インドの左派野党が、2022年の前半に予定されている地方選挙を前に、有権者を惹きつけるための独自の香水を発売した。野党は、この香水で与党インド人民党(BJP)が広めた「憎しみを終わらせる」ことができ、「兄弟愛、愛、社会主義の香り」を広めることが出来ると主張している。
『AFP通信』とインド
『ファイナンシャル・エクスプレス』によると、インドの社会主義のサマジュワディ党は、2022年に予定されている北部ウッタル・プラデーシュ州での選挙にちなんで、「22のナチュラルエッセンス」で構成された香水を発売した。同党の色である赤と緑を基調としたボトルには、自転車をモチーフにした選挙用のロゴが刻まれている。
地元の党議員であるプシュプラジ・ジャイン氏は記者会見で、「これを使えば、空気中の怒りや憎しみを打ち消すことができるでしょう」と語り、ジャーナリストや党員に香水を配布した。次の選挙が行われる2024年には、24種類のナチュラルエッセンスを使用した別の香水を発表する予定だという。
ウッタル・プラデーシュ州は、約2億3千万人の人口を抱える国内で最も人口の多い州である。インドの独立以来、8人の首相を輩出してきたウッタル・プラデーシュ州の選挙は、ニューデリーの政権の人気を測るバロメーターとされている。インドでは、政治家や政党は勝利のためにあらゆる努力をし、お金を含む様々な贈り物が許されているという。
ウッタル・プラデーシュ州の首相は2017年から、49歳のヒンズー教の僧侶であるヨギ・アディツアナス氏が務めており、インド人民党が統治している。アディツアナス氏はモディ氏の親友で、イスラム教徒に対する厳しい発言で知られている。来年2月か3月に予定されている選挙で勝利を収めれば、モディ氏(71歳)の後継者になれる可能性があると見られている。
『インディアTV』によると、同州のディネシュ・シャルマ副首相は、サマジュワディ党の香水について、「憎悪、共産主義、宥和、犯罪、汚職の匂いは、どんな香水を使っても前政権から取り除くことはできないだろう 」と述べている。そして、「野党は様々な組み合わせで同盟を結んできたが、州議会選挙でも国会議員選挙でも毎回負けている」と付け加えている。
インド日刊紙『インディアン・エクスプレス』は、「野党党首は、選挙公約を掲げたり、与党の政策を打ち負かそうとしたりするのではなく、香水を発売することで、穏やかに選挙モードに入った」と伝えている。そして、かつての社会主義のリーダー達は「平等な社会の構築を促した。憲法の前文には、政治家たちの願望と戒めが込められている。1990年代以降、その理想は縮小してきた。そして、社会主義の最も熾烈なイデオロギー上の敵でさえ、このように無用の長物として瓶詰めにされるとは想像もしなかっただろう。」と痛烈に批判している。
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新型コロナウィルス(COVID-19)感染が吹き荒れる中、世界の物流を担う海運業にも深刻な影響が出ている。コンテナ船の船員が感染禍を理由に上陸を拒まれて交代船員の手当てが滞ったり、港湾や陸上輸送トラックの従業員が感染禍で労働力不足に陥っているため、コンテナ船の貨物揚陸・積載ができずに沖待ちを強いられる等に遭っている。そうした中、一年のうち最大の繁忙期とされるクリスマスシーズンでの貨物輸送が危ぶまれ始めたが、世界最大の海運業トップが問題は生じないだろうと力強く表明した。
11月3日付
『BBCニュース』:「海運業トップ:“クリスマスシーズンの貨物輸送は問題ない”と発言」
世界最大の海運会社マースク(A.P.モラー・マースク、注1後記)のトップが『BBCニュース』のインタビューに答えて、“顧客等関係者から聞いている限り、クリスマスシーズンの貨物輸送は問題ない”と表明した。
同社は、世界のコンテナ船の約20%を運航する最大手である。
この発言の根拠として、同社のソーレン・スコー最高経営責任者(CEO、57歳)は、同社が更に多くのコンテナ船をチャーターし、受け入れ先の港湾の操業時間が長く伸ばされ、かつ、より多くの倉庫が設営されているからだ、とする。
COVID-19禍や英国の欧州連合(EU)離脱もあって、港湾等での労働力不足のために多くのコンテナ船が沖待ちを強いられ、英国や米国ではクリスマスシーズンの貨物輸送に支障が生じると懸念されている。
英国の道路輸送協会(1945年設立)の調査によると、同国では10万人以上の有資格運転手が不足していて、これまではEU移住者数千人も従事していたが、Brexit後ほとんどが帰国してしまったことも要因であるという。
また、欧州や米国においても有資格運転手不足の問題が生じている。
スコーCEOによると、これら事情もあって、約300隻の大型コンテナ船が世界の港で沖待ちを強いられていて、うち80隻はロスアンゼルス港、また、“数隻”が英国南東部のフェリクストー港(英国最大のコンテナ港)、そして数十隻が上海、寧波港(ニンポー、浙江省)で滞船しているという。
