先週の高市総務大臣の発言が波紋を呼んだ。表現の自由を標榜するフランスでもシャルリエブド襲撃以来、表現の自由については賛否両論あるが、「ルモンド紙」はこの発言を単なる一大臣の見解ではなく、2011年以降強まる安倍政権の報道規制の問題として取り上げる
『ルモンド紙』は、「高市大臣が政治的な公正を尊重しない番組の放送中止を、放送法第4条により放送の中止を命じる可能性」に言及した事を報じ、大臣が「私が命じる可能性は殆どないが、私の後任の大臣が命じない保証はない」と発言した事を「メディアに対する脅迫以外の何物でもない」との民間テレビ局に近い筋の見解を引用する。
また「安倍首相と菅官房長官が高市大臣の擁護のために矢面に立った」事を報じ、「最も厳しい締めつけでメディアを監視する安倍政権では、今に始まった事ではない」と評するように、「ルモンド紙」は現在の日本の報道の自由が政府の多大な干渉を受けると見る。...
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『ルモンド紙』は、「高市大臣が政治的な公正を尊重しない番組の放送中止を、放送法第4条により放送の中止を命じる可能性」に言及した事を報じ、大臣が「私が命じる可能性は殆どないが、私の後任の大臣が命じない保証はない」と発言した事を「メディアに対する脅迫以外の何物でもない」との民間テレビ局に近い筋の見解を引用する。
また「安倍首相と菅官房長官が高市大臣の擁護のために矢面に立った」事を報じ、「最も厳しい締めつけでメディアを監視する安倍政権では、今に始まった事ではない」と評するように、「ルモンド紙」は現在の日本の報道の自由が政府の多大な干渉を受けると見る。また「安倍首相に極めて近い籾井氏を国営のNHKのトップに就任させ、2013年に特定秘密保護法を成立させた」事をその象徴と位置付け、降板するNHKの“クローズアップ現代”の国谷裕子キャスターや、TBSの“ニュース23”の岸井、膳場両キャスターが「日本国民はアベノミクスの恩恵を享受していない事を示す世論調査を放送した」事は、「公正さを欠く報道」ではなく、「報道介入の標的となった」と見る。特に「米軍基地問題に批判的な沖縄の地方紙と中道左派の朝日新聞を黙らせるための糾弾と介入は容赦なかった」と総括する。
「ルモンド紙」は中道左派のインテリ層を読者に持つと一般的に言われるが、日本の報道の自由に対するこの見解は「ルモンド紙」の政治信条のみからきた訳ではなく、NGOの「国境なき記者団」が毎年発表する“国別報道自由ランキング”を根拠の一つとする。2010年以前には一桁台にいた事もある日本が2011年以降急落し、「2015年には61位まで順位を落とした」と報じる。
国境なき記者団は、言論や報道の自由を擁護する事を目的とするNGO団体で、記者への暴行、誘拐、拘束が増加したのを受けて、1985年にフランスの記者メナール氏の呼びかけで設立された。報道の自由の監視・警告に加え、取材で拘束された記者家族への支援が主な活動で、毎年「世界報道自由ランキング」を発行する。また中国の厳しい報道規制に対して様々な抗議活動を実施した事でも知られる。メナール氏は元々記者クラブの制度を「報道の自由を疎外する」と強く批判してきた。日本では記者クラブ、フランスでは内務省下の認定記者証審議会が発行する記者証がこれにあたるが、「取材する記者が限定される」以上、「検閲と同じこと」と考える。
国連や人権団体へ随時状況を報告し、財源は、11%が仏政府やEU機関、ユネスコや難民高等弁務官事務所の国連機関、19%が米国そのた欧米各国政府やソロス財団などの寄付でまかなっており、国際社会への一定の影響力を持つ。2011年福島第一原発事故に関連する報道規制と、2013年秘密保護法による政府の情報開示の不透明に対して、既に国境なき記者団は警告した。現在先進国では最下位である。「個人への中傷と暴力の二つ以外で、言論に制限があってはならない」と考えるメナール氏率いる国境なき記者団の評価への賛否や批評はあるにしても、2011年以降の急落は重い。
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