戦のような世界的な大虐殺を防ぐために、アメリカは、共通の規範で固められた世界秩序を構築しようとし、その規範を制定し維持するための国際機関も設立した。それを支えるのは、米軍の力である。この秩序は不完全であり、アメリカを含むさまざまな国によって乱用されてきた。しかし、大国間の争いに蓋をし、経済的繁栄と民主主義の原則を地球の大部分に広めてきたのである。この秩序は、多少ボロボロになりながらも、バイデン政権が今日の民主主義サミットなどで維持しようと努力しているものである。」
しかし、「アメリカのルール作りにおける独占は今、ソ連崩壊以来の厳しい試練に直面している」という。「中国が台頭するにつれ、中国政府はグローバル・ガバナンス、開発、国際関係に関する独自の概念を推進し、国連などの機関に影響力を持ち、これらの概念を世界の言説に吹き込み、増大する富と軍事力を利用して、アメリカの世界システムの既存の規範に対抗しようとしている。」
同誌は、根本的には、国、企業、個人が地球規模でどのように相互作用するかを導く原則や教訓のことであり、世界は「法の支配」と「法による支配」のどちらになるかをめぐる競争なのだと伝えている。
閉じる
シンガポール人のディクソン・ヨウは、中国工作員としての活動を行っていたとして米国で逮捕され禁固刑を受けた。刑期を終え、シンガポールに帰国したところシンガポール当局によって昨年12月に拘束されたが、その約1年後、条件付きで釈放された。
シンガポールのニュースサイト
『インデペンデントSG』によると、40歳のヨウは、米国で14ヵ月の実刑判決を受け、2020年12月30日にシンガポールに帰国後、内務省の国内安全局(ISD)によって拘束された。
香港の『サウスチャイナモーニング・ポスト』と米『エポックタイムズ』によると、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策学院の博士課程に在籍していたヨウは、2015年にオンラインの専門家のネットワークサイトを通じて、海外から声をかけられ、その後、中国で開催された学術シンポジウムに招待され、そこで報告書を書くように持ちかけられたという。ヨウはその後、2016年から2019年にかけて、「相当額」の金銭と引き換えに、外国の依頼人から与えられたさまざまな仕事を遂行し、情報を調達し、主に世界および地域の地政学的問題や開発について報告書を提供するなどしていた。2018年には架空のコンサルタント会社を立ち上げ、専門家向け交流サイト「リンクトイン」に偽の求人情報を掲載した。400枚以上の履歴書を受け取り、その多くは米国政府や軍に雇用され、機密情報にアクセスする権限を持っている人たちだったという。その中から、中国の工作員に役に立つ情報を提供してくれそうな人物達を選んでレポートを依頼していたという。また、海外からの依頼人の指示のもと、自身も機密情報により触れやすい官職につこうと試みたが、採用されることはなかったという。
ISDは、シンガポールを標的にしたり、シンガポール人を代理人として使って外国の利益を追求したりしようとする試みは目新しいものではないが、今回の事件は、ソーシャルメディアの普及によって、外国の情報機関が海外からでも潜在的な諜報員を見つけ出し、育て、養成することが容易になったため、その脅威がより顕著になったことを示していると述べている。「この脅威は、他のいくつかの国でも広く顕在化しており、退職した公務員や、機密情報にアクセスできる民間部門の個人が、ソーシャルネットワーキングサイトを通じて外国の諜報機関に狙われている。シンガポールの人々は、ソーシャルメディアのプロフィールを使って魅力的なビジネスやキャリアの機会を提供したり、機密情報を入手しようとしたりする外国のエージェントがもたらすこうした危険に警戒し続ける必要がある」と警告している。
『インデペンデントSG』によると、米司法省の国家安全保障局のジョン・デマーズ司法長官補佐は、「中国政府は、無防備なアメリカ人から機密情報を入手するために、さまざまな二枚舌を使っている。そのような計画の中心的存在であったヨウは、キャリアネットワーキングサイトと偽のコンサルティング会社を使って、中国に関心がある可能性のあるアメリカ人を誘い出した。中国政府がアメリカ社会の開放性を悪用しているもう一つの例だ」と説明している。
ISDによると、ヨウが接触した個人との面談やその他の関連調査からの情報は、本人が開示または認めた内容をほぼ裏付けているとし、彼が外国人エージェントとしてもたらす脅威は効果的に無効化されたと判断されたと説明している。そのため、「拘束を続けるに値する」安全保障上の脅威をもたらすことはないと判断したという。ただし、勾留命令はまだ有効であり、ヨウが釈放の条件のいずれかにでも従わない場合、内務大臣は釈放を取り消し、再び勾留することができる。
閉じる