この背景には、COVID-19禍初期段階で輸送チェーンに支障を来し、その後、世界各国で都市封鎖等に伴う自宅待機措置が取られたため、多くの人が自宅で使う消耗品を大量に注文することとなって、更に輸送態勢をひっ迫させてしまったとする。
スコーCEOは、“消費者の注文事情は依然強く、一方で、メーカーや小売業者の在庫量は依然低いため、この問題が改善されるような兆しは見えない”と言及している。
かかる事情もあって、マースク社やその他の海運会社への輸送注文が殺到しており、同社の7~9月期の収益は59億ドル(約6,730億円)と5倍増となっている。
また、日本の海運会社オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(2017年、川崎汽船・商船三井・日本郵船3社が共同設立した定期コンテナ船事業会社)は先週、同四半期の収益が42億ドル(約4,790億円)と8倍増に上ったと発表している。
しかし、英国最大の玩具販売店エンターテイナー社(1981年創業)は、同国港湾でのコンテナ陸揚げ遅延のためにクリスマスシーズンの配送に支障が出ると懸念を表明している。
なお、ロスアンゼルス港では、滞留貨物を捌くべく24時間操業に変更している。
一方、英国の輸送コンサルタント会社ドゥルーリーのコンテナ調査担当シニア・マネージャーのサイモン・ヒーニー氏は、マースク社が示す改善策では不十分だと指摘した。
同氏によると、“世界の港湾での混雑問題は更に深刻化していて、また、沖待ちを強いられる大規模埠頭の数が益々増えている”という。
この背景のひとつに、中国の大規模埠頭がCOVID-19禍に伴う都市封鎖や異常気象によって一時的に閉鎖されただけでなく、その後のデルタ株ウィルス(インドで発見された変異株)の蔓延で更に状況が悪化しているからだと同氏は言及している。
ところで、気候変動問題であるが、世界の物流の90%を担う海運業界は、世界の二酸化炭素排出総量(約335億トン)の約2%を占めている。
これを国別排出量で比較すると、6位のドイツを上回る位置にあると言える(編注;①中国28.4%、②米国14.7%、③インド6.9%、④ロシア4.7%、⑤日本3.2%、⑥ドイツ2.1%、⑦韓国1.8%、⑧イラン1.7%、⑨カナダ1.7%、⑩インドネシア1.6%)。
そこで、国連傘下の国際海事機関(IMO、注2後記)は、海運産業が排出する温室効果ガスを2050年までに2008年比で▼50%削減するとの目標を立てている。
しかし、世界の首脳がグラスゴーで開催のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)に集結して気候変動問題を協議していることもあって、マースク社のスコーCEOは、世界の海運産業を管轄するIMOが立てた目標値は“限定的過ぎる”と批判的である。
同氏は、“マースク社は2050年までに100%削減(すなわち排出量ゼロ)を目指している”とし、“それは可能だと信じている”と言及した。
COP26に出席しているデンマークのメッテ・フレデリクセン首相(43歳)も11月1日、“IMOに対して、2050年までに排出量ゼロを達成するという意欲的な目標を掲げ、そのために必要な対策を講じるよう要求する”と発言している。
なお、国際海運会議所(ICS、注3後記)は、脱炭素の海運事業の発展を目指して必要な技術革新等に充てる基金として50億ドル(約5,700億円)を拠出している。
この支援もあって、マースク社は2023年には世界初のカーボンニュートラル貨物船(再生可能エネルギーを燃料)を進水させる計画を発表している。
(注1)A.P. モラー・マースク:デンマークの首都コペンハーゲンに本拠を置く海運コングロマリット。1904年創立。1996年以来2021年現在に至るまで売上高世界一の海運企業であり、コンテナ船部門に強みがある。世界125カ国に拠点を置き、コンテナ船のほかにもタンカー、車両運搬船など全部で約250隻の船舶を保有(運航しているコンテナ船は約550隻)。海運以外にも流通、造船などを手がけている。
(注2)IMO:海上の安全、船舶からの海洋汚染防止等、海事分野の諸問題についての政府間の協力を推進するため、1958年に設立された国連の専門機関。本部はロンドン。
(注3)ICS:船主の利益増進のため、国際的な問題について意見を交換し、政策を立案、また他の国際団体の審議へ参加する等を事業目的としている団体。1921年に設立され、本部はロンドン。各国の民間船主を代表する正規の組織された団体だけを会員としている。これまで、海運に対する二重課税の相互免除、国旗差別待遇、国際船腹安定計画が取上げられた。日本船主協会は 57年に加盟。
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