中国は、国際社会から孤立させられつつあるロシアについて、表向きでは“盟友”として支持する立場を表明している。しかし、たとえロシア国有企業が関係しようとも、こと南シナ海の領有権問題は全く別とばかりに、ベトナム国有企業との共同事業体の原油・天然ガス田区画域に堂々と中国資源探査船団を送り込んでいる。
5月26日付
『Foxニュース』、
『ニュースマックス』、
『ロイター通信』等は、中国が、盟友ロシアの国有企業が関与している南シナ海原油・ガス田であろうと、中国主権が優先されるとして構わず天然資源確保のための探査活動を断行している旨報じた。
中国の海洋資源探査船“向阻紅-10(シァンヤンホン)”は5月7日より、10隻以上の随行船に守られながら南シナ海のベトナム沖の同国排他的経済水域(EEZ、沿岸から200海里、約370キロメートル)内に進入して探査活動を進めている。
同海域には、ベトナム・ロシアの共同事業体「ベトソビペトロ(注1後記)」及び「ベトガスプロム(注2後記)」の原油・天然ガス田があるが、中国船団は全く頓着せずに同事業体の区画域を自由に横断・行き来している。
前者はベトナム国営石油最大手ペトロベトナム(1977年設立)とロシア国有石油・天然ガス企業ザルベズネフチ(1967年設立)の、また後者はペトロベトナムとロシア国営天然ガス生産・供給企業ガスプロム(1989年設立)の共同事業体である。
この事態に関し、ベトナム政府は看過できないとして5月25日、中国側に対してベトナムEEZ域内より即刻退去するよう文書で通告した。
また、当該文書発信前の5月22日には、ロシア前大統領のドミトリー・メドベージェフ現国家安全保障会議副議長(57歳、2020年就任)がベトナムを訪問していた。
しかし、中国船団はそれをも無視して、5月26日に再び「ベトソビペトロ」の原油・天然ガス田区画域に進入してきている。
この件について、スタンフォード大(1891年設立の私立大学)の中国海洋進出問題研究専門のレイ・パウェル教授は、2019年以来の深刻な中国側領海侵入であり、事態が“更に悪化”することを懸念するとコメントした。
2019年には、中国船団がロシア国営石油最大手ロスネフチ(1993年設立)とペトロベトナムとの共同開発油田区画域に無断侵入し、3ヵ月以上も睨み合う事態が発生していた。
一方、中国外交部(省に相当)の毛寧報道官(マオ・ニン、50歳、2022年就任)は5月26日の定例記者会見で、“南シナ海・スプラトリー諸島(南沙)のほとんどに中国主権が及ぶ”とした上で、“海底資源探査船団は中国主権内において法に則って業務を遂行しているだけであり、他国のEEZに無断進入している等の問題は一切ありえない”と強調している。
なお、国際法上は、他国の船舶がある国のEEZ内を無害通航する場合は、それを容認することが定められている。
(注1)ベトソビペトロ:1981年にベトナム・ソ連が合意した原油・天然ガス開発共同事業体。2010年に2030年まで更に20年間契約延長に同意。2021年実績で、原油310万トン、天然ガス91万立法キロメートルを生産。
(注2)ベトガスプロム:世界最大の天然ガス生産・供給企業のガスプロムとペトロベトナムとの共同事業体。
